第二百六十一話
「第二百六十一話」
・ノア視点
「「「は……?」」」
突如として車が消え、先ほどまで暗がりだった道から反れて事故でもしたのではないかと思ってしまうほどに、場所が変わった。
主任とカイゼルと一緒に情けない声を上げる。
目の前には【ピロニス】では信じられないほどの農園が広がり、草木が生え、夜であるのに、太陽が沈まない不思議な空間だった。そして、空間のおよそ真ん中には大きな城のような建物が建ち、下に立ち尽くす俺らを見下していた。
「ど、どこだ……?」
見当もつかない場所に主任が分かりやすく狼狽える。
「『結界』を使われたのでしょう。ここは【ピロニス】ではないのかもしれない……って、あれ?」
カイゼルが違和感を覚え、自分の体をきょろきょろ見渡す。
服を少したくし上げ、全身舐め回すように見た。
「毒が……」
カイゼルは健康体に成り果てていた。
先ほどまで生死を彷徨い、車の振動一つで絶叫していた彼が、まったくの無傷になったのだ。
「ノア君……?リバッチさん!?」
後ろから聞き馴染みのある声を聞いた。振り返ると、そこにはアキとアイアン・ドールが阿呆面を掲げて立っていたのだ。
「どうして……お前らが……?」
アキとは二日前に別れたはずだ。それなのに、同時に同じ場所に飛ばされた。招いた奴は何が目的なのだろうか。
「全員……喜ぶのは後にした方が良い。」
アイアン・ドールは前を凝視しながら言う。
その目には既に闘志が宿っていた。
「敵襲だ。」
その壮大な建物の入り口と思われる場所からぞろぞろと武器を持った人間が歩いてくる。
三十人ほどいるだろうか。
目くばせをして、全員がそれぞれの背中を守るように輪になった。
俺が
「エレナはどうした。」
主任が
「……知らん。散歩だ。」
カイゼルが
「あれ全部結界師だったら笑えないね。」
アキが
「ドールさん。どうしますか?」
アイアンが
「家名で呼ぶな。殴りたくなる。」
それぞれが武器を構え、攻撃の態勢をとる。
「ここは私とアキでなんとかする。三人はセレーネ・ドリフトの抹殺をしてきて。」
「え?僕?」
「不満か?」
「……光栄です。」
先走った一人が走って槍を刺そうとした時に、アキが槍の先端を掴み、へし折り、男を蹴り飛ばした。
その隙に、主任とカイゼルの服を掴んで
『白紙・隼』
『白紙・猿』
建物の壁を破壊して、内側の侵入に成功する。
「いてて……おい!声かけろよ!」
頭の後ろを押さえながら主任が声を荒げた。
「悪い。頭を打った方が、幾分かマシになると思った。」
「わぁ……毒舌ですね。」
「ほんと、お前らは……人の扱いが雑過ぎる。」
「じゃあ、華を持たせてやるよ。あいつ倒してこい。」
親指でぶち抜いた壁とは反対に位置する扉を指さした。
「あいつ……?」
主任が指さした方をゆっくりと振り向くと
「……よし。ノアやって良いぞ。おっさんに華はいらんからな。若人の活躍を奪うわけにはいかん。」
そこには二人の男女が立っていた。
男は壁にもたれかかり、脱力しきって。
女は仁王立ちをして、自信満々に。
「「殺す。」」
「『結界・影牢』
『白紙・鰐』
「『結界・剛刃』」
「『結界・飛龍』」
カイゼルが女を、俺が男を部屋の外まで吹き飛ばす。
・アイアン視点
「『結界・音楽』」
「さぁ、舞いなさい。アキ君。」
『僕には君らを殺す権利がある。』
「『結界・墜落』」
「『結界・要塞』」
「『結界・塩素』」
アキが周囲の結界師と戦っている間に、演奏を奏でる。
他に誰も居ない、寂しくわびしい音楽ではあるが、どこか心地よかった。
知り合って数時間のアキは、規格外に強い。演奏をしている三分間の間に三十人ほどいた敵が十五人ほどにまで減ってしまう。
『僕には死ねない権利がある。』
演奏が終わり、目線を上げると、突っ立っているアキだけが残る。
息が上がり、汗を掻いているが、その目は次の得物を探していた。
「悪くないね。私とアキの連携は。カーディスの軍にどうかな?」
「スカウトですか。」
「まぁ、そうなるね。」
「お給料は?」
「そこそこ。毎日ケーキが食べられるよ。」
「それは魅力的ですね。でも、すみません。僕は甘いものにうるさくて。」
「へぇ。それは残念だ。フィオレンツァに帰れなくなる。」
「そこまで言われると気になりますね。履歴書、後で書きますね。」
「私が面接官に口利きしよう。彼は、小生意気だとね。」
「合格通知は、ポストに入れといてください。」
「本当に生意気だ。
………次のお客さん、どうする?」
「演奏中に口が寂しいといけませんからね。ワインでも入れましょう。」
「そうしてあげてよ。じゃないと成仏できそうもない。」
広場に残った、私含め四人の男女は互いに見つめ合う。
『僕には権利がある。』
「『結界・音楽』」
「『結界・祭事』」
「『結界・不滅』」
各々得意とする、信頼した武器を手に、戦場を駆け回る。
誰もが正者を降ろすために。




