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第三百二話

「第三百二話」


・ガイア視点


 一軒の明かりを見つける。

 一軒と説明したのには、やや語弊があるかもしれない。それは、ごみ溜めの中にあった一つの明かりに過ぎないのだから。


「こほん。」


 気合を入れるように、咳を一つ。


「すみません!!」


 大声で家に向かって怒鳴るが、何も起きない。


「すみません!!!!」


 再度叫ぶが、やはり何も起きない。


「すぅぅぅう……」


 大きく息を吸ったところでノアが一歩引いた。

 何かな?とも思ったが、息を吸い込んだ手前、何も言えない。


「すみませ」


 最後まで発声することなく、金槌が飛んできて、頭に激突した。


「なはっ………」


 首が後ろに下がり、体が仰け反るが何とか堪えた。

 頭を摩りながら


「な、なんで分かったの?」

「なんとなく……前にもあったからだ。」

「前?」

「うるさいな!!」


 ドアであろうと思われる蓋のような物から出てきたのは汚らしい服と髭と髪の毛で登場したわたしの知人だった。

 ソアート・セレニス。彼の本名である。


「久しぶり………」

「おお!!ガイア!!」

「いてて………なんで君はやたらめったら物を投げるかな……」

「え!?なに!?」

「いいや……ノアさん。ここで休もう。」

「ああ。」


 ソアートを押しのけてノアは中に入っていく。

 「なんだ、あの小僧は。」という目線を放つソアートだったが、わたしの顔を一瞥して言うのをやめたらしい。


 何とも言えない空気の室内は一秒だって居たくない。しかし、中は幸福でいっぱいだった。


「エラはどうしたの?」

「ああ!!娘は仕事だ!!」

「は?仕事?」

「違うぞ!!」

「まだ、何も言って居ないけど。」

「まぁ、座れ!!」

「はいはい。」


 ソアートが紹介した椅子に座る。

 ノアは部屋の端で縮こまって座っている。


「仕事って?君の収入ではようやっと冬を越せなくなったのか。」

「違うぞ!!娘はベビーシッターみたいなものだ!!」

「あれ?君の娘って貧乳でしょ?母乳出るの?」


 金槌で殴られ、出血する。

 血を拭いながら、ソアートの方を見た。


「殺すぞ。」

「ごめんごめん。出るわけないか。」


 ソアートの憤慨は案外怖かった。


「隣の人が夜分、働きたいから子供の世話をしてほしいらしい!!」

「へぇ。金貰って?」

「ああ!!最初はいらないと言ったんだが!!向こうが世間体を考えろと言ってな!!」


 そうか。ここでは舐められたら一生の終わりだ。

 底辺に底は無い。見境が無いのだ。

 故に、甘えられる、何も言ってこないと分かるや否や物事を押し付け、恩着せがましくすべてを搔っ攫うだろう。

 それを隣人は危惧したのだろう。


「なるほど。」

「それで!!なにをしに来た!!」

「まるで悪役に向けた罵倒じゃないか。そんな風に言わないで欲しいね。」

「ただ顔を見に来ただけなのか!!」

「武器を少々売って欲しい。」

「………」

「分かってる。あの小銃ならいらない。剣とライフルが欲しいんだ。」

「なぜ。」


 ソアートは売り手を慎重に選ぶ男だ。

 以前、放浪していた時に殺されかけた。その苦い経験から適当な理由で売ってくれないことは分かっている。


「仲間のピンチってやつかな。」

「………」

「分かった。正直に言うよ。わたしの上司に言われたんだ。計画を進めるとね。だから、力が欲しい。」

「それが成就されて、どうなる。お前はそれを望むのか。」

「さぁ。どうだろうね。」

「答えろ。お前の上司とやらに興味はない。目の前のお前に聞いているんだ。その小僧でもない。お前だ。お前自身の答えはなんなんだ。」

「………」

「どうした。」

「すまない……分からない。」

「……そうか。」


 しばらく無言だった。

 しかし、堪忍袋の緒が切れたみたいに


「何本欲しいんだ。」とソアートが溜息交じりに聞いてきた。

「四本。」

「分かった。明日までに用意する。」

「ありがとう。わたしは良き友人と出会ったらしい。」

「止せ。そんな言葉を使うのは。」

「どうして?」

「はぁ……友人に武器を持たせたくないんだ。分かるだろう。」

「流石元貴族様。お優しいことで。」

「………」

「安心してよ。成就した時、日の目を見れるのは君たち人間だよ。」

「……?」


 ソアートは首を傾げながら作業場に歩いて行った。

 それと同時に入口が空く。

 冷たい空気と共に入って来たのはエラ・セレニスだった。


「あ~寒いね。とうさ……あ!お客様でしたか!」


 エラは滅多に来ない来客に驚き、腰を抜かしそうになるが、わたしの顔を見て安堵した表情を見せた。


「ガイアさん。みえたんですね、申し訳ありません気が付きませんでした。」

「良いんだよ。エラちゃん。相変わらず可愛いね。」

「うふふ、ありがとうございます。」


 ソアートとは違い、綺麗な服に、肌に、髪形だった。

 ソアートは自分より娘を相当に甘やかしているらしい。


「エラ……?」


 端っこに座ったノアが反応を示した。

 それは思い出すように、ひねり出すように出した言葉だった。


