第二百六十話
「第二百六十話」
・『万能』視点
『セレーネ・ドリフト。君のやり方は大いに正しかった。』
「……!!」
『なんだい?その顔は。まさか、自分しか計画の全容を知らないとでも思ったのかい?それは勘違いだ。“祝福の木”という籠を作り、そこへ人を入れる。誰も飛び方を知らない。だけど、君はそれでよかった。いや?むしろ好都合だった。暴れたいだけの人を集め、暴れさせる舞台を作る。相思相愛とでも呼ぶべきだろうか、君の意見で右往左往してくれる良い手駒が集まった。そして、君は消息を絶つ。内側は揉めに揉め、ついにはフィオレンツァを陥落できなかった。』
「っ……!!」
『あれを計画と呼べるのかは知らないけど、君は一つの誤算だった。何事も無ければ、数週間でフィオレンツァを落とせたのに、タイミングをまずった。だから、あそこまで組織は弱体化した。【ピロニス】へ帰ったと同時に『祝福』を使い、自身の立場を回復させた。そして、もう一つの誤算がアリエナ・ドリフト。君だよ。』
「やめろ。」
『やめないさ。エヴァンシール領最高戦力であるアリエナ・ドリフトは自分にとって邪魔だったのにね。彼女のために、いや?自分のエゴと欲望のためにここまでして、家族としての再会を望んで、同じく再開できると思った。家族団欒を楽しめると思った。それなのに、こじれた彼女と出会ってしまった。』
「やめろ!」
『僕はね。命令されるのが心底嫌いなんだ。だから、やめない。消息を絶った理由は自分の欠点を埋めるため、人員をスカウトするためだ。一人目はオクト構成員セラン。彼の『強者』は自身に向けられたあらゆる攻撃を不特定な第三者へと向ける。その力があれば、君は無条件に『祝福』を連発できる。『権限』の使用には人間の肉体が必要になる。『権利』や『白紙』と違って、君は管理人の加護が無いからね。『権限』を使うのに限界を感じた。そこで『権限』を知る必要があると思った。『運命』と『天罰』の登場だ。いや、彼らを『権限』と呼ぶにはふさわしくないね。確か、名前はタナトス・ドゥームだったかな。彼から『権限』についての話を聞こうとしたが、ドゥームは話を聞かず、タナトスは人任せ、結局『権限』については何も理解できなかった。』
「なんで……そこまで知っている!」
『僕は『万能』だからね。何でも知っているさ。そして、なんでもみられる。君がタナトス・ドゥームに振られる場面もね。話を戻そうか。フィオレンツァ、カーディス、エヴァンシールが共闘をすることは君にとっても好都合だった。【ニクスポート】、【アルカンシア】、【ルメレイン】この三つに存在する五家、ヴァルモンド家、セリディアン家、フィオレンツァ家、カーディス家、エヴァンシール家、これらすべてが戦争を終え、仲良くすることなどできないと君は悟った。だからこそ、ここで戦争を激化させることに決めた。セランを使って『祝福』を連発し、過去に死んだ軍人を生き返らせ、憎しみを持った各々が任務遂行に動くだろうとね。君の狙いは見事的中だ。そして、そこまで欲しいかな、フィオレンツァ領にも侵攻を開始した。先日殲滅された“祝福の木”構成員たちを復活させ、見事ヴァルター・フォールに殲滅させられる。嬉しいね、あそこまで息巻いていたのに、ここまで完膚なきまでに叩きつぶされるとは。』
「黙れ!!!」
『そして、【ピロニス】に招いた、音楽隊、僕、『白紙』、『権利』、リバッチ、オリヴァー・サン、カイゼル・ロマリウス、ベリンガー、ギデオンに関しても勝てると思い込んだ。音楽隊にはレモンを、僕らには無関心を、他四人にはタナトス・ドゥームをそれぞれぶつけた。でも、どれも成功しなかった。』
「っ……!!!」
『結局君は、力を持ったテロリスト程度だったわけさ。テロリストという悪行を力持つ聖人が行うとどうなるのか。面白い話題だとは思ったんだけどね、結局悪役になり切れない役者が居たからね。』
「じゃあ……どうすればよかったんだ!!!」
『簡単だよ。君は前線に出るべきだった。そして、『権限』の犠牲をその場で調達すればよかった。雑魚だろうと、自分の言う事に服従する輩をかたっぱしから復活させて、奴隷集団を作ればよかった。なぜ、セランにこだわるのか。答えは簡単、君は目の前で、自分の手で悪行をすることができないからさ。正義を謳うテロリストは、地面に埋まった犬に小石の一つも投げられない小心者だったからさ。』
「私は!!!」
『いいや、違わないね。言葉を遮って悪いけど、君は蛇じゃない。蛙でもない。狐でもない。君は登場していないんだ。『祝福』という力を持っていながら、君は非道になり切れない。だから、嫌であろうと、妹のセックスに興じてるんだ。』
「あんたなら……あんたならどうする?そこまで大口を出しておいて、まさか、結果論を言うだけで満足するわけじゃないでしょう。」
『もちろん。今更だけど、アドバイス。いや、一つの作戦とでも言おうかな。君はまず手駒を作る。千人、いや、五千人ほどの人間かな。アリエナ・ドリフトが飛行機を作り、それぞれを飛ばす。そして、全員を空から落とすのさ。全員間違いなく死ぬだろうね。落下死だ。痛い痛い。五家の街に投下された駒をすぐさま復活させ、内側から破壊する。内側が荒れ放題の間に君とアリエナ・ドリフトは正面からすべてを破壊する。これで終いだ。結界師が何人集まろうと、『権限』の敵じゃない。君はここまで非道になるべきだった。一般人であろうと、軍人であろうと関係ない。すべてを壊し、修復不可能になるまで壊し、怖し、恐し、毀すべきだった。君はあくまで戦争の終結を目的とした。だから、ここまで設備が整っているのにコテンパンにされたんだ。』
「………」
『反論なしかな?じゃあ、次の話題だ。ここからは君らに報酬でも与えようかな。』
「報酬?」
『君らが勝てば、良いだろう。僕は全力で味方する。そうだな、手始めに軍人と言う概念を破壊しようか。』
「っ!?」
『戦争と言い換えても良い。良いだろう、その語録を消してやる。』
「な、なに!?」
『その代わりだ。君らには全力を出して欲しい。』
指を前に出す。
『ここまでの会話は君と僕だけの話さ。』
「な、何?アリエナが……」
セレーネは固まったアリエナを見る。
『彼女の時は止めた。そして、記憶を繋ぎ直し、違和感ない場面で意識が回復する。だから、この内緒話は君しか知らない。話を合わせなよ。そうでないと……アリエナをこの世から消す。』
「っ……」
『人間は脅しに弱いんだって?扱いやすくて助かるよ。』
パン!
手を一度鳴らす。
セレーネはびくっと体を震わせ、アリエナの顔を見る。
『君らには協力でもしてもらおうかなと思ってね。どうせ、ここがバレると思ってお友達をいっぱい呼んであるんでしょ?僕が指を鳴らせば、全快した五人の勇者が姿を現す。もちろん、この部屋じゃない。この建物の前にね。設定はそうだなぁ、捕まったお姫様を助けるってどうかな。憧れるよね、僕ってほら、強すぎるからさ。』
「「………」」
セレーネとアリエナは互いの顔を見る。
『服を着て、さぁ、戦いだ。』
「姉さんに指一本でも触れたら許さない。」
『良いとも。戦うのは僕じゃない。じゃあ、行くよ。せーの。』
パチン。




