第三十九話
「第三十九話」
・エレナ視点
「我々は、命によりエヴァンシールを殺しに行きます。」
現状のエヴァンシール家は最弱だ。
最強のヴァルモンド家を凌駕できるわけがない。
「へぇ~。随分な話だね。五家のバランスが取れていないことは分かっていたけど、どうして一番遠いはずのエヴァンシール家を?」
「今後邪魔になると考えました。そういう『予知』が見えたのです。」
「そう。まぁ、間違っちゃいないか。」
「え?」
「ああ。多分私だよ。“ノルドハイム”へ行くついでにエヴァンシール家とコンタクトを取ろうと思ってね。それが、よくない未来へとつながるのかな。」
「あなたは………」
何が言いたいのかは痛いほどよくわかる。
トラブルメーカーと自分で言いたくはないけど、ヴァルモンド家には歴史上一番迷惑を掛けている自負がある。
それに、追って迷惑を掛けようとしているのだ。
小言では済まされない。
「……自分が何をしているのか理解できていますか?」
「もちろん。私は商売のために、他者を喰らう商人だ。ヴァルモンド家程度を恐れていたら何もできない。」
「あなたは……はぁ……」
「ため息が多いね。大丈夫?」
「元凶にそう言われるとイラッと来ます。」
「それは残念だ。私には悪意が無いからね。身に覚えがない。」
「ちっ」
ついに舌打ちがでた。
数十年前とは言え、上司であったのに。
「怖……そんなに怒ったらしわが増えるよ?」
「いちいち煽らないでください。気にしているんですから。」
「乙女だなぁ」
「随分と余裕ですね。」
「そう?」
「ええ。そう見えます。まるで、捕まっていないみたいだ。」
「そりゃね。私には相棒が居るからね。彼が捕まったお姫様を助けてくれる。」
「お姫様って……相棒!?あなたにそんな存在が居るのですか!?」
「もちろん。とびきり優秀な人がね。」
「ぷっ。」
「笑った?」
「いや、失敬。あなたには向かないセリフだと思いましてね。」
「酷いなぁ~。でも良いよ。許してあげる。彼は絶対に助けてくれるからね。」
「それはおそらくできませんよ。」
「どうしてだい?」
「こちらには人数がいますし、結界師も十人ほど居ます。そちらの御仁がどのような者かは知りませんが、勝ち目はない。」
「そっか~残念だな~」
「……まだ、余裕を見せますか。」
「うん。当然。君たちは勝てない。断言するよ。」
「っ!!」
サーモが私の胸倉を掴む。
そのまま睨みつけてくる。
「ふざけるな。」
静かな声だった。
しかし、はっきりと怒りを表現していた。
「なぜ、仲間と思ってすらいなかった私を嗤って、他の人間と手を繋いでいる……私の方が優れているのに……どうして!!」
「……」
「私は、あなたに認められたくて努力したんだ!!!それがなんだ!!相棒!?ふざけるな!!私なんか見ていなかったくせに!!!」
「……悪いね。」
壁へと押し付けられる。
しかし、痛みは来ない。その代わりに、非道だと訴える目でこちらを覗いてくる小動物が居た。
「私は!私は!!!あなたについて行きたかった!!!それを聞きもせずに受け流し!!そのうえで軍を逃げたあなたに!!!私は!!!」
「分かった。悪かったよ。でも、私は後悔なんてしていない。」
「っ!!」
再度壁へと叩きつけられる。
次はちゃんと痛かった。
「禁書なんてどうでもよかった!!罪人なんて関係なかった!!裏切ったことなんかどうでもいい!!ただ、あなたの隣に居たかっただけなのに!!!」
「……」
「なんとか言ったらどうですか!!!!」
「……そうだね。君は優秀だったよ。」
「じゃあ!!!!」
「それでも、ダメなんだ。どうしても。私の相棒にはふさわしくなかった。だから、君のことは眼中になかった。」
「っ!!!」
「襲撃です!!!」
ドアを勢いよく開け、兵士が入って来る。
その兵士を睨みつけるようにサーモが言う
「ヘルは子供を連れていたと報告がありましたね。」
「え、えぇ。はい!その通りです!!」
「分かりました。」
呼吸を整え、気合を入れて私を殴った。
地面へと倒れてしまう。
「そのガキを私の前まで連れてきなさい。」
「は!」
「早くしろ!!!!!」
「は、はい!すぐに!」
兵士は逃げて行ってしまった。
「痛たた……」
殴られたところが赤色になっている。
腫れなければいいのだけれど。
「ガキ一人で何ができる……私が、私の方が優秀なんだ。私こそが、ヘルのそばに……」
「その少年の名前はノア。私の相棒兼想い人さ。」
サーモが無言で蹴とばしてきた。
転がった私を軽蔑した目で見てくる。
そのまま上に乗っかって来る。
「私は、あなたの相棒を殺します。」
「できるかな?君なんかに。」
上に乗られ身動きができない状態で、殴られる。
一発。また、一発と。
「ふざけるな。ただのガキに何ができる。こちらは軍隊だぞ。十人以上の結界師相手に逃げないか見ものですね。」
「そうだね。でも、彼はそこまで来てる。」
「はっ。笑わす。私には、そのガキにはない力がある。絶対的な、完璧な。あなたの相棒ごときっ!!」
ドカン!!
壁をぶち抜いて二人の男が入って来る。
一人は血を出しながら、白目をむいている。
もう一人は、見ない日などなかった人物。
ノアである。
相手の返り血を受けながら、なんでもない顔で殺戮の限りをつくす。
私の相棒だ。
「遅い。」
「黙れ。」




