第二百五十六話
「第二百五十六話」
・アキ視点
アイアン・ドールの顔を見る限り、状況は最悪らしかった。
「またも!!一匹の悪魔がこの皆さまの聖域に入り込みました!!これは許されざる行為であります!!」
目の前の男が民衆を煽る。
それを聞いた、血の付いたナイフを持った男が走って来た。後ろから来ていることに気が付いていたため、それを避け、蹴り飛ばす。
『僕には彼を死なせない権利がある。』
男は壁に突き刺さり、動かなくなる。
「申し訳ないけど、僕も故郷を焼かれた被害者の一人だ。君らが、被害者を自称し、加害者へと一歩踏み入れ、僕と同じ目線に立ったのなら容赦はできない。」
誰もが一歩下がった。
そして、怯えるように震え、僕の全身を捉えるが如く、眼球だけを動かした。
「これで君との一騎打ちかな。」
「そうなるなぁ?しかし、驚いたぜ。容赦や遠慮とかを一切排除し、犠牲を作ることで、誰もに恐怖を植え付けるなんてよぉ……人間の所業じゃぁねぇな。」
「そうかな。そうかもね。僕は常に加害者であるから。」
「それに……その呪文。てめぇもセレーネみたいな……バケモンか。」
「化け物?面白い人物像だね。反吐が出る。」
「『結界・賭博』」
『僕には死なない権利がある。』
バァン!
男は自身の頭めがけて発砲する。
弾丸が側頭部に当たる音だけが響いて、地面へと落ちた。
「俺のぉ……『結界』程度じゃぁ、てめぇには届かねぇか。」
「申し訳ないけど、そうだね。」
『僕には彼を殺す権利がある。』
手で銃の形を作り、男へと向けた。
すぐに男はバラバラになり、肉片が飛び散る。
『僕には復活させない権利がある。』
男だった破片はピクリとも動かない。血生臭い現場だけを残して、彼は旅立って行った。
「君の雇い主は見限ったみたいだね。金の切れ目が縁の切れ目とは良く言ったもんだ。」
まだ沸騰している民衆の目線が刺さる。
何かきっかけでもあれば襲い掛かってきそうな勢いだった。
「次の相手は君らかな。もちろん、被害者であり続ける限り、僕は何もしない。でも、一歩だ。一歩でも踏み入れれば手加減できなくなる。さ、どうするかな。」
化け物でも見るかのような視線を外し、誰もが身じろいだ。そして、人の海が割れていく。
勇者……いや、愚者は居なかったらしい。
『僕には跳躍する権利がある。』
屋根の上に置いてきたアイアンの元へ向かった。
「大丈夫ですか?立てます?」
「え、ええ。問題ないけど……あなた、強かったんだね。」
「……そんなこと……ないですよ。」
「謙遜はやめて。敗者がみっともなく光るから。」
「肝に銘じておきます。」
「ありがとう。そして、どうしてここへ?」
「エレナさんの命令ですよ。他のグループが苦戦するだろうから、援護に向かうべきだって……残念ながら、僕は遅れてしまいましたが。」
「そんなことは気にしなくていい。私らが負けただけだから。そんなことよりも、エレナさんは私らが負ける前提で動いていたの?」
「いえ……つい二日ほど前の出来事でした。夜分に突然。」
「そう……」
アイアンは納得のできない溜息をついて、立ち上がる。
「それで?ここからどう降りるの?」
「お姫様抱っこ?」
「……あはは、笑える。」
「“serious”」
「ファックユー。」
・セレーネ視点
「あらら……残念。」
「どうしたの?姉さん。」
「面白いおもちゃが壊れちゃった。」
「そう。別に次のおもちゃで遊べばいいじゃない。」
「まぁ、そうだね。出資のし甲斐はあったけど、呆気ない最期だった。」
水の入ったコップを手に取り、喉を潤す。
「姉さん。」
アリエナが後ろから抱き着いてくる。
「そんな遠くを見つめないでよ。」
「ごめんごめん。二人きりの時に違う話をするのはご法度だった。」
「そうそう。」
両肩に手を置かれ、振り向かされる。
唇を押し付けられ、そのままベッドに連行された。
「うふふ。」
「あ……また違うこと考えてる。」
「ごめんね。でも、ここからが一番面白い場面だから。」
「面白い?」
「ええ。ここまでは予想通り。気に食わない部分はあるけれど。」
布団を引き寄せて、首元まで被る。
「フィオレンツァのトップを【ピロニス】に引っ張れなかったのは残念だった。」
「トップ?リヴィアのこと?」
「違うよ。武の才で秀でたという意味で。」
「でも、フィオレンツァにはまともな軍人なんて……」
「いいえ?なぜ“祝福の木”が完全にフィオレンツァを落とせなかったのか。その理由は二つ。一つ目にカーディスとエヴァンシールにフィオレンツァと仲良くしてほしかったから。あの同盟を結ばせることこそが私の目的だった。そして、“祝福の木”を殲滅させ、死体を内部へと置いておくこともね。」
「なんで?」
「今日中にでも分かるよ。二つ目に彼の存在だよ。」
「彼?」
「ええ。私にとっての大きな誤算。大きすぎる得物。人数をどれだけ積んでも勝てないと思わせた人物。圧倒的な人数不利でも誰もフィオレンツァに手を出せなかった要因がヴァルター・フォール。フィオレンツァ領最高戦力だ。」




