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第二百六十二話

「第二百六十二話」


・ノア視点


 蹴りで相手を吹き飛ばし、追撃に拳で顔面を窪ませる。

 更に、踵落としで腹の中の臓器をぐちゃぐちゃにした後、二階の床をぶち抜き、一階へと叩き落とした。


「……なんだ。」


 体の不調が嘘みたいだった。

 これまでの疲労とか、先日の大けがとか、嘘みたいだ。

 目は冴え、体は十分に震えあがり、手足は命令の二歩先を歩いてる。エレナに『治療』された時以上の開放感が全身をまくしあげていた。


 何をされたのか理解できないが、目の前の敵をぶちのめし、セレーネを倒せるのなら何でも良かった。


「起きろよ。それとも、ギブアップか?」

「化け……もんが……人間様の言語を話すんじゃぁねぇよ。」


 地面に埋まり、寝転んだ状態で爪を突き立てて威嚇してくる。まるで猫と遊んでいるかのような感覚だった。


 油断とでもいうべきだろうか。この体の状態で、この相手の状態で、負けるわけがないという謎の自信があふれ出て止められなかった。

 いつもなら、とっと殺して次に行くだろうに。何かに舞い上がって、どうしても、完膚なきまでに叩きつぶしたかった。

 そうすることで、愉悦ではないだろうが、快感でも違うだろうが、壺の中に水が満たされる気がしてならなかった。


「お前が聞き取りやすいと思って、言葉を揃えてやってんだろ。」

「ほざけ……てめぇみたいなぁ……剣に頼っているようなぁ……奴にはよぉ……負けねぇんだわ。」


 男は急に起き上がり、爪を立てて、俺の喉元に直進してきた。

 伸ばした腕を掴み、完全な奇襲に成功したと思い込んでいた男は唖然する。そして、その阿呆面を蹴り飛ばし、白目を向かせ、手を離し、側頭部を蹴ることにより、相手は壁を二つ突き破った後に、隣の部屋に横たわった。


 剣を仕舞い、男が倒れた場所まで歩く。

 自分の顔が酷く崩れていることに気が付く。反射で自分の顔を見たとかではなく、心が躍り過ぎていることから結び付けただけである。

 どうして、これほどまでに愉快でならないのか、皆目見当もつかないが、まるで遊んでいるように相手を蹂躙している現場は清々しくて仕方が無かった。


「てめぇ……知ってるか。」

「何をだ。」

「昔はよぉ……なんだって刃物になったんだぜぇ……石とかよぉ……貝殻とかよぉ……下手すりゃあ木でもそうだったかもしれねぇ。そいつがどうだ?今は包丁やら……剣やら……派生してよぉ……弓矢やら斧やらよぉ……その場で自然の力を借りていた太古の生活は……豊かで理想的だとは思わねぇか?」

「随分と長い遺言だな。」

「遺言だと……?

 はは、温いこと抜かしてんなぁ……良いかぁ?てめぇは俺を吹っ飛ばして良い気になってるかもしれんがなぁ……これは計画通りってやつだぜぇ?こうしてしゃがんでるのだって必要だからしゃがんでるんだ。」

「しゃがむ?どう見たって、お前は寝転んでるように見えるけどな。」

「これだから節穴は困る。俺の『結界・剛刃』はどんな物質だろうと刃物に変える。良いかぁ?どんな物質だろうと刃物に変えるんだ。この領域において……この俺は最強なんだぜッ!!」


 聞いてられなかったので一歩前に出ようとするが


「おいおい。進むんじゃぁねぇよ。触れるか触れないかは関係ないんだぜぇ?このよぉ……建物ってもんによぉ入ったが最後、てめぇの敗北は決まってるんだぜッ!!そら、瓦礫も良い感じに舞ってるしよぉ……その辺の壁に触れようもんならてめぇの指どころか腕ごと吹っ飛ぶぜッ!!さぁ、恐怖しろ!!震えろ!!媚びへつらうんだよ!!」

「呆れた野郎だ。」


『白紙・兎』


 でかでかと一歩を踏み出し、その足には歩くには大きすぎる力を加えた。

 足を受け入れた床には亀裂が走り、周囲には圧力が分散する。散った粉や破片はどこか遠くへ行き、壁すらも悲鳴を上げた。


「なっ……!?」


 男の前から姿を消し、次その目に映ったときには、逆さに見えただろう。男の首をへし折り、上下逆にしたのだから。


「どうした?最強さんよ……講釈垂れる前に命乞いの練習をするべきだったな。環境にふんぞりかえってるからそうなるんだ。」


 男が絶命したことを確認して、部屋を出た。

 カイゼルと主任を助けに行かなくてはならない。


 足にぐっと力を込めるが、決して遠くではない場所から足音が聞こえた。それは、下駄のような軽い音であり、敵意のない雰囲気を纏った、不思議な音だった。


「お前……」

「よぉ。久しいな。」


 スーツ姿で廊下を歩き、手には酒であろうかと思われる瓶を持ち、華奢であるが、豊満な体を豪快に見せる女が姿を現した。


「子犬が迷ったか?」

「ヴェイロン……!!!」


 以前殺した相手が生きていたのだ。

 これは、再戦であろうか、それとも、復讐であろうか。

 どちらだって……良かった。

 考えることを辞められるのであれば。


「俺は……勝つぜ。」

「そうか。頼もしいことだ。」


『白紙・豹』


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