第三百十三話
「第三百十三話」
・ノア視点
男の顔を地面にめり込ませる。
視線を上げると、間髪入れずに弾丸が飛んできた。
『白紙・隼』
弾丸を避けながら、発砲をしてくる男に近づいた。
落ちている剣を拾って、銃を切り裂き、腹に拳をぶつけて泡を噴かせた。
「まだまだ来るな……」
最初に見えた二十人ほどを気絶させたが、ぞろぞろと他の軍人まで集まってくる。
ピエトと離れて三十分ほどが経過したころ合いだろうか。
避難は終わってるだろうな。
広く使っても怒られないか。
『白紙・龍』
口を開くと炎が噴き出る。
体が鱗の様に固くなる。
空高く昇り、肺いっぱいに空気を取り込み、向かって来る者に吐き出した。
芝生は燃え、建物が崩れ、ガラスは割れる。
退避行動をする軍人を見て、隊列が崩れる数人を狙うことに決めた。
急降下し、手に力を込めて殴ろうとするが、水の球が頭に覆いかぶさった。
「!?」
目の前の男が手を叩くと、後方に吹き飛ばされた。
腹の中心で手榴弾が爆発したみたいな痛みだった。
「っ……」
地面に転がった衝撃で水の球が消え、ようやっと息が吸えた。
「かはっ……はぁ……はぁ……」
「『結界・衝波』」
「『結界・水球』」
「『結界・格闘』」
立ち上がって態勢を整える。
向かって来る三人と応戦する。
距離を詰めてきたのは小柄な男だった。
脇を締め、両拳を目の前で固定したような、独特の構えで懐に入られる。
肘を動かさず繰り出されたパンチは音速を超える。
シュ!シュ!シュ!
およそパンチの音とは思えない風が耳の横を通りすぎる。
鼓膜が破れたのか、左耳が一切聞こえなくなった。
既にかなり接近していると言うのに、更に近づいてくる。
次第に避けきれなくなり、耳を拳がかすった。
「っ!!」
耳が千切れ、飛んでいく。
耳が地面に激突するまでに、五発の拳を避けた。
パン!
誰かが手を叩く。
すると、背後で爆発が起きたみたいな激痛と衝撃で前傾姿勢になった。
顎を突き出すその姿勢は随分と殴りやすかったようで、拳が顔面いっぱいに命中する。
空を切った利き腕のストレートはミシミシと音を立てながら直進してきた。
「かはっ……」
歯が二本ほど折れ、鼻が曲がる。
目は問題ないようで、見開くことができた。
目の端で水の球をバウンドさせながらこちらを凝視している男を見つけた。
斜め上にその球を上げると左手を前に出し、跳躍する。
あれは……エレナから聞いた……スポーツの構えか!?
確か……バレーのスパイク!?
男が球を撃ち抜くと、弾丸よりちょっと早い速度で直進してくる。
顔面に球が命中すると、纏わりついて呼吸をさせないようにしてきた。
藻掻いても無駄な水中。頭にだけ付けられ、次第に呼吸が荒くなる。
『白紙・鮫』
首筋に鮫の文様ができて、酸素を取り込み始めた。
「はぁっ………はっ……」
まずいな……甘く見過ぎてた。
向かって来るのは三人だが……周りは既に数十人に囲まれてるだろうな……
「しぶとい子供だ。」
「ああ。単騎で乗り込んでくるわけだ。」
「手抜きしてんじゃぁねぇだろうな。」
「するかよ。マジな一撃だったぜ?野郎……ただの顔面で受け止めやがった。首をへし折るつもりだったのになぁ……固いなんてもんじゃぁねぇ。コンクリート塀にノックしてるみてぇな固さだ。」
「二人とも落ち着きなさい。」
水球を跳ねさせながら跳躍する。
「我々の任務は遅滞だ。本隊が到着するまで時間を稼げば良い。」
男は水球を撃ち抜いた。
風を無視して発射された球は俺に向かって直進してくる。
その球を拳で貫いて、崩壊させる。
「「「!?」」」
「野郎……まだ動けるみたいだぜ?ピンピンしてやがる。踊り食いするときのエビみてぇによぉ。」
「弾丸でも壊せない『水球』を弾いた。距離を取ろう。接近戦はまずい。」
「いいや?面白れぇだろうがよぉ。」
男は再度拳を構えた。
「待て!!」
両拳の真ん中に自分の顔をはめ込んで、隙の無い大砲の球みたいに突進してくる。
片手を出して、パンチを止める。
「なっ!?」
ぐっと握ると、男の拳を潰した。
そのまま引き寄せ、フックで男を建物まで吹き飛ばした。
『白紙・猿王』
腕に猿の毛並みが生えてくる。
指も膨張して、大きくなった。
握ると、筋肉が反発して自分の手のひらの大きさを再認識できる。
「行くぞ。」
地面を殴って砂埃を起こす。
高く飛び上がって、炎を吐くと水球が蒸発して消えた。
退避行で一瞬の隙ができた二人の真ん中に飛び込んで、一人を地面に叩きつけ、一人を敷地外まで吹き飛ばした。
「はぁ……はぁ……」
膝をつく。
流石に、しんどいな。
次は……
『白紙・蝙蝠』
周囲の状況を把握するため、耳を澄ませた。
「やっべぇな。」
百を超える足音を感知する。
「指揮官!準備整いました!!」
「ったく……どこの馬鹿だ!?前線でもない訓練基地を襲撃するなんてよぉ!!」
車両に囲まれた場所で、無線を繋ぎながら男は感嘆する。
「分かりません……しかし、子供であるとの報告が!!」
「子供……?田舎のガキでも捕まえてボンバーマンにしようってのか!?」
「さぁ……ヴァルモンドでしょうか?」
「ちっ………被害は。」
「二十八。死者ゼロ。」
「舐められてんな……前線がクソ忙しいってのに!!スカッシュをぶつける。他は援護だ!!」
「は、はい!伝えてきます!!」
男は足早に去って行った。