「?」


エラは懐疑的な反応を示した。

 目の前の少年に見覚えが無いのだ。勿論の話ではあるが、エラとノアは面識があるんだろうが、このノアとエラには面識がない。

 故に、彼女は自分を知って居そうな少年を不審がり、不安がった。

 彼女の背景を知っていれば、自分を捕まえに来たのではないかと勘繰ってしまう気持ちも分かる。


「えぇっと……彼は?」

「ああ。名前は」

「いい。言わなくていい。」


 ノアが声を被せて言って来た。

 その顔は真顔だ。


 更にエラが困惑する。そして、不信感を募らせてしまう。


「いや、君が思っているような人物ではないよ。エラちゃん。」

「そ、そうですか……?」

「うん。彼はまだ生まれて間もなくてね。少々混乱しているんだ。」

「え………?」


 エラの目の前に座っている少年の見た目から推察される年齢は十歳前後。産まれて間もないという意味深な発言を素直に取り込んだ彼女の耳は反応する。

 しかし、幸か不幸か、彼女は言及しなかった。貴族育ちの癖か、それとも他人の踏み込んではいけない領域だと察したのかは知らないが、彼女は口をつぐんだ。


「でも」エラは続ける。


「どこか彼と同じ雰囲気を感じます。」

「彼?」

「ええ。私と父をつなげてくれた……そうですね。彼、彼女が来たら大爆笑し、苦笑し、冷笑するでしょうが……ヒーローとでも形容するべきでしょうか。それとも、救世主だと崇めるべきでしょうか。どちらが正解か存じませんが、彼、ノアさんと。彼女、エレナさんには感謝しています。」

「そっか……」


 しれっとノアの方を見た。

 居心地の悪そうなノアは立ち上がった。


「………助けた訳じゃない。」

「え?」


 ノアは死人が起き上がったみたいに、嘘のようで。

 老人が運動をするような、心配そうに歩いた。

 扉に手をかけると


「邪魔したな。」


 そう一言だけ残して去った。

 追いかけなければまずいだろうと思い、ノアを追いかける。


「ノアさん!」


 雪が降り始め、積雪量は五十センチほどあるのに、もっと積もるのではないかと思う夜だった。

 朝には雪かきがはかどるだろう。


「……どういうつもりだ。」

「何がかな。」


 わざとらしく聞いた。

 それに憤りを覚えたのか、振り返る。


「どういう意味かって聞いてんだよ。このボケが。」


 わたしに向かって感情を向きだした最初の瞬間だった。


「なんだ……救った?助けた?救助された?下らねぇ。下らねぇんだよ!!」

「………」

「助けたの先はなんだったんだよ!!

ヘレナはどうした!?居なくなったぞ!!

主任はどこだ!?見えねぇぞ!!

アリエナは何があった!?俺を殺したぞ!!!

結局死力を尽くして戦って!!得た物はなんだ!?答えてみろよ!!」

「………さぁ。わたしには見当もつかない。」

「ッ!!!」


『白紙・鰐』


「やめなさい。」

「黙れ!!!」


『死をキョウジュしろ。神がホコウする。』


 手を空に向けると鎌が出現する。


「今の君では勝てない。」

「やってみろよ!!!」

「こういうのは役割があるんだ。」

「あ!?」

「役割だよ。」

「役割だ!?じゃあ!!俺の仲間はなんだった!?クソッたれな権利と、下らねぇ理想と、ゴミみてぇな趣旨で“祝福の木”と戦ったぞ!?エレナは俺を振った!!主任は殺された!!アリエナはどうなった!?言ってみろ!!」

「気の毒だ。」

「なんだと……なんつった!!」


『白紙・隼』

『白紙・像』

『白紙・龍』

『白紙・鬼』

『白紙・蛇』

『白紙・猿』

『白紙・牛』

『白紙・馬』

『白紙・鼠』

『白紙・虎』


 あれが噂の『白紙』か。

 筋肉が膨張してる。あれは、もはや人間ではないな。よく、体が持つものだ。


 地面が窪み、大気が温まる。


 ノアは炎を吐き、一センチほど空を飛び、剣のように伸びた爪を地面に付きたてる。


「てめぇをぶちのめせば、あのデブもさぞ意気消沈するだろうな。」

「やめないか。それでは、君の体が壊れてしまう。」

「壊れる……?面白れぇ。誰も居ねぇんならよぉ、生きてる意味ねぇだろ。」


 全く。あのデブ、もとい自称神の中二病野郎が。面倒な役柄を押し付けてきたな。

 わたしがあんな怪物に勝てるわけないだろ。


「これがわたしの最後の切り札だ。これは警告である。直ちに」


 ノアの象がブレる。


「っ!?」

「次は足を貰うぜ。」


 両肩から血が噴き出す。

 それは滝のように。

 両膝を地面に付いて、神でも崇めるようにノアを見た。


 両腕が無くなったのだ。一瞬で、足跡も残さずに。


「これ……が……わたしの切り札だ。」


 ブーン!という爆音の元、車が出現する。

 出現すると言っても、元々連絡をして来てもらう手はずだったので、時間通りと言うか、計画通りと言うか。


「あとは……かのじょに……任せるとしようか……」


 どさっと雪の中に倒れる。

 雪はすべての体重を預かってくれると思った。しかし、氷のように固い雪は地面よりも幾分かマシなだけで、ちっとも幸福ではなかった。


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