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第二十六話

「第二十六話」


(昔話―月が欠けたように⑤)


 あれから半年の年月が経過した。

 我が家は一週間に一度だけ狩りをした。

 それだけで生活できるほどに安定していた。

 例の大金のおかげだ。自分には勘定ができないので、どれくらいのお金があったのか知らない。

 でも、これだけ生活できると言うことはそういうことなんだろう。


「ごめん下さい。」


 家のドアを叩く音が聞こえる。

 母がいつも通り応対する。


 近所のおばさんだ。

 おじさんが亡くなってから数日に一度我が家に食料を貰いに来る。

 おばさんと言っても、若く、幼い子供が三人いる。

 そう。俺が殺したおじさんの奥さんだ。


「いつも悪いね……」

「良いの。気にしないで。……まだ、帰ってこないの?」

「ええ。まだね……。」


 おじさんは行方不明ということになっている。

 死体が見つかっていないかだら。

 おばさんはまだ希望を捨ててはいなかった。夫が帰って来ると信じている。彼は土の中に埋まっていると言うのに。


 おばさんの顔を見るたびに、自分の中の罪悪感とでもいうのか、そのような何かが動く感じがある。

 しかし、体は動かない。


「お邪魔しました。」

「いいえ。いつでも来て。」


 母は、誰も助けてくれないおばさんをいのいちばんに助けた。

 誰しも言葉にはしなかったが、この家は儲かっているから、偽善行為に花が咲いたのだと思っただろう。

 母は、そんな言葉には屈しなかった。


 おばさんは初めて会ったときよりも痩せている。

 ストレスだろうか。不安感だろうか。

 子育てを一人でやっていかなくてはいけない、プレッシャーだろうか。

 それらを押し付けた俺が、一番の悪であろうか。

 その答えを出すには、俺は若すぎた。そして、落とした何かが大きすぎた。


「おい!!!」


 次の来客は扉を大きく叩く。

 母が扉に駆け寄る。


「金を払え!!!」

「分かってます。」


 数週間前だろうか。

 山賊がこの集落へやって来て、金をせびるようになった。

 自分たちがこの集落の長になると言って。誰も見向きもしないと、集落への嫌がらせが始まった。

 狩りの邪魔をしたり、家を破したり、外で遊んでいる子供に怪我をさせたり。

 金を払えとしつこいので、父が、自分が代表者として払うと言った。

 毎日のように来る。山賊たち。


「良し。今日の分はこんなもんで良いだろ。また来る。」

「分かりました。」


 近頃、母は疲弊しているように見える。

 毎日の山賊の相手。おばさん家への手伝い。学校へ行きたいと言う姉への対処。

 どれも毎日のことである。


 父はと言うと、空いている時間が多くなったので子供たちに狩猟の方法を伝授している。

 それは、集落の大人から絶賛されていた。


 夜のことである。

 眠気が来なかったので、少し夜風に当たりたかった。

 それで階段の手前まで歩いた。


「……どうするの?」

「……そうだなぁ。」

「払いきれるの?」

「それは……」

「無理でしょ。分かってるの?毎日の山賊。クリスへの援助。それに加えて、アリアの学費なんて……子供を学校へ行かせるのには賛成だけど、もう、お金が……」

「……そうだな。厳しいな。」

「厳しいって……本当に考えているの?」

「考えてるさ。」

「あなたは!」

「やめろ。子供に聞こえる。」

「っ!!」


 母には限界が来ていた。

 父がお人よしすぎるので、その負担が母にまで及んでいるのだ。

 姉は学校へ行けると張り切っていた。

 それがどうした、いきなり行けないと言ったら、姉は立ち直れないかもしれない。


「あとどれくらい残ってる?」

「もう二か月も暮らせない。」

「そうか……」


 静かにベッドへと戻った。

 父からもらったナイフを抱きしめて。

 驚くほどにすぐに眠ることが出来た。


 オレガカゾクヲカモルンダ。


 朝、目が覚める。

 父が狩りに行くと言っていたが、断った。

 やりたいことがあったからだ。


 いつものように山賊が来た。

 そして、帰って行った。

 それをつけた。

 気づかれないように、気配を殺して。


 歩いて行った先には、山賊がたむろしている小屋があった。

 山の中腹くらいである。


 扉を大きく開ける。

 全員がこちらを一瞥し、すぐに酒の会話へと戻る。

 ガキの応対には慣れているようだ。


「おい!ガキ!どうした?」


 かなりの身長差があるはずなのに、酒の匂いが漂ってくる。

 どれだけ飲んでいるんだ。


「なんとか言えよ。」


 顔も赤い。

 俺の頭に肘を置き、そのまましゃべる。


「ここはガキのくるとこじゃねぇんだわ。ほら、パパとママにハグでもしてもらえ。」


 頭に家族の顔が浮かぶ。

 その刹那に何かが切り替わった。自分の人格であろうか、それとも……。


「おい。きいてんのk」


 ナイフでその男の首を切断する。

 首が地面に届くころ、山賊たちはこちらを凝視していた。

 生首になっても、死んだことを理解できていない。


「え、、、お、、、え、、、」


 生首がしゃべっているところを初めて見た。

 両手にナイフを構える。


「おい!!!ガキコラ!!!」

「やっちまえ!!!!」


 空間が怒号で埋まった。


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