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第二百九十八話

「第二百九十八話」


・ノア視点



「体調はどうかな。まぁ、もっともこの空間に肉体を持ってこれていないから、体調と呼ぶにはおかしいのかもしれないけどね。心の平穏とでも言うべきなのかな。」

「………」

「………」


 管理人は困った顔を隠すように微笑む。


「お呼びですか。」


 その空間に別の人物が入って来る。

 ここに来られるということはこいつも『権限』を持ってるのか。


「忙しいところすまないね。ガイア。」

「いえ。とんでもない。」

「そう言ってくれてありがたいよ。」


 ガイアは俺の頭を撫でて、肩を組み横に座った。


「彼が例の?」

「そうだよ。」

「ノアさんだったか。お初にお目にかかる。」

「………」

「あれ?嫌われたかな。」

「いや、僕の方がずっと嫌われてるから大丈夫さ。」

「大体の見当は付きますけど。」


 なぜだろうか。

 この男には親近感が湧いた。どこかで会ったことがあるような、安心できる温もりだった。


「ノアさんの面倒を見ろと?」

「まぁ、それもあるんだけど、本質はちょっと違うかな。」

「では何を?」

「僕の実験は成功したと言っても過言じゃない。いや、成就している。今、無理やりにでも行動を起こしても良いけど、それではちょっと勝手が過ぎるかなと思ってね。」

「『万能』ですか。」

「うん。あそこまでこじれているとは思わなかった。」

「意外ですね。あなたなら放っておくと思いました。」

「パラダイムシフトがあったのさ。」

「理由は何でも良いですよ。やりましょうか。」

「本当に頼りになるね。」

「役者は?」

「『権利』を持つアキ。『旅行』を持つシヴァ。『死神』を持つガイア。『白紙』を持つノア。『権限』を持っているのはこれくらいかな。」

「勝てますかね。」

「いや、無理だ。断言しよう。『万能』はヴァルモンドに潜伏した。あいつにしてはやや消極的だなとも思うけれど、人々の思考を変え、王族へと席を入れたのさ。」

「王族?ヴァルモンドは確か……」

「そうなんだよ。ヴァルモンドは絶対王政ではなく、立憲君主制のはずだ。『万能』は政治を行えない。」

「王としての権力が欲しかったと?」

「あれは完璧な人間としての理想を掲げている。それに到達するために、あらゆる欲と財を欲している。だから、戦争や思想や政治になんか興味が無いのさ。朝クイーンベッドで目覚め、ティータイムを嗜み、昼は腹がはち切れるくらいに飲食をし、優雅に夕方を満喫し、夜は贅沢にパーティーをする。これがあいつの狙いなのさ。」

「別に害はないように思えますけど。」

「そうでもないのさ。そして、あいつは僕に敵意を持っている。いつ、自分が人間と言う地位を剥奪され、またも『権限』として退屈で偏屈な生活を余儀なくされるか分からないからね。管理人という人物をノアに置き換えることによって、この惑星そのものを支配したいんだ。自分が配置した管理人が居る限り、誰もこの惑星に手出しできなくなる。そして、『万能』がどこで何をしているのか分からなくなるってわけさ。」

「確かに、あなたからしてみれば相当に面倒な案件ですね。これじゃ、計画が台無しだ。」

「そこでだ。やはり、完全な体制で新時代を迎えるには、少し荒っぽくなるほかない。」

「『万能』の回収。」

「それと同時に戦争の終結さ。この戦争は元々、先代管理人が原因で起こっているからね。後任は後始末をするしかないのさ。」

「でも、四人でなんとかなるレベルの話じゃないですよ。」

「君らは『万能』に集中さえしてくれればいい。対人は他の人に任せなよ。」

「まずは仲間集めですか。」

「いや、その必要もない。」

「というと?」

「今、セリディアンにアキが向かってる。アキにはノアを探せと嘘を言っておいた。」

「シヴァの回収ですか。でも、なんで嘘を?」

「彼の行動の動機に繋がらないからさ。彼は、意外にも利己的な感情で動くからね。他人が困っているからと言って簡単に手を差し伸べるタイプじゃない。」

「そうですか。」

「君らは、真っ直ぐカーディスに向かって欲しい。そうだな、病院で診察でも受けていなさい。レールを作る。」

「神様様ですね。」

「あとね、アキの素材が今回の戦いでなくなりそうなんだ。」

「足してあげれば良いじゃないですか。」

「今、交渉中でね。あとちょっとで一万人ほどの魂が集められるはずなんだ。君はほぼ『死神』を使っていないでしょ?だから、アキに少し分けてあげて欲しい。『権利』は思ったよりも燃費が悪くて。」

「じゃあ、もっと魂を集めて下さい。」

「これでもがんばっている方なんだよ?知ってるかい?僕が死者のところへ行ってぺこぺこおべっかしているのを。」

「頑張りますね。サラリーマンみたいだ。」

「スーツでも着た方が締まるかな?」

「デブには無理。」

「酷いな。君は。この可愛らしいボディーにそんな暴言を浴びせるだなんて。どれだけお金をかけて、脂肪を育てたと思っているんだい?」

「立派な自己啓発ですね。磨きがかかっていないところを見ると、なお残酷だ。」

「君と軽口を言い合うのは良いのだけれど、ちょっと急いでくれるかな。」

「分かりました。ノアさんは責任を持って面倒見ます。」

「助かるよ。」

「行こうか。ノアさん。」

「………」

「元気があって良いね。懐かれているみたい。誰かと違って。」

「僕だって昔は懐かれていたんだけどね。」

「そうですか。そうは見えませんでしたけどね。」

「……ほら、行って。」

「はい!あ、それと」

「ん?何かな。」


「何があってもわたしはあなたを尊重しますよ。」


「役割に固執する君らしい考え方だ。うん。だから、君の魂を選んだ。」

「では、良い報告を。」

「頼んだよ。」


 ガイアに連れられ、黒い部屋から出ると、そこは吹雪吹き荒れる【フロストホロウ】だった。


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