第二百五十九話
「第二百五十九話」
・エレナ視点
『酷いなぁ、何度も言葉を投げているのに返してくれないだなんてさ。』
「こっちが問いかけても何も言わない癖に。」
『あの時は面白かったからさ。あそこで邪魔をすれば、『白紙』は育たない。』
「ノアが育つ……?」
何もない荒野でただ歩く。
疲労も、空腹もない。絶命しないように、『万能』が補給しているのだ。
「次はどっちに行けば良いの?」
『ああ、こっちだよ。』
『万能』の言うがままに進む。あっているのか知らない。だが、証拠や証言がない今、こいつの言うことを信じるしかなかった。
『『結界』がない、君が行って何をするのさ。』
「あんたが居るじゃん。」
『『万能』を使うって言うのかい?それは面白い。』
「本気よ。」
『だから面白いんじゃないか。』
「ちっ!」
苛立ちがピークに達し声を荒げる。
「【ピロニス】に入ってから頭の中でうるさくしてさ!なんなの!?」
『そろそろ良いかなと思ったからさ。』
「っ……!!まさか!?」
『察しが良くて助かるよ。君との口約束。残念だなぁ~破るしかない。』
「……守る気なんてなかったくせに。」
『良く分かってるじゃないか。君の仕事ぶりは悪くなかったよ。『白紙』を生物として、成長させた。本当によくやってくれたと思うよ。あれだけ好感度があれば、今入れ替わっても問題ないはずだ。』
「ノアに何をさせるの?」
『君では理解できないさ。生物である君ではね。』
「なっ……あっ……っ……」
声が出なかった。
空から吊るされた一本の糸を切られたみたいに動けなくなって、体の操作が効かなくて、脊髄を掴まれるみたいな感覚で。
『『白紙』と遠ざけるってのは悪くない考えだよ。でもね、もう少し彼には成長してもらわないと。でないと……計画が台無しだ。』
最期は何もない砂漠の真ん中の記憶が脳裏に焼き付いた。
・『万能』視点
『あ、ああ~。あ~。うふふ……これが肉体か。』
自分の声を初めて聴いた。
風が気持ち良い。そうか、これが風なのか。
手。これが手か。そうか、思ったよりも重いんだな。
体の重さを体験して、世界の心地よさを思い知る。
『ああ。なんて素晴らしい日なんだろう。誕生日ってやつなのかな。』
さて、セレーネのところで狩るか、それとも後にするか。悩むな。
でも、少しこの感動を味わいたい。もっと、賞味して居たい。
『仕方ない。セレーネ・ドリフトの元で考えるか。』
一歩目を歩く。
『ああ。なんて素晴らしいんだ。これが……徒歩なのか。素晴らしい……地面の感覚が流れ込むみたいだ。』
もう少し歩いていたい……でも、仕方がない。こんな経験を今後ずっとできるだなんて……あぁ……なんて素晴らしいんだ。
『セレーネ・ドリフトのところへ飛ばしておくれ。』
瞬きをすると、ある寝室へと連れていかれた。
『やぁ。お二人さん。』
「……エレナさん!?」
「エレナちゃん……?」
裸で抱き合う二人は突然現れた自分に懐疑的な、夢のような幻覚を見ているのではないかと疑問に持つ。
『うんうん。人と人が愛し合う。なんて素晴らしい行為なんだろうか。』
二人が寝転んでいるベッドの傍に置いてある椅子に腰を掛ける。
『これが椅子ってやつか。なるほど、確かに楽かもしれない。』
「結界・兵器」
「祝福しろ。お前の体を。」
『無駄だよ。』
「「!?」」
二人は全く機能しない自分たちの力を理解できなかった。
『それは……そうだ。一番重要なことを忘れていたよ。一人称さ。自分のことをなんと呼べばいいだろうか。』
「な、何言って……」
「エレナちゃん……じゃないね。」
『そうだなぁ……そうだ、僕なんてどうだろう。可愛らしくて良くないかい?』
二人に合意を求めるが、反応は帰ってこない。
『なんだよ。つまらないな。今日は僕の誕生日だってのにさ。』
椅子から立ち上がり、机に置いてあった水を手に取る。
『これ、飲んでも良いかな。別に僕には飲み食いは必要ないんだけど、ほら、人間って食欲って言うほど、口に入れる物にうるさいじゃん。だから、僕も真似してみようと思ってさ。』
水を飲み、空になったコップを見る。
『うん。これが旨いってやつなのかな。悪くない。いや?素晴らしいね。これも良いかな?』
同じく机に置いてあったナッツを口にする。
『うん。旨い。なるほど、これが食欲か。』
「あなた誰。」
セレーネが質問する。
『僕?僕は……エレナさ。自分で名前を決めても良いんだけど、ほら、数分前に出来上がったばかりだからさ。良い名前を浮かべられなくて。』
「………」
二人は大いに警戒する。
『やめなよ。君らじゃ相手にならない。』
空になったコップを机に置き、二人を見る。




