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第二百六十四話

「第二百六十四話」


・カイゼル視点


 女はセリシアと名乗った。

 薄気味悪い、蛇のような女だった。

 セリシアは一匹の空を駆ける蛇を召喚し、火を噴かせて見せた。攻撃をするりと躱すその蛇は、セリシアが命令しているのではなく、単なる一生物として顕現しているようだった。


「ちっ!」


 影がもろに火を喰らった。無傷ではあったが、少し動きが鈍る。

 そこにセリシアが蹴りを加え、影は一時的に消滅する。


「あなた方……とても理屈に合わない姿をしているわね。」


 セリシアは体に蛇を絡ませて、頭を撫でながら俺らを指さした。


 バァン!


 突然リバッチが発砲する。

 その唐突で相談の一つもない攻撃にビクりと体が反応してしまった。


 その弾丸は蛇に当たるが、貫通することなく、弾かれて壁に突き刺さった。

 カチャンという銃の音が後ろから聞こえる。


「ダメだな。本人に当てるしかない。」

「そうですね……援護は任せます。」


 しかしながら、本人を攻撃し、撃破することも難しいだろう。蛇の強さを恐れているわけじゃない。

 先ほどの、一連の攻防戦で理解した。あいつは……体術もできるタイプだ。

 あの蛇は自己を守らせるための動物ではなく、接近戦をより、スムーズに進めるためのツールだ。

 体術のレベルは……俺より上、影より下。だが、あの蛇が絡むと話が変わる。弾丸すら通用しないあの蛇は、遠距離攻撃に特化し、中途半端なレンジからの攻撃が不可能だ。

 こちらもリバッチの援護があるとはいえ、ほぼ自己の投影体が居るならば、連携だって、こんなツギハギのチームよりはずっといいはずだ。


「理屈に合わないって嫌いなの。」

「っ!!」


 考え事に熱中しすぎたらしい。

 セリシアは退屈そうに蛇を眺める。


「例えばね……家に虫が出たとするでしょう?虫って言えば分かると思うけれど、サイズ感で言えば、消しゴムとか文鎮程度の話よねぇ?でも、誰でも悲鳴を上げて拒絶する。家から追い出す者も居れば、殺しにかかる者も居る。どうしてかしらね……あんなに小さなものに恐怖を感じるだなんて、ご先祖様は虫に食われたのかしら。」

「………」

「でもねぇ……一番理解できないのは、そんな小心者彼ら、彼女らが人間台のサイズを見ると、恐怖ではなく攻撃的になるってことよ。普通は自分と同じような存在に親近感を覚えるものじゃぁないかしら。でもね、誰だっておかしく無様に踊る様が見たいのよ。それを誰かが愉悦と呼んだ。」

「……リバッチさん。」

「ああ。狙うは顔面だ。」


「『結界・影牢』」


 バァン!


 リバッチの発砲音と同時に動く。

 それを愉しそうにセリシアは見る。


「蹴散らして。」


 蛇が火を噴いた。

 影と一緒にそれを避け、セリシアに近づく。

 蛇がしっぽを振り回し、蹴散らそうとしたので、影にしっぽを掴ませる。

 蛇が動けなくなったときに、蛇の背中に乗り、距離を詰めた。


 バァン!


 リバッチがセリシアに向かって発砲する。

 しかし、それを華麗によけ、俺と対峙するため、拳を構えた。


 バァン!


 リバッチの発砲は当たらない。

 飛び上がり、蹴りを繰り出すが、セリシアは片手で止める。残った左手でのパンチを膝で止める。

 地面に足がつくのと同時に剣で斬りつけるが、セリシアは俺の手首を蹴り、剣を離させた。


 バァン!


 次の発砲は蛇に向けてだった。

 弾丸は弾かれ、力をふしりぼった蛇は影を吹き飛ばし、俺に向けて火を放とうとする。


 バァン!

 バァン!


 二発の弾丸は蛇の目に当たり、気をそらさせる。

 その間にセリシアにたたみかけた。


 殴りは防がれ、蹴りを阻止する。

 頭突きは顔面に命中するが、回し蹴りは避けられる。

 影が蛇のしっぽを掴み、セリシアから引きはがす。


「勝ったッ!!」


 セリシアの腕を掴み引き寄せ、肘で内側の肘を打ち、右腕を不能にする。回した腕で顔面を突き、腹を殴った後に、かかとを大きく回し、側頭部へと命中させる。


「っ……!?」


 こいつ……


「もしかして……私のペットが一匹だけだと思った?」


 完全に入ったと思った蹴りは、新たに出現した蛇によって噛みつかれ、止められた。


 う、動けねぇ……なんて顎の力だ!!


「みっともない恰好ね。恥ずべき行為だわ。」

「っ!?」


 冷たい!?

 こっちの蛇は……冷気を操るのか!?

 まずい!!


「リバッチ!!」


 バァン!

 バァン!


 弾丸を二発。

 一発は剣を浮かし、二発目で俺の方へと飛ばした。


「そして、ブラフにも気が付かない。」


 剣を掴み、セリシアの首へと振るが、手首に噛みつく三匹目が居た。


「しまっ」

「遅いわね。確実だ。確実なことしかプロットに組み込まない。」


 三匹目の蛇は俺の左腕を引きちぎり、飛んでいく。


「っ!!」


 続いて、右足が冷気によって凍りつき壊死した。

 セリシアがとどめを刺そうと腕を上げたとき、影が突っ込んできて、セリシアを蹴り飛ばし、俺を抱えてリバッチのところまで運んだ。


「はぁ……っ………」

「カイゼル……動けるか?」

「……っ……」

「……やべぇな。」


 三匹の蛇がセリシアの周りをうろつく。


「一階が随分と騒がしいのね。あいつ死んだなぁ~

 まぁ……ガキとアキってやつを後で集団リンチにすればいいだけか。うんうん、理屈に合ってる。私は間違えていない。」


 こいつ……ぬけぬけと……余裕を見せやがって……


「……やって……やるよ……」

「カイゼル……?」

「リバッチさんは……援護だと言ったでしょう……っ……問題ない……何も問題ないのさ……

 来いッ!!影ッ!!」


 影は壊死した足を斬り落とし、欠損部分を埋めるように俺と同化した。


「ここからだ……てめぇの敗走が見られるのはな。」


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