第二百五十七話
「第二百五十七話」
アルヴィン・カーディスはその日、仕事が一段落したので、帰り支度を進めていた。持ってきた鞄に書類と筆記用具を詰め、持ち上げる。
やや、軽いと感じる鞄を片手にドアノブに手を掛けた瞬間だった。
いきなり扉が開かれ、つまずいてしまう。
「おっと……」
「わぁ!びっくりした……」
入って来たアルヴィン・カーディスの秘書は、急にアルヴィンの顔面が飛び出てきたことに驚いた。
「びっくりしたのは私の方だ。」
「す、すみません……急ぎの報告です!」
「なんだ。今から家に」
「セリディアンが侵攻を開始しました!」
「……は?」
アルヴィンはその言葉が信じられないと同時に意味が分からないとも感じた。
「何かの間違いだろう。セリディアンは万年、ヴァルモンドを押さえるのに手いっぱいじゃないか。」
「し、しかし……」
「国境沿いを強化しておけ。セリディアンは捨て駒とかいう戦法を使う奴らじゃない。何か、決定的な何かがないと動かん。」
「アルヴィンさん!!!」
「次はなんだ。」
廊下へと一歩前に出て、顔を覗かせる。
廊下を全力疾走してくる別の部下の顔が浮かんできた。
「リヴィア・フィオレンツァからの緊急要請!!“祝福の木”が攻撃を開始したと!!」
「……は?」
またも訳のわからない話だった。
“祝福の木”の構成員の死体は確認した。それなのに、どうしてまだ余力があるのだろうか。
アルヴィンは一つの事柄を思い出す。
ぷるるる……ぷるるる……
アルヴィンの部屋の電話が鳴った。
咄嗟にそれをとる。アルヴィンには相手がだれであるのか、見当がついていた。
「ゼノスか。」
「アルヴィンさん。先日ぶりですね。」
「どうした。」
「急な話で申し訳ないんですが、人手を貸していただけませんか?」
「なに?」
「【フロストホロウ】から刺客が送り込まれているらしく。」
「【フロストホロウ】……オクトか。」
「それとヴァルモンドの軍人です。いきなりの出来事で」
「分かった。今日にでも助け船を出す。出来るだけ【フロストホロウ】に留めろ。挟み撃ちにする。殲滅し次第、フィオレンツァに向かってくれ。」
「え?なぜです?」
「後で話す。」
電話を勢いよく切り、周りを見る。
「非番の軍人も全員招集しろ。セリディアンを追い返せ。フィオレンツァに人手を出す。動け!!」
二人の部下はそれぞれ走っていく。
そして、走った先で一方が血を流し、破裂したのをアルヴィン・カーディスは知らなかった。
「どうしました?そわそわして。」
書類の山に包まれたリヴィアに対し、ネリアは問う。
まるで答えを知っているかのように、ニヤニヤと笑って。
「別になんでも……」
「ヴァルター君なら外ですよ。」
「………」
「違いました?」
「そうだよ!違うもん!ヴァルターなんて……二人の時、無言だし、ソワソワしてるし、口を開いたかと思えば、心配心配って。ヴァルターが一人で居る時が多いから気にかけているだけ。」
「そうですか?やけに二人で居るところを見ますけど。」
「あ、あれは……手伝ってもらってるだけ。ほ、ほら、書類整理は人手が居るし。」
「彼と書類整理したことがありますけど、全然仕事にならなかったですよ?こっちに仕舞えば忘れるかもしれないとか、こっちに仕舞ったかと思えば無くすかもしれないって。」
「………」
「それに……二人の時に扉に鍵をかけるとか。」
「なっ……だ、誰がそんなガセを!」
「今のは冗談です。聞いたことない噂でした。」
「………」
ネリアは自分の書類を数枚持って、部屋の扉を開けた。
「未来のフィオレンツァに乾杯。」
「ちょっ!ヴァルターとはそういうんじゃ!」
ネリアはリヴィアの声を聞かずにどこかへ歩いていく。
気になったのはネリアも一緒だったからだ。
ヴァルターが今朝出て行ったきりだった。そのまま直帰したのかもしれないが、真面目な彼が外で時間を潰して誰にも声を掛けず帰るなんてありえないとネリアは思っていた。
誰に聞いても知らない、分からない。
では、彼はどこで何をしているのだろうか。
風を切る良い音が鳴った。
血が飛翔し、空気は真っ赤になっていた。
「ふぅ……」
ため息と一緒に疲労を吹き飛ばす。
「て、てめぇ……」
「何かな。」
「よ、余裕を見せやがって……良い気になってんじゃねぇ!!」
斬りかかって来た一人は、いきなり静止する。
そして、勝ち誇ったように笑い、死んでいった。
「『結界・心配』」
ヴァルター・フォールが現着し戦闘を開始してから数時間。出来上がった死体の山は、七十に届きそうだった。
「やけに多いな。今日は残業になりそうだ。」
ヴァルターは血だらけになった広場で再度溜息をつく。
新たに四人の屈強な男がヴァルターの前に立ちふさがると
「良いよ。やろうか。僕は心配ごとを早めに終わらせたいんだ。次の心配事が待ってるからね。」
ヴァルターは四人を瞬殺し、次のフロアへと向かった。
歩いている最中に電話をし、アルヴィン・カーディスに要請をしておく。
翌朝カーディスの軍人がやって来ると、行ったのは死体の処理だけだった。
夜の時間をかけて、ヴァルター・フォールは突如現れた“祝福の木”構成員百五十二人を殲滅した。




