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第三十一話

「第三十一話」


・エレナ視点


 悪意の塊。いや、これは正しくないな、無邪気の完成形とでも表現しようか。

 その人物と対面している。

 それが彼、ノアだった。

 止まらない笑み。止まらない震え。止めれない彼。

 体のすべてが危険信号を発している。


 『結界』はまず、四つのポイントを仕掛けなくてはいけない。そのポイントで綺麗な四角形を形成する。

 その中で、自分の思い通りの『魔法』を使うことが出来る。

 従来の『魔法』と違う点は、魔力を消費しないところだ。

 『結界』は大地の力を借りる。そうすることで術者にダメージが及ばない。以前の『魔法』では発動で死人が出るほどであったと言われているが、『結界』ではそのようなことは起こらない。


「エレナ。俺は間違ってたのか?」

「そうだね。ノアはどうしようもなく………いや、私が失敗したの。ごめんね。」

「なぜ、謝る。俺は、最高に気分が良い。過去にもこんなことがあったな。でも、思い出せない。思い出せないんだ。でも、どうしてだろうな。」

「ん?何が?」

「今は、お前から目が離せない。」

「あら~、告白?聞こうかな。そして、首を縦に振ろう。うん。そうしよう。」

「ああ。どうしようもなく、お前の臓器の色が欲しい。どうしてだろうな。どうしても、何があっても、誰に邪魔をされても、お前を解体したくて仕方がないんだ。」

「あら。お熱い告白だね。ちょっとキュンとしたよ。」

「じゃあ、許せ。首を縦に振ってくれるんだろ。」

「うん。こうなってしまったからね。私が元に戻すよ。」


 両者の笑顔。

 それは全く別の意味があった。


「死ね。」

「戻って。」


 ノアが走り込んでくる。

 この重力が狂った世界でも、通常の速度で走れる彼は、やはり、人間ではない。


 一撃目をかわし、二撃目をかわし、三撃目を受け止め、反撃する。

 腹にパンチするが、よろめきもしない。

 流石に、堅い。


 ノアは私の手を握ると、そのまま引きちぎった。

 腕ごと。

 私の可愛い右手が飛んで行った。


「ああ。やっぱり、良い色してる。」

「あら。うれしい。」


 引きちぎった腕を地面へと捨ててしまう。

 ノアは再度構える。


「素直だね。引っかかってくれてうれしいよ。」

「?」


 捨てた右腕はひとりでに動き出す。

 ノアの首を掴み、そのまま宙に浮かばせる。


「かはっ!」


 苦しそうにジタバタする。

 流石の猛獣でも、この世のルールに違反した攻撃は予測できないらしい。


「『結界・回復』」


 腕を生やす。


「言い忘れてた。君は以前、私の力について聞きたがって居たね。今、その片鱗を言うよ。」

「がはっ!!」


 血を吹き出し、腕にしがみ付くようにして解こうとしている。


「私はね。『結界』内では、ほぼ無敵なんだ。その代償をすでに支払っているからね。このくらいの力は扱える。でも、さすがだね。いろいろと小細工しないと、ここまで無力化できないなんて。私の目に狂いはなかったらしい。」

「え、、、、、れな、、、、。」

「なんだい?ノアの話を聞きたいのはやまやまだけれど、後にするよ。『結界・催眠』」


 ノアは静かに眠りについた。


 そこら中に散乱している椅子を一つ起き上がらせ、それに座る。

 暴走した相棒を止めるのにこれほど苦労するとは。

 十ほどの『魔法』を使った。

 すべて弱体化させるものだ。

 弱体化させたうえで、重力空間を走って来るとは。素手ではやりあいたくないものである。

 今回のサンプルを大事に、次回以降の対策を立てなければ。


 多少の計算間違いはあったにせよ、大事にならなくてよかった。


 ドナートの死体の近くに行く。


「やぁ。情けない姿だね。」


 もちろん返事なんてない。

 返事を返したら怖すぎる。


「君は、妹さんのことで怒っていたけれど、それはお門違いなんじゃない?」


 そう。彼は重要なことを忘れている。いや、言っていない。

 ノアの集落に訪れた山賊。彼らは、ドナートの元部下だ。

 ドナートの独裁的なやり方に反対して、グループを脱した。

 そのうえで、ドナートに対しての嫌がらせとして、集落へ赴くようになった。

 過程を責めず、考えず。結果のみを追求する。

 弱者は大変である。


「過程を成功させなければ、結果はついてこないんだよ。来世では頑張ってね。」


 血を流し過ぎた死体を背中に歩く。

 ノアの件だ。

 これほどの力の根源はなんだろうか。

 非常に興味がある。が、調べようもない。

 普段から抱き枕とか言って、接触した際に、隠れていろいろと調べてはいるが、何も出てこない。

 どこに何が詰まっているんだろう。


 もし、この秘密を解き明かしたのなら彼は私から去ってしまうのだろうか。

 『結界』の呪い。これをものともしない彼は、やはり何か壊れている。しかし、この欠陥こそが私と彼を繋いでくれているのだとしたら、私は、彼に壊れたままでいて欲しい。


 眠っている彼の横に寝転ぶ。


 血生臭いこの空間で、生者は悪だろうか。

 散々の悪事を働き惨殺される彼らと、悪事を働くために惨殺する私たち。

 恐ろしいほどに同じに思える。


 「俺は間違っているか?」彼の行動には間違いはない。

 悪党を成敗したのだ。何も間違っていない。

 私はそう思う。


 まだ暖かい彼の額に手を置く。

 そっと撫でてみる。


「ふっ、鬼にしては可愛すぎるね。」


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