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第三百十二話

「第三百十二話」


・ノア視点


 ピエトは終始親切で、笑顔を絶やさなかった。

 目の前に居るのが、生意気な小僧であるにも関わらず、適当な相槌を打たず、会話を続けてくれる。

 真面目と言ってしまうのは簡単だが、それ以上に、誰もが目指すべき大人像を体現しているのだと思えた。


「ここだよ。」


 ピエトが案内を中止する。

 目的地へと到着したらしいのだ。


「ありがとう。助かった。」

「良いんだよ。」


 ピエトはしゃがむと


「それで?お兄さんの名前は?」


 目線を合わせて聞いてきた。

 そうだった。そんな設定だったか。


「親切に付け込むようで申し訳ないんだが、質問良いか?」

「……?

 もちろん良いけど……?」

「警察官の権限ってどれくらいある。」

「……ご、ごめんね……ちょっと言っている意味が分からないんだけど……」

「例えば、この軍施設に居る連中が止められないほどのテロリストがここにいるとして、もし暴れたとして、どれくらいの早さで無関係の一般人を周りから退けることができる?」

「む、難しい例え話だね……そ、そうだなぁ……」


 ピエトは「うーん」と唸りながら、立ち上がる。


「一人ではなんともならないと思うから、応援を呼ぶ時間も考えると三十分……いや、二十分かな。」

「そうか。」


 歩き出そうと一歩目を出すと


「例え話だよね……?」

「ああ。」

「でも……感覚的な話さ。決めつけは良くないと分かっているんだけれど、長い間警察官って職業をしているとなんとなく、人相を見るとそいつが悪人か否か分かる気がするんだ。」

「俺の顔はどうだ?悪人か?」

「そこが難しいところかな……敵であることは断定してもいいかもしれない。」


 ピエトは腰に携えた銃に手を伸ばした。


「しかし、悪であると言うことはできない。これが、感想だよ。」

「撃ち抜いてみるか?」

「………」

「哀れな子羊を撃つことはできないか。」

「哀れ……挑発的な物言いだね。そこまで卑下する必要があったのかな?」

「さてな。俺にだってわかんねぇよ。」


 背後からかちゃりと音がする。

 説明不要な音だった。


「撃てよ。」

「………えらく急かすじゃないか。」

「俺はその弾丸がどこに飛んでいくのか知っているからな。」

「狙った方向に決まっているじゃないか。」

「違う。自分だ。その武器は、弾丸を発射する機械じゃない。因縁を先送りにする道具だ。弾丸は跳ね返るぜ。俺が跳ね返すんじゃない。あんたが、因縁の弾丸を受けるんだ。」

「君は……もう受けたのか。」

「俺の分はまだだ。でも、神って存在を信用するなら、俺の弾丸だって取ってあるはずだ。脳天をぶち抜き、殺すための弾丸がな。因果の応報は誰しもが受けるべき宿命なんだ。避けられんさ。」

「それは罰か……?」

「いいや。恩赦……報酬かもな。」


 カチャと乾いた音が響く。

 ピエトが引き金を引いても弾丸は発射されなかった。


「僕だって弾丸を持ち合わせていない。」

「だろうな。人殺しには向かん顔だ。」

「……君は中で何をするつもりなんだ。」

「弾丸が飛んでくるまでに清算しなくちゃならん奴がいる。これは過程だ。特に何もしない。」

「………」


 「はぁ……」ため息を一つした後にピエトは銃をしまう。


「いいかい……二十分だ。」

「いくつも悪いな。助かる。」


 ピエトは無線を繋ぎながらどこかへ走っていく。

 その背中が見えなくなるまで待って、正面から侵入した。


「子供……?」


 門に入ると小屋で腰かけていた青年と目が合った。


「えぇっと……どうしたの?」

「あんた、結界師か?」

「これ。」


 青年は軍服を見せた。


「それがなんだ。」

「は?俺は軍人だぜ?結界師に決まってるだろ。」

「そうか。」

「あ~、さては坊主あれだな?超常的な力を使う俺らがかっこいいから見に来たんだろ。困るなぁ~、正直うれしいぜ。」

「………」

「でもな、安心しろ。」


 青年は重い腰を持ち上げ、近づくと俺の頭に手を乗せて


「坊主が大人になるくらいには軍服を着なくて良いようにしてやる。」

「めでたいことだな。」

「そうだろ?」

「ああ。その手始めとして、てめぇをぶちのめす。」

「………は?」

「顎出せ。殴りづらい。」

「………おいガキ。何言ってる。」


『白紙・猿』


 青年が手を離すと同時に、胸倉を掴んで引き寄せた。


「!?」


 近づいてきた顔面に拳を叩きつけ、青年を失神させる。

 数本の歯が飛んで、それを見た他の軍人も寄ってくる。


「二十分は静かにやらねぇとな。」


 二十人ほどの人間が駆け足で寄ってくるのを見て、気合を入れた。


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