第二百六十八話
「第二百六十八話」
・アイアン視点
振りかぶった剣で、ロゼッタを攻撃するが、それは届かず、空で止まった。
「『結界』に頼らない?おかしな話ねぇ……剣術だけだったならあなたはそこらの雑魚と一緒。」
ロゼッタが手のひらを見せると、無数の透明な球が飛んでくる。
剣でいなしながら、距離を詰めるが、その猛攻に剣が悲鳴を上げ始めた。
『僕には球を止める権利がある。』
球体は止まったかと思うと、地面に落ち、爆発していった。
煙幕の中で、剣を構え、ロゼッタの方へ向かおうとするが、煙の中から突っ込んできたのは、彼女の方だった。
「っ……!!」
若干の想定外に驚きつつ、剣をふるう。
軽やかに剣筋を避け、散歩でもするかのように歩いてきた。
「まだまだ。あなた同様、私の『結界』だって補助に過ぎないのよ。」
剣を掴まれる。ロゼッタの手からは血液が流れ出て、手のひらがぐちゃぐちゃになるが、ロゼッタは悲鳴を上げ、苦痛の表情を浮かべるどころか、卑しい笑みを浮かべ、満足げに拳を握る。
拳を振るが、その腕は飛んでいく。
『僕にはその拳を止める権利がある。』
アキが腕を吹き飛ばし、私が剣に力を込め、手のひらを斬った。
あっという表情を浮かべた彼女にとどめを刺そうとするが、突如に私とロゼッタの間に槍が飛んできて、防がれる。
「神からのギフトを受け取らないとは……不敬であるぞッ!!」
数歩引き、構え直す。
「そんなものもらったらうれしすぎて死んじゃうよ。」
なるほど、無茶苦茶ではあるが、完璧なコンビだ。
ロゼッタが前線を自由に駆け、リオが奇想天外な攻撃をする。理に適っていないところが一番厄介だな。
「アキ。」
「………」
「ロゼッタからやるぞ。」
「はい!」
血を吹き出すロゼッタだったが、その目からは狂気じみた勝利への執着が見える。泥臭く、確実に我々を殺そうと企んでいやがる。
「何が……透明で綺麗だ。獣臭くて仕方がない。」
足取りは緩めない。足音を大きく走る。
「血迷ったかッ!!そこは神の射程内なんだよッ!!」
花が舞い、虫のように押し寄せる。
それを隠れ蓑に透明な球が私の体を押した。
両足が地面から離れ、リズムが崩れる。
「ちっ!」
押された先は、拳を構えたロゼッタの目の前だった。
「よぉ……この拳……痛いと思うか?試してみろよッ!!」
拳を振りぬこうとした瞬間、
パン!
パン!
パン!
アキが手拍子をした。
等間隔に、答えるように。
「正解だね。やはり悪くないコンビだ。」
ロゼッタとリオの目から涙が漏れる。
それは赤色で、吐血した。
静止したロゼッタの首を落とし、振り向くと、アキがリオの首を片手にぶら下げていた。
「良くやった。」
「……すみません。足を引っ張って。」
「謙虚なところも実に気に入ったよ。どこから気づいてた?」
「……二歩目です。明らかに無理した態勢で歩いてましたから。リズムでも刻んでいるのかなと思って。」
「私の『音楽』は何も楽器でなくてはならないわけじゃない。世の中音楽で溢れているのさ。鳥の囀りでも、風の音でも、人の足音でもね。最後に拍手で締めるとは実にクールだ。」
「誉めていただいて光栄です。隊長。」
「うん。やはり、悪くない。これは面接を急いだ方が良いね。」
行こう。セレーネ・ドリフトの下へ。
アキと一緒に建物の中へと足を踏み入れた。
・ノア視点
「や。久しいね。」
「……ああ。」
もはや説明不要の黒い部屋。
つっこむ気力もないために、地面と呼んで良いのかわからない、黒い床へと尻を付ける。
「露骨に元気がないね。どうしたんだい?」
「……なんでもねぇ。」
「そうかい。それは残念だ。」
管理人は俺の隣に座った。距離をとるように、間を開けるが、そいつは何も言わなかった。
「やはり、まだ信用されていないのかな。」
「お前をか?」
「そうだよ。一応いろいろやってあげたつもりなんだけどな。」
「……悪かった。」
頭を垂れ、疲れ切ったサラリーマンのように、地面を見た。
一色しかないこの空間は嫌に安心できた。
「君……死んじゃったね。」
「そうか……。」
「生きたい?」
「……分からねぇ。」
「分からない?どうしてかな。」
「……それも分からねぇ。今までは必死だった気がする。俺が負ければエレナや主任が死ぬ。食らいついてでも勝たなきゃいけなかった。それなのに……」
「そうか。やはり彼は君の中で重要な存在だったか。」
「俺なんか……どうでもいい。主任を……」
「すまない。それは……できないんだ。」
「……そうか。」
「悪いね。神の力ってのも……いや、言い訳だね。君に誤魔化すことはやめるよ。それは利益がない。」
「………」
「この手を使うことになるとはね。」
管理人は立ち上がる。
手のひらを出すと
「あまり深入りはしたくなかった。でも……君というモデルケースが誕生することで僕は安心して役を終えることができる。今後はもっと酷い現実を君に叩きつけることになるだろう。許してくれだなんて言わない。でも……」
「なんだって良いさ……俺は……
エレナに会いたいだけなんだ。」
「っ……」
管理人は何かを言おうとしてやめた。
「君は……それができたら満足かな。」
「ああ。これ以外必要ない。」
「………それがどんな結末になるとしても?」
「……今日はおしゃべりだな。俺は……エレナ以外いらない。もう……あいつしか居ないんだ。」
「……分かった。でも、ごめん。僕がダメだと判断したなら、君と彼女を引きはがす。」
「………」
「迷惑をかけるね。」
管理人は歩いていく。足音を一切出さない不気味な立ち姿だった。




