第二百六十六話
「第二百六十六話」
・リバッチ視点
「その阿呆面……反吐が出る。」
「久々の再開でうれしいのは分かるんだけどさ……言いすぎじゃないか?」
アリエナ・ドリフトと会うのは約二週間ぶりだった。
でも、どうしてだろうか。嬉しさの一切が存在しない。ジャングルでクマに会ったような意外性と、恐怖心が俺を支配した。
「嬉しい?ほんと、ジョークの才能が無い人だこと。」
「………」
次の言葉を悩んでしまった。間髪入れず、罵声を浴びせるべきだろうか。それとも優しい声音でたたみかけるべきだろうか。いや、どちらも正解なんだろう。
だけれど、自分にはそれができなかった。
「一緒にさ……帰らないか?」
銃を捨て、手のひらを出す。
「仮面の馬鹿には俺が説明するし……ノアだって喜ぶ。
こんな提案をするなんて馬鹿げていると言われるかもしれない。何の解決にもなっていないと言われるかもしれない。だけど……また、一緒に……な。」
「………」
アリエナは歩いてくる。
その表情を見ることができなかった。手を取ってくれたならどれだけうれしいだろうか。
仮面……いや、エレナには強がった。アリエナと戦うのは自分であるべきだと。そして、その結果がどうなるのか、分かっていた。
でも、それは違った。銃を……敵意を彼女に向けることなんかできなかった。想像もできなかった。一緒に馬鹿やって、笑いあって、嘘だったかもしれない、表面上だけの演技だったかもしれない。それでも、俺はうれしかったし、楽しかった。
だからこそ……この手を取ってほしかった。
「主任さん。」
いつか……聞いた楽器のような優しい声。俺が何を言っても許してくれる……友人の声だった。
「死ね。」
「ああ。お前ならそう言うよな。」
アリエナは俺の手を斬り落とし、指先を心臓へと向けていた。
「一つだけ良いか?」
「………」
「ありがとう。」
「………」
「主任!!!!」
一歩遅れたノアが、口の周りに牛乳でも飲んだと思わせる髭を作って姿を現す。
「よ。色男はつらいな。モテモテだわ、俺。」
画面が真っ暗になり、自分の記憶が映画のようにあふれ出した。
・ノア視点
「しゅ、主任……?」
転がった肉塊は誰のものなのか、断定することはできなかった。それだけ、粉々だった。足元にあったどこの部分かわからない肉を見る。
「ノア君。ちょっとおいでよ、君も肉にしてあげるからさ。」
誰だ……こいつ……
「姉さんがさぁ……大変そうなんだよなぁ……じゃぁさぁ……私が全力を出せばさぁ……すべて丸く収まると思わなぁい?」
へらへら……笑って……
「エレナもリバッチもノアも全員まとめて送ってやるよぉ……仲良くなッ!!!」
主任が……死んだ……
「ノリ悪いよなぁ?ただの雑魚が死んだだけじゃぁねぇかよ……つまらねぇ……つまらねぇなぁ?」
主任……リバッチ……殺す。
『白紙・猿王』
「望み通り地獄に送ってやるよ。」
「やる気満々じゃぁねぇか。悪くねぇよ。悪くねぇよ!!!」
「『結界・兵器』」
頭に血が上るのが分かった。
血管が目立ち、もはや何も考えられなくなる。目の前のアマを殺すことだけに支配された。
建物が揺れ、怒りに呼応するかのようだった。
「………」
「あれ?来ないの?」
「………」
「悪役にハッピーエンドは訪れない。」
「………」
「おーい。早くやろうぜ。」
「お前、何人殺めた?」
「………」
「こっちから行くぜぇ?」
バァン!
「私たち……わかれようか。」
いつの間にか、額から血が溢れ、目の前が真っ赤になっていた。
そして、天井を見上げるように大の字に倒れていた。
「なんで私たちを殺したの?」
「甘えるな。甘ったれるな。」
「ご飯ちゃんと食べてるの?」
あれ……?
なんで……おれ……戦ってるんだっけ……
なんで……アリエナ相手にマジになってんだ……
エレナは……どこだっけ……
体のどこにも力が入らなかった。
『白紙』が体から消え、ようやっと痛覚が戻った時に、俺は目を閉じた。




