第三十話
「第三十話」
・エレナ視点
ノアが外に飛んで行った。
暇になったので、椅子に座る。
「頭!!!!」
「行くぞ!!!」
「あのガキを殺せ!!!」
適当なことを抜かしているな。
「やめなよ。」
「あ?」
「なんだ!?女!!」
「君たちは座って眺めているだけで良い。面白い物が見られるよ。」
山賊一派はポカンとしている。
私が何を言っているのか理解できていないのだろう。
でも、手を出さないでほしい。
私が見たいものがあるから。
「もし、暇なら私と遊ぶかい?まぁ、最も君たちでは勝負ならないだろうけどね。」
「うっ……」
この程度の威圧で尻込みか。
可哀そうな連中だ。
そんなに気弱なら山賊なんてやめればいいのに。
私が知りたいのはノアについて。
秘密が多い私が言うのはなんだけど、彼にも大きな秘密がある。
その強さだ。
証明不能な強さ。動物の本能的な強さとでも言い換えようか。
彼と手合わせした時に違和感を感じた。そこから、ずっと気になっていた。
『結界』を使っていない。すなわち、素の強さ。純粋な身体能力。
過去に何か秘密があると思ったけれど、そんなこともなかった。
ノアの過去を掘り起こすために、質問を行った。そして、私に心を許しているのなら、入り込めると思った。
彼の過去に。
それは成功した。
簡単に。
でも、そこには強さの説明になるような出来事は存在しなかった。
たかだが、6歳の子供が、周囲の大人を一方的に殺していた。
それはおかしい。
特殊な訓練を受けた訳でもなく。
両親が特殊な力を持っているわけでもない。
説明になっていないのだ。どうしようもなく。
彼の歪んだ倫理観だけが浮き彫りになった。
でも、そんなことを知りたかったわけではない。
生まれつきの強さ。
私ですら『結界』の出力を上げなくては勝てないと思ったその強さ。
理解したい。
ようやくノアが倒れた。
薬は効いたようだ。
ノアが起きる前に、麻痺薬を飲ませた。
普通にやったらドナートが勝てるわけないから。ノアにはぎりぎりで戦ってほしかった。
飲ませるのにはかなり苦労したけど、うまく行ったようだ。
ここからが見もの。ノアの純粋な戦闘力を見たい。
ドナートの足を斬った。
あの体勢から。
かなりの腕力がないとあんなにきれいに斬れない。
それがどうしてだろう、野菜を切る料理人のように、木を伐採するかのように簡単に斬った。
寝ている状態で、十歳の少年が。
これは理解できない。
そして、あの笑顔はなんだ。
不吉、不気味、快楽、どんな心境なのか見当もつかない。
「芸術……?」
何かに取り組み始めた芸術家だろうか。
何かに気が付いた芸術家のように、剣をキャンバスに例えて、その刀身を血で染め上げる。
狂っている。言い換えるなら、失っているのか。
倫理観や本能的にせき止められているタガのような物が。
こちらを見た。
もうドナートは動かない。
死んだらしかった。
ノアの嬉しそうな笑顔。新しい絵の具を見つけた少年の顔。
どこへ行っても、こんな顔を見ることはできないだろう。
私の隣では決して見せることのなかった顔だ。
いや、誰の目の前でも見せることはできないか。
だって、あんなに、歪んで、歪で、歪んでいるのだから。
小屋に突っ込んできた。
信じられない速度と力で。
壁なんて関係ない。
十人ほどの山賊は瞬殺。
全員が構える間もなく、死ぬ。
赤色に染まった小屋を満足そうに鑑賞した後に、私と目が合った。
うれしそうな顔。
私はこの顔が好きなはずだ。私を拒絶することなく、いつも悪乗りに付き合ってくれる。
それがどうしてだろう。
どうしてこんなにも恐怖一色で染まるほどの嫌悪感を抱くのだろうか。
「エレナ。」
「初めて名前で呼んでくれたね。」
「あか。」
「ん?どうしたの?」
努めて献身的な笑顔を作ってみる。
こうなった彼を止める自信はあったが、その自信は忘れ去ってしまったようだ。
はっきりと言おう。計算が狂った。
自信がない。この鬼を檻へ返す自信がないのだ。
「あかいろの装飾が必要なんだ。」
「どうして?」
「だって、こんなにも、こんなにも、こんなにも!!!!」
ノアが飛びついてくる。
私だと分かったうえでの攻撃。
仕方がない。
全力を出そう。
「『結界・重力』」
ノアが地面へと沈む。
倒れたのではなく、沈んだのだ。
「ごめんね。ノア。前みたいに手抜きするわけにはいかなくなった。」
ノアは簡単に立ち上がった。
朝、ベッドから起き上がるみたいに。
気だるそうではあるが、自然に、当然の顔で。
訓練された兵士でも起き上がることはできないだろうに。
「エレナ。なんだこれ。」
「『結界』と呼ばれる技術でね。古くに多く広まった『魔法』と呼ばれる力の応用さ。」
「エレナ、俺はどうしようもなく、この空間が心地いい。」
「そうみたいだね。」
「だから、邪魔しないでほしい。」
「それは無理だよ。」
「エレナは俺の相棒なんだろ。少しくらい譲歩しても良いんじゃないか。」
「いや、相棒の不始末はつけなくては。」
予想以上だ。
これほどの力を持っていたとは。
狩って見せよう。私の持てるすべてを出し切って。




