第三百八話
「第三百八話」
「やべ……怒らせ過ぎた……」
ガイアは一人呟いた。
ガイアの目の前に広がるのは、軍事施設の食堂だった。空腹を刺激する香りと、静かに急いで食事する者達の戦場だった。
ガイアの存在に一人が気が付くと、全員が指を指すように立ち上がった。
異物に反応する白血球のように、鋭い眼光へと変わり、剣を抜く者も少なくない。
ガイアはシヴァの『旅行』で境地に立たされたが、内心ほっとした。
「ここへ来たのがわたしで良かった。ノアさんなら逃げるほかないが、わたしなら対処できる。」
『死をキョウジュせよ。神がホコウする。』
ガイアに五十人ばかりの軍人が襲い掛かった。
ノアはため息をついた。
「どこだよ。」
車通りの多い街中。
クラクションの音と喧騒が騒がしい。
今まで見たどんなことろより未来を見ている気がした。
ノアは周りを見渡し、知り合いがいないことを確認した。
「どうするか……」
進路も決めずにほっつき歩く。
目に留まったのは軍服に似た服を着用した男だった。
警察だったか。
確か、戦場に立つのではなく、内地を守る警備みたいなもんだとエレナが言ってたな。
道案内をお願いするのも悪くないな。
ノアは歩いて行き、その男性に声を掛ける。
「なぁ、道を聞きたい。」
「どうしたの?」
警官は目の前の貧相なガキを見て、同情に浸ったのか、背を屈めて目線を合わせた。
「どこを目指しているのかな。」
「あ……」
ノアはここで自分の目的地を明確にしていないことを思い出した。
「えぇっと……軍の人が居るところへ行きたい。」
「……?」
警官は疑問に思った。
どうしてこんな子供がそんな場所に行きたいのか。興味を持つのか。
この歳の子は今学業に専念している頃合いではないのか。
親はどこか。なぜ手ぶらなのか。
見慣れない服装だ。分厚い長袖だ。今日は半袖でも良いはずなのに……
「どうしてそんな場所に行きたいの?」
「兄貴が俺の弁当を持って行った。」
「あぁ、そうなの。ここから近いから案内してあげても良いけど、多分君じゃ中に入れないと思うよ?」
「じゃあ、あんたが持ってきてくれ。」
「僕が?」
「ああ。弁当が手に入れば何でも良い。」
「そ、そっか。君、名前は?」
「ノア。」
「僕はピエト。よろしくね。」
「ああ。」
随分と偉そうな子供だなとピエトは思いながら、手を差し伸べる。
するとノアは子供らしくその手を掴んだ。
ピエトは微笑ましい気持ちでノアを案内してあげた。
「やってくれたな。」
光源の乏しい暗がりでアイアン・ドールは失望を露わにする。
「黙れ。てめぇになんぞに利く口はねぇんだ。」
「ガイアだけじゃなく私も嫌われたね。アキ、どう思う?」
「子供に好かれるよう努力しないからじゃないですか?」
「あらら、味方が居なくなちゃった。」
「シヴァ、てめぇ!!」
「黙れ。お前がこの場で最も凡人だ。そこで大人しくしてろ。」
アイアン、アキ、ルフェルが居るのは牢屋の中だった。
外にはシヴァが立っている。
見下ろすように、動物園に初めて訪れた少年のように興味津々に。
ルフェルが噛みつくが、気にも留めていなかった。
「あのゴミは……俺を軽視しやがった……!!」
「ガイアのことでしょう?私らは関係ないから。」
「神の加護も持たねぇお前らには分かんねぇよ!!」
「あぁ、そうですか。アキは?彼は『権限』を持ってる。」
シヴァは少し悩んで
「置いてく。」
「そ。」
シヴァは外へと歩き出し
「証明してやる……!!誰が神の寵愛を受け、特別なのかを!!」
「行っちゃったね。どうしようか。」
「良いですよ。僕が。」
アキが檻に手をかざし
「僕には……?」
違和感を感じ取ったのか、アキは自分の手のひらを見る。
「どうした?」
「い、いえ……」
「おかしいな」と一人で小声を言いながら
「僕には権利が……?」
「アキ?」
「どうしましょう……隊長……僕ちょっとポンコツに転職しました。」
「元々だろうに。」
「酷い。」
「ちっ!邪魔だ!!」
ルフェルがアキを退かし
「『結界・剣聖』」
ルフェルが手を大きく広げると、檻がずり落ちていく。
剣で斬られたような断面を残して。
「シヴァの野郎……!!」
ルフェルが走り去っていく。
その様子をアイアンは見ながらため息を一つ。
「これだから子供は。お守りは一人で十分なのに。」
「もしかして僕のことを言ってます?」
「自覚があったんだ。それは良かった。」
「いえ、初めて自覚しました。」
「それは由々しき事態だ。」
「どうします?」
「どれくらい『権限』が使えない?」
「分かりません。今日だけかもしれませんし、明日も使えないかもしれません。」
「ポンコツだなぁ……シヴァは一旦諦める。ルフェルを探すぞ。」
「了解!」
「あぁ、あとコレ。」
「?」
アイアンはアキに短剣を渡す。
「探検してきなさい。」
「洒落ですか?」
「できれば死者は出したくない。私も『結界』を使う気はない。」
「根性で結界師に勝てますかね?」
「頑張るしかないね。街中で遭遇した軍人たちは近衛でも何でもないだろう。近衛クラスがどれほどの実力者なのか知らないけれど、用心した方が良い。」
「答えになってませんよ。」
「早くルフェルを私の前に連れてきて。」
「はい!」
アキは走っていく。
アイアンは牢屋を背に、汗を流した。
「ガキ二人が唯一の頼りか。全く……面倒な。」




