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第二十七話

「第二十七話」


(昔話―月が欠けたように⑥)


 帰路に着く頃にようやく意識が回復した。

 血だらけの服。ナイフを捨て、身長ほどの剣を大事そうに握りしめている自分。自分の体重ほどの袋を引きずっている自分。

 二十人ほどの山賊を蹂躙した後であることは分かった。


 透き通るほどに綺麗な川がある。

 そこで服を洗い、証拠を消そうと思った。

 その川に顔を近づけると


「は……」


 嘲笑が漏れる。

 自分の顔についてだ。

 嗤っていた。不気味な笑みで。

 自分と分かってはいるが、それを理解するのに拒む。


 剣をそこらに隠し、服を洗い、金の入った袋を引きづって歩く。

 家まで。

 この金は以前のものよりも多い。

 数倍と言ったところであろうか。でも、もう誤魔化しは利かない。なんと説明すれば良いものか。

 悩みながら歩く。


 気が付くと、家に到着していた。

 ドアを恐る恐る開ける。

 しかし、両親の姿はなかった。

 家のお金が置いてある場所に袋を運ぶ。

 そっと置いて、ご飯を食べようと思った。


「ノア!!」


 母が走ってきた。

 ドアを乱暴に開け、中に土足で入ってきた。


「ノア!!どこに行ってたの!!」


 母は怒りながらに問う。


「……さ、散歩に。」

「もう!!心配させないの!!」


 ぎゅーっと抱きしめてくれる。

 力いっぱい。俺を潰す勢いで。


「ノアは!?」


 父も息を切らしながら走って来る。


「どこ行ってたんだ!!!」


 父も心配してくれていたようだ。

 両親には迷惑をかける。


「ノア!!」


 姉も。

 全員で俺を囲うように抱きしめた。

 心配をかけて申し訳なく思う。


 次の日から山賊は来なくなった。

 そして、謎に満ちた金の入った袋を両親は不審がった。

 しかし、金に違いはないので、姉の学費に充てることにした。


 姉の入学式。

 それは、春の暖かさと共にやってきた。


「ほら、服が乱れてる。」

「分かってるって。」

「はい。完成!あら~可愛い!!」


 学校へ行くために新品の服を買い、それに袖を通した姉。

 満足そうに見ている母。

 両親は学校へ行ったことがない。だから、こんな娘を見れてさぞうれしいことだろう。


 それに比べて、俺は深刻な状況へ追いやられていた。

 いつもいつも剣の鋭さが頭から離れない。

 どうしたことだろうか。

 あの日から。ずっと。

 それに対応して、人を殺す頻度が増えた。

 週に一人。二三日に一人。一日一人。

 もう止められなくなっていた。

 奪ったお金は、山賊から奪ったお金があるので、誤魔化せた。しかし、夜な夜な出歩いていることはたまに怒られた。


 すべては姉を学校へ行かせるために。

 家族を幸せにするために。

 そう自分に言い聞かせた。歪んでいることは分かっていた。

 でも、止まらないんだ。止められないんだ。

 どうしても、あの剣の、血の反射が忘れられない。

 家族だ。家族での空間が守りたいだけなんだ。

 もう、貧困で両親が頭を抱えるなんてことになってほしくない。

 もう、姉が学校へ行けないなんて状況になってほしくない。

 もう…………………コロシガヤメラレナイ。



「……ノ……ア……?」


 姉が信じられない目で俺を見ていた。

 そうらしい。俺は見境が無くなっていた。

 家の前ですら殺しをするようにまで登った。もう、降りられない。


「なに……してる……の?」

「違う。」

「それは……なに……?」

「これは、トマトだ。」


 必死の言い訳だ。

 もちろん、相手に響くわけがない。


 べっとりと付着した赤色の短剣に目が釘付けの姉。

 それを追って両親が見に来る。

 そして、悲鳴を上げた。


「きゃあああああああああ」

「な、なに、してる!?ノア!!!」


 俺が殺したのは、隣のおばさん。

 だって、毎日母さんを困らせてたから。邪魔だと思った。

 姉が学校へ行くのにも僻んでいたし、邪魔になると思ったから。

 朝から、姉が見たいとか言って、家に訪問なんかしてくるから。


 俺は家族のためにやったんだ。

 何も間違っちゃいない。

 そうだ、俺は間違ってないんだ。

 そう考えると、笑みがあふれ出して、止まらなかった。


 だって、父が褒めてくれるから。

 だって、母が抱きしめてくれるから。

 だって、姉が遊んでくれるから。

 だって、みんな幸せになれるから。


「の、ノア、、、なんだ、、、その顔は、、、」

「父さん。ほら、姉さんの入学金が手に入ったよ。これで、姉さんに新しい服が買えるね。」

「は………?は………?」

「母さん。ほら、また街へ買い物に行こうよ。お金を持ってさ。そうだ、マクスの店へ行こう。今度はちゃんと支払いをして。」

「の………あ………なの?」

「姉さん。ほら、学校から帰ってきたら、また遊んでよ。いつもみたいに。雪合戦しようよ。」

「…………………………」


 誰もしゃべってくれない。

 何かおかしなことを言っただろうか。


「どうしたの?父さん?母さん?姉さん?ねぇ。何か俺の顔についてる?」

「お、おまえ、な、、、なに、いって、」

「???」

「母さん?」


 母は膝から崩れ落ちていた。

 もうしゃべられない。

 そんなに怯えてどうしたのだろうか。


「姉さん?」

「ノア。」

「姉さんの学校に一緒に行くんじゃないの?みんなで。」

「ノア!!」


 姉の突然の大声に困惑する。


「ど、どうしたの?」

「ノア……。」


 姉は大きく息を吸った。

 吐き出すときは叫びだすように。


「何してるの!!!」

「え、え?」

「何をしたのか説明してみなさい!!!!」

「な、なにが……?」

「何がじゃない!!この状況で!!!あなた、説明してみなさい!!!!」


 頭の中が空っぽになる。

 その叫び声と共に。


「姉さん、どうしたの?そんなに怒って。俺が何かした?」

「あなたね!!!!」


 姉は泣きながらに訴える。

 しかし、どれも何を言っているのか分からない。


 父さんが近づいてくる。


「父さん。姉さんがなんか怒ってるんだ。なんとかいってやってy」


 パァン!!!


 その音は遠くまで響いた。

 やまびこと言うらしい。音が反射して戻って来る現象。


 返ってきた音と同時に俺は地面へと倒れた。

 父が俺を殴ったのだ。初めての経験だった。

 すかさず父を見る。

 泣いていた。手は強く握りすぎて、血が垂れていた。


「どうしてだ………どうして……ノア……」


 とても言葉とは言えないその発音は、俺を非難するのに最も効果的だった。

 自分は悪いことをしたんだと遅れて分かった。

 ならば、どうするのか。


 そうだ。隠せばいいんだ。

 そうすれば、みんな納得する。

 今までだってそうしてきたんだから。

 そうすれば!


 気が付くと、空は赤色になっていた。

 鳥の囀りだけが自分を現実へと引き戻してくれる。

 夕方だと気が付くのに、そう時間はかからない。


 ベッドの上で血の滴るナイフを握りしめて。

 自分の反省点を考えていた。

 俺の何がいけなかったんだろう。

 長考するが、何も出てこない。


 そうだ。明日考えよう。

 だって、朝になれば母さんが起こしてくれるし、父さんが知恵を貸してくれる。姉さんが冗談交じりに、からかってくれるし。

 そうだ。何も今考えなくても良い。


 そう考えて、眠りについた。


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