第二百九十五話
「第二百九十五話」
・アイアン視点
床をぶち抜いて、難を逃れ……ちっ、先回りされてたか。
アキが出て行ってすぐ、机の下に切り込みを入れておいたが、一階にも人間を置いていたとは。
この辺でだだっ広く戦闘を始めるってことは、この辺りに人間は居ないのか。
その割に、足音が多すぎる。
ちっ……そうか。学校が近くにあるから、ガキ共の騒ぎ声とかで私の聴覚を遮断してやがんのか。
「『結界・一角』」
「しまっ」
男が手を組み、地面に向けると、床からつららのような突起物が複数個出てきて、回転を始める。
狙いを定めたかのように、私めがけて直進してきた。
上着を脱いで、遮蔽を作るが、飛んできた突起物は服を簡単に貫通し、何なら、勢い余って壁やら窓やらを破壊していった。
良かった。私にけがはない。
なら!!
「っ!!」
弾丸のように飛んでくる突起物の中、男を蹴り飛ばし、扉まで走る。
ドアの取っ手を掴むと
「なっ!?」
取っ手がその場に落ち、まるで建物全体が年季を帯びたようにコケが生え、カビが生い茂った。
「『結界・年季』」
既にドアの原型は無く、鍵も関係無さそうに、体重を掛ければ壊れそうなほど劣化していた。
ドアを突き破ったのは槍を持った男だった。
「ちっ!」
下駄箱を倒して、通路を塞いだ。
『結界』によって壁なんか豆腐みたいに壊せるはずだ。
出口なんか関係ない。
「っ!?」
太ももを先ほどの突起物が貫通する。
振り返ると、男が地面に手を合わせ、決定的な一撃を待ち望んでいるところだった。
一瞬の静寂。
それはお互いが呼吸を合わせ、先に動いた方が負けであるかのように、しんと静まりかえる。
そんな空間を破ったのは上から降って来た二人組だった。
「『結界・直進』」
「『結界・二角』」
一人は剣を持って、やたらめったらに突進してきた。
もう一人は二本の拳銃を構え、発砲してくる。
突進を避け、弾丸をわき腹に食らう。
後ろを振り返ると、男がUターンして返って来るところだった。
あんな速度で行って、もうターン!?
廊下という狭い空間でよくあの速度を殺せたな!?
車に突撃でもされたかと思うくらいの突進。
体が細いわりに、思い切りの良さとためらいが無いために、私の体をいとも簡単に吹き飛ばした。
背骨と肋骨から聞いたこともない音が響き、壁を貫通して外へ出される。
ついでと言わんばかりに、突起物が右肩と左ひざを貫通する。
肩が外れたことにより、右腕に掴んでいた剣を落とし、左脚も飛んで行った。
「ぐふっ……」
外に出ると、自分の考えの甘さを思い知らされた。
「はは……マジか……」
武装した結界師と思われる人物たちは、一見しただけで二十人は居た。
見えるだけでである。控えの者も居るだろうから四十人ほど連れてきたんじゃなかろうか。
「全員……注目!!!」
武器は構えたまま、全員が静止する。
「アイアン・ドール。問おう。仲間はどこだ。」
「はぁ……はぁ……」
「音楽隊は四人のはず。残り三人は。」
「……っ……」
「そうか。連行しろ!!!」
全員が一斉に動く。
必死になって剣を探すが、どこにも見当たらなかった。
「クソ……」
『僕には殴る権利がある。』
向かって来た一人をアキが殴り、民家へ衝突させる。
何か一言でもあるかと思ったが、目の前に急に現れたかと思うと、私を担いで、その包囲網から逃げようと奮闘する。
その姿を見て、私はしばしの休息をとることにした。
・アキ視点
最悪だ。
アイアンが完全に伸びきってる。それどころか、負傷をし過ぎてる。
すぐにでも回復してあげないと……でも!!
「『結界・三角』」
「『結界・四角』」
「『結界・沼地』」
コンクリートであるはずの地面が底なし沼のように、どろどろになっていく。
膝まで浸かってしまい、身動きが取れない。
『僕には逃げる権利がある。』
どろどろになったコンクリートの地面から飛び出し、一人を殴り飛ばし、もう一人を蹴り飛ばす。
『僕には逃げ道を確保する権利がある。』
数十人に囲まれた包囲。それを脱するための道筋。
見える。ここだ!!
誰も潜んでいないであろう民家に突っ込む。
居間を突っ切れば、玄関だ!!
知らない民家であったが、頭の中に正確な地図が描かれていく。
一歩踏み出すと
「っ!?」
軍服を着た男が待っていましたと言わんばかりに、座った状態で銃を構えた。
「『結界・消息』」
散弾銃!?
まずい!!この距離は避けられない!!
バァン!!!
アイアンが吹き飛び、僕も全身に穴が空く。
男は追撃を止めない。
熊でも狩る狩人のように、コッキングをして、次弾を撃った。
バァン!!!
頭蓋骨が破れ、脳が飛び散る。顔の半分が消え、目は潰れ、耳は消し飛び、鼻はない。
かろうじて動く口で意識が飛ぶ間際に
『僕には回復する権利がある。』
目が修復し、男を捉えた。
足に命令が伝達し、軸も無いのに、無理やり男を屋外へと蹴り飛ばす。
体が完全に戻ってから
『僕には隊長を治す権利がある。』
「はぁ……はぁ……」
「……まずったね。」
「ほ、ほんとですよ……」
アイアンを担ぐ。
「戦争の専門家として意見が欲しいです。」
「まずは止まらないところから始めようか。」
「了解!!」
すみません!!と心の中で叫び、地面に一撃、力強い踏みを行う。
建物に亀裂が入り、埃が舞い、崩れていく。
煙幕代わりにはなるだろう。
向こうは手負いだと思ってるはずだ。これで時間を稼げば……
シュン!
風を切る良い音が耳の横を通って行った。
手首に生温かい液体が垂れる。
「……?」
手を見ると、それは真っ赤な血だった。
自分の頭を触るが、何も起こっていない。
恐る恐るアイアンを見ると、頭を貫かれ白目を向いたアイアンがあった。




