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第三百話

「第三百話」


・ガイア視点


 ぐーっと伸びをして、疲れた体を引き締める。

 まだ、眠気が残る頭に、水をかけ、意識を覚醒させた後、ノアが起き上がるのを待ちながら、カーディスまでのルートを考える。


 管理人の言い方的に一週間も掛けていたらダメだろう。

 できるだけ最短で、最速で向かった方が良い。なんなら、向こうで観光でも楽しむくらいの勢いで。


 地図にメモを書きながら、外の銀世界を見つめた。


「っ……」

「あ、ノアさん。起きたかな?」

「………」

「その肉体で寝るのは初めてだろうに、よく眠れたね。」

「………」

「朝食にしようか。料理は独特で、独創的で、毒が入っているかもしれないけれど、腹に何か入れておいた方が良い。」

「………」

「着替える?手伝うよ。」

「………」


 ノアを着替えさせた後に、部屋をある程度片づけて、食堂へと向かった。

 並べられたテーブルには六組ほど座っている。

 意外に繁盛している様子だった。


「今日は何かな。おいしくて、お腹を下さない物が良いね。」

「………」

「ノアさんは何か好きなものとかあるの?」

「………」

「そろそろ出てくるよ。」


 ドランが直々に料理を運んできた。


「あれ?亭主自ら働くの?」

「当たり前だ。人件費を誰が払うんだ?」

「あぁ……なるほどね。流石コスパの鬼。」

「馬鹿にしてるだろ。」

「忙しい?」

「いや、別に。」

「少し話さない?」

「なんだ、酒でも注いでくれるのか?」

「ここがホストクラブだとは知らなかった。」

「そりゃ知らんだろうな。俺も知らんかったから。」

「開業記念だね。」

「お前みたいなゲイが居て助かるわ。儲かる。」

「わたしってゲイに見える?」

「………」


 ドランは、わたしとノアの顔を見比べる。


「うん。ちょっと。」

「やめておくれよ。彼とはまだそういうんじゃない。」

「……まだ?」

「うん。まだ。」

「………」

「いやいや、誰にでも可能性を秘めているって言いたいのさ。狙っているとかそういう話でなくてね。」

「お前……まさか!俺も!?」

「………」


 投げキッスをして見せる。


「す、すまねぇ……娘に遺言を……」

「冗談さ。そんな震えないでおくれよ。」

「で?話しって?道でも聞きたいのか?」

「ノアって人物を知っている風だったね。」

「あ?まぁ……一年くらい前だったか。でも、知り合いでも何でもねぇよ。仕事上の付き合いつうか、直接喋ったこともないしな。」

「元グリムの長、ドラン。元マフィア。」

「!?なんでそれを」

「アルノ・マクレイヴが死去し、組織が成り立たないほど弱体化したが、ガリオン・マクレイヴが組織を新たに作り直し、傭兵集団として育成している。まだまだ実力不足で仕事も少ないが、以前よりは活気付いている。そして、組織の居心地が悪くなった、いや、形のない責任。と言うよりも、組織を惑わせてしまった念から組織を辞め、宿を経営している。そして、傭兵としてやっていけなくなった元同僚たちに仕事を与えている。」

「………」

「それが君だよ。ドラン。」

「……良く調べたな。」

「まぁね。下調べは基本なんだ。」

「脅しか。」

「まさか。宿の亭主が元マフィアであろうとも、君の敏腕な経営で巻き返せるでしょ。わたしが知りたいのはノアについてだ。信じられない話かもしれないが、君の目の前に居る彼は、そのノアそのものでね。いろいろあって、肉体を変えたのさ。」

「……は?」

「生前と言うのが正しいのかどうかは分からないけれど、まぁ、前世とでも言うべきかな。彼はかなり奮闘した。しかし、己の価値、地位、記憶。そのすべてに確証を得られなくなり、仲間と共に死んだ。」

「それで……何を聞きたい?」

「できれば……そうだな。君には本音でも構わないだろう。どうせ、理解できないし。わたしは、ノアが戦う戦わないはどっちでもいい。管理人が望むからこうして介護しているわけじゃない。彼が不憫だと思ったからこうして居るんだ。では、子育てをしている君に問いたい。どうしたら、自立した子供。所謂、自己を認める精神を育成できるんだ。」

「………す、すまん。ちょっと……」


 ドランは頭を抱える。

 急な話に驚いたのか、それとも二日酔いであるのか。


「できれば、質問は禁止でお願いするよ。」

「……そうだな、愛情を持って接するとか……」

「うん。それから?」

「………やっぱり、本人がやりたいと願うことを応援するとか?」

「うんうん!それから」

「ちょっと。」

「何かな。」

「悪いんだけどさ……」

「なんだよ。質問は禁止って。」

「違う。そういう事じゃなくて……そいつの状況。育てるとかじゃなくて……精神的な病なんじゃないのか?」

「………」

「それなら、俺は専門外だ。他を当たれ。」

「なんだよ。やけに突っぱねるじゃないか。」

「お前はもっと柔軟な発想をする奴だと思ってた。」

「………焦っているのは認めるよ。」

「はぁ。お得意さんが俺の料理を食べてそんな顔するんじゃねぇ。」


 ドランはノアに近づくと


「ノアだってな。お前と仮面には感謝してる。組織を立て直すきっかけが無かった俺らに道を提示してくれたんだからな。おかげで、全員とはいかなかったが、飯にありつけて、俺みたいに嫁と子供を安心させられた。」

「………」

「ありがとな。」

「………」


「じゃあ、俺は仕事に戻るわ。」

「手間を取らせた。」

「冷めないうちに食えよ。」

「罰ゲーム?」

「殴るぞ。」


 ドランは厨房に戻っていく。

 戻ったのを確認してから、冷たくなった料理を口に運んだ。


「うん。悪くない。」


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