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第二百六十七話

「第二百六十七話」


・アキ視点


 綺麗な音色が響く、今日この頃。

 広場に立ち、演奏会でも開いているかのように満足げな表情で楽器を奏でる女性が居た。

 可憐で、強欲。彼女をまとめるのであればこういった言葉が並ぶんだろう。


 彼女を中心に、三人は動き回った。

 二人の男女は、アイアン・ドールを討たんと攻撃をする。

 僕はアイアンを守るように立ち回る。隙があればいつでも男女を冥界へと送ってあげられたのに、二人は強かった。


 女はロゼッタ、男は、リオ。彼、彼女はそう名乗った。


「『結界・祭事』」


 リオが『結界』を発動すると同時に奇妙で、滑稽な踊りを披露する。

 リバッチ辺りがこの動きをしたならば、笑い転げる場面であるが、この時は、一切の笑みがこぼれなかった。


『僕には君を殺す権利がある。』


 殴りのモーションに入った時、手が急激に重くなるのを感じた。


「っ……」

「もっと楽しみましょうよ。」


 ロゼッタが僕に手のひらを向けていた。


「『結界・玲瓏』」


 握った拳の周りに透明な球体がくっつき、それは重りのように行動を制限した。


「届いたッ!!これは神からのギフトだぜッ!!」


 リオがそう叫ぶと、何もなかった空間から一台のバイクが出現する。それにリオがまたがり、ショットガンを構える。


「合わせろよ。ロゼッタ。」

「まぁ、乱暴な御人。」


 軽快な音を鳴らし、背後の音楽をかき消す勢いでアクセルを踏んだ。そして、アイアンに向かって突進していく。

 片手で運転をし、もう一方の手でショットガンを構えた。


 バァァン!!


 飛び散った散弾はアイアンの方へと直進する。

 それは遠くから撃ったが故に致命傷にこそならないだろうが、多少の擦り傷を髣髴とさせた。


 そんな状況であるにも関わらず、アイアンは目を閉じ、自分の演奏に見入っていた。


『僕には弾丸を止める権利がある。』


 時間がゆっくりと流れる。

 弾丸はおよそ静止し、周りもゆっくりとのろまに見えた。

 果物でも千切るように静かに一つ一つの弾丸を拾い集め、両手で握りつぶした。


『僕にはバイクを壊す権利がある。』


 そう言葉を洩らすと、時は動き出し、バイクは僕の目の前に登場する。

 軸足に力を込め、前輪を思い切り蹴る。進行方向とは違う場所に加わった力は、逃げることができず、乗っていたリオと一緒にバイクが吹き飛んでいった。


「あぶなっ!!」


 一息入れようとしたときに、透明な玉が僕の前を通った。

 それに触れてはいけないと直感で理解した。


「あらら……悪くないコースだったのにねぇ。」

「次は……あんただ。」


『僕にはっ!?』


 背中に激痛が走った。

 急いで振り返り状況を確認する。

 透明な球が自分の背中に突き刺さり、背骨を折ろうと奮闘していた。止まることのないその球はの力はどんどん強くなり、ついには……


 ボキ!!


 大きな音を立てて、僕の骨を砕き、消滅していった。


『僕には回復する権利がある。』


 背中を治癒し、痛みが完全になくなったところで立ち上がる。


「あらら……悪くないと思ったのにねぇ。」


 球の生成と、操作。

 彼女の『結界』はこんなところだろう。


 男の方は……なっ!?


 壊されたバイクを捨て、一人踊りに夢中になっている男が居た。荘厳に、太陽を祝福でもするかの如く、踊る。

 汗を流し、思いのまま、手紙でも書くかのように丁寧だった。


「届いたぞッ!!神への怒りがッ!!」


 リオが吠え、手を伸ばすと、周りは砂漠であるにも関わらず、大量の水が押し寄せた。


「なに!?」


 津波。海の高波が大地へと押し寄せる名前だったはずだ。それなのに、雨も滅多に降らない【ピロニス】で大洪水を起こしやがった!!


『僕には水を止める権利がある。』


 液体は固体であるかのように静止する。

ゼリーのように固まり、一滴も零れることなくその場に止まったのだ。


「驚かされ……しまっ」


「『結界・玲瓏』」


 透明な球体が自分の腹の前まで進んでいることに気が付かなかった。

 それは爆発する。膨らましすぎた風船が割れるように、僕の目の前で破裂した。

 押し寄せる空気の圧は、僕を吹き飛ばし、水の中に沈めた。


「あらら……人の『結界』を邪推するなんておかしな子。私はねぇ……綺麗なのよ。透き通る声、肌、目、髪、仕草。どれをとっても美しい。でもねぇ。美しくないものには牙を向ける。それを感じ取れない者も牙を取る。これが私の『結界』。流儀、使命、幸福なのよぉ?」


 しまった!!

 固まった水には浮力がない!!泳げねぇ!!

 抵抗が大きすぎる!!水が……重すぎてでれねぇ!!


「ねぇ、どんな気分?音楽隊……いえ?元音楽隊隊長アイアン・ドールさん。」

「三分。」

「なぁに?」

「三分経った。」

「そう。」


 ロゼッタとリオは透明な膜につつまれていた。

 音を遮断し、『音楽』を防いだのだった。


「あなたの『音楽』、対策のしようがありすぎて困っちゃう。」

「たまに居るんだ。私が『結界』に頼りすぎてる雑魚だと勘違いする者が。」


 アイアンは剣を引き抜く。


「アキ。どうした。『権利』はないのか?」

「っ!!」


『僕には脱出する権利がある。』


 水が割れ、ようやっと息が吸えた。


「はぁ……かはっ……はぁ……」

「ちょっとしたアクシデントにも対応できないとは……面接からやり直しだな。」

「す、すみません……」

「良いさ。部下のしりぬぐいをするのは隊長の役目だ。」

「あなた……」


 ロゼッタとリオが構える。


「私が直々に引導を渡してやろう。」


 アイアンは走っていった。


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