第二百六十五話
「第二百六十五話」
・セリシア視点
「へぇ。」
自己の複製である影をはめ込むことで無理やり体を動かす気か。理屈には合ってるな。だが、治癒にはほど遠いはずだ。
プロが義手や義足で誤魔化すのとはわけが違う。
ダメージは蓄積し、出血は止まらない。
放っておいても死ぬな。
「厄介なのは……」
あの後衛か。
銃の扱いに長けすぎだ。一つ一つの攻撃が、まるで実験しているかのようだ。あれをやられ続けるのは面白くねぇな。
だが、結界師じゃねぇ。カイゼルを殺して、あとでじっくり話でも聞きながら殺すってのも悪くねぇな。
「迷うなぁ~」
「よそ見するんじゃぁ……ねぇよ!!」
カイゼルが突っ込んでくる。
「へぇ。」
欠損部位を埋め合わせただけで、普通に動けるのか。
以前よりもスピードが上がった。やはり、影に蛇を任せたのは自分よりも戦闘能力が高いからか。
影を軸に動くことで無理やり身体能力を向上させた。だが、そんなゴールデンタイムは長く続かない。
「蛇ちゃん。あいつの首を持ってきて。」
三匹の蛇がカイゼルに向かって一斉に走り出す。
バァン!
弾丸が目の横を通り過ぎる。
またこれか。やはり、精度が高すぎるな。奴の弾丸。
私が狼狽え、おかしな行動一つでもすれば頭を抜かれていた。
自滅野郎は蛇に任せ、私は後衛をじっくりいたぶるとするか。
歩き出そうとした時だった。
「っ……!!」
しまった……ダメージを受けすぎた。
受け身を取っていたとはいえ、接近戦で良いようにやられすぎたな。
バァン!
弾丸は太ももを貫通する。
「ちっ!
蛇!!野郎の玉を取ってこい!!」
「やらすかよ!!」
叫び散らすカイゼルの方を見ると、手足すべてが影に変わっていた。
両腕で蛇の首を握る。とんでもない握力なのだけが分かる。
「こうすればよぉ……火も氷も吹けねぇわけだ。」
「っ……!!」
「そしてよぉ……三匹目がどうなるのか、知りたくねぇか?」
二匹が捕まったことで三匹目には気合が入る。
「まさか……止めろ!!止まるんだ!!!」
三匹目は躊躇なくカイゼルの脇腹をえぐり取った。
かなりの激痛であるはずなのに、カイゼルは笑った。
「狩ったぞ……てめぇの下らねぇ芝居道具をよぉ!!!」
カイゼルの脇腹を食いちぎった蛇が崩壊する。
「お前ッ!ふざけ」
カチャリ。
「っ!!」
銃を向けた男が私を指さすかのようだった。
「落ち着けよ。カイゼルが話してる。」
「理屈によぉ……合わねぇってんならこいつらもだよなぁ?」
「っ!!」
「羽もねぇこいつらが空を飛び、あり得ねぇ話だが火を吹きやがる。おかしなこと、だよなぁ?」
「………」
「神話の生物でも具現化して、操った気になってたかもしれんがなぁ……てめぇの理屈と、世間様の理屈は大分ちげぇんだよ。」
カイゼルは一匹の蛇を離し、口に手を突っ込む。
「おかしいと思ったんだ。どうして武具の類が効かないのか。それこそがてめぇの『結界』だったとはな。」
「……しゃべるな。殺したくなる。」
「理屈の拒絶。それが『飛龍』の力だ。弾丸で体が傷つくという理屈を跳ね返し、蛇は空を飛べないという理屈を覆す。誰も火を錬成できないという理屈を破壊した。屁理屈を並べた……ガキの飯事よりもヒデェ話さ。」
カイゼルが蛇の中の何かを壊すと、蛇は壊される。
「お前……」
「そして、まったくもって甚だしい話だが、てめぇはこいつらの弱点を知らねぇ。」
「………」
「知ってるわけねぇよなぁ?理屈、理屈、理屈を唱えるてめぇが従えるペットの原動力がなんであるのか……知らねぇわけだ。」
「………」
「屁理屈を唱える人間は正論を前に、名も名乗れない。」
「これが……蛇の正体だ。」
カイゼルは残った蛇の口を両手で掴み、割いた。
腹の中から出るのは、血でも臓器でもなかった。
小さな、それはとても小さな蛇だった。
「でけぇ蛇が、殻しょって動いてたわけだ。空っぽの中にあるのは、小さな自分だ。自己の理論を唱えるときはでけぇ口を叩くが、相手に論破されれば小さくうずくまり、被害者ムーブをかましやがる。」
「……黙れ。」
「滑稽で仕方がねぇよ。」
「黙れ!!私は理屈で動いている!!誰かが適当なことを抜かし!!町のガキをたぶらかそうと何も言わねぇ!!だが!!私だけは真実を語る!!そのゴミみてぇな蛇は私のじゃねぇ!!私が言うんだから理屈に適っているに決まってる!!!」
「そうかよ。そりゃあ、後で論文にでもまとめな。その小せぇ脳みそに言語が詰まってるならな。」
「私の前で!!しゃしゃりでるんじゃぁねぇ!!!正しいのは私だ!!!」
「リバッチ。あんたは華を持つんだろ?」
バァン!!
・リバッチ視点
「そりゃあな。」
「良かった。」
カイゼルが背中から倒れる。
「カイゼル!!」
カイゼルの下へと駆け寄り、肩を持つ。
「カイゼル!!カイゼル!!!」
「聞いてくれよ……オリヴァー……」
「お、オリヴァー……?」
「俺はさ……未来の俺になったんだ……一瞬だけだったけどな……」
「何言って……あ……」
カイゼルの目から光が消えた。
誰かに聞くまでもなかった。魂がこの世から消えたのだ。
一気に体重が重くなる。そして、欠損部位から血があふれ出し、固まる。
「クソ……」
「ほんと……弱いなぁ。」
声の主を知っている。
「なんでこんなのに姉さんとの時間をさぁ……割かなくちゃぁいけないのかなぁ……許せないなぁ……」
「………感傷に浸りたいんだ。」
「私はさぁ……姉さんが居るだけでいいのにさぁ……」
影から体を出したのは
「アリエナ・ドリフト。」
彼女だった。
「あはは、笑える。
その顔……本当にむかつく。
死ねばいいのに。」




