第二百五十五話
「第二百五十五話」
・アイアン視点
八度、レモンの首を落とした。
『隷属』の首が二度落ちた。
奴は六度復活した。
「ちっ!」
「甘ぇんだよ!!討たれる度に、別のギャンブラーがコインを入れる!!
一撃必殺であろうと、無意味。そして、いつこの刃が自分に向けられるのかわからない。
マティアスは息が上がり、レオネルは目を閉じた。
復活自体はこいつの『結界』じゃない。本体を殺さないとダメか。復活の回数におよそ制限はない。
誰が……いや、考えるまでもないだろう。セレーネ・ドリフトだ。
「考え事か!?どうした!!!」
レモンが拳を振りぬくが、それを剣の腹で押し出して躱す。
首めがけて剣を振り寸止めする。レモンが目を瞑ったタイミングで、腹を蹴り、後ろへ追いやった。
「マティアス!レオネルを連れて外に出ろ!!」
「はい!!」
『隷属』がレモンを囲み、身動きを取れなくする。攻撃は一切しない。そして、自傷行為もさせなかった。
レオネルを抱えたマティアスの背中を守るように、後ろに張り付き外へ出た。
「あいつは無理だ。やはり、セレーネを優先する。」
「分かりました。あんな芸当ができるってことは……」
「よせ。悪い方向に考えるな。」
「そ、そうですね。」
外は野次馬でいっぱいだった。
銃声が響き、雄叫びのように叫んだんだ。これだけ集まって当然だろう。
そして、顔を完全に見られた。
「どうしますか!?」
「クソ……」
これじゃ外になんて出られるはずがない。
市民の多くは、“祝福の木”の支部を壊した犯罪者を許さないだろう。彼らは、現状ギャラリーであるが、いつ牙を向くかわからない。
真実がはっきりとすれば、彼ら彼女らは攻撃を開始する。悪口や噂を広めるだなんて小癪な真似ではなく、暴力には暴力でぶつけてくるだろう。
車が無い今、彼らから逃げる手立てもない。
一番厄介なのは……
「どこ行くんだよぉ?寂しいじゃぁねぇか。」
「レモン……!!」
「意外にもいい考えじゃねぇか。」
「……?」
「これだけ賭け金があればよぉ……確かに死ぬ確率は下がるわな。」
「賭け金……?っ!!!お前!!」
「遅っそ。この際、誰が悪役なのか関係ねぇ。お前らの顔さえ覚えさせれば問題ねぇわけだ。」
「やめろ!!!」
バァン!
レモンは自身の頭に銃弾を叩きこむ。
その瞬間だった。野次馬の中で誰かが倒れる。銃に撃たれたように、脳髄をたれ流し、血を吹き出しながら倒れた。
その視線は一気に集まる。そして、私らを非難する目で見た。
全員の中で一つの創作が生まれたことだろう。
この女が市民に、我々の仲間に直接牙を向けたと。“祝福の木”という生態系を支えている役所を壊すだけに飽き足らず、人さえも殺したと。
『賭博』の犠牲になったのは若い女性だった。
その女性の懐で小さな男の子が、現状を理解した上で、涙を流した。ここまで聞こえる声で叫びながら。
民衆は我々の持っている武器に注目する。
そして、断定したらしい。目の色が変わった。
それに追い打ちをかけるようにレモンは言う。
「おお……!!なんと酷い!!民衆の中に銃弾を溶け込まし!!小さな小さな少年の……唯一の存在を消し飛ばすなど!!なんとおぞましい!!これが……カーディス領音楽隊隊長アイアン・ドールの所業なのだろうか!!」
「貴様ッ!!どの口」
「酷い!!見ていられない!!しかし、安心していただきたい!!我々、“祝福の木”は悪魔を根絶やしにするため!!全力を尽くしましょう。」
「『結界・賭博』」
バァン!
「ちっ!マティアス!!『隷属』で奴を中に戻せ!!」
「………」
「マティアス!!おい!!何して……」
「かはっ……」
マティアスは吐血する。
「マティアス……?なっ!?」
先走った民衆の一人がマティアスの心臓に刃物を刺し込んだ。
マティアスは抱えていたレオネルを地面に落とす。既に冷たくなっていたレオネルは痛がる素振りの一切を見せず、地面に倒れこむ。
マティアスが受ける刃物は一本だけではなかった。一人目に続き、二人三人と怒りを露わにし、マティアスにぶつけた。
あっという間に、マティアスはハチの巣状態になり、力なく倒れた。
マティアスが絶命すると、矛先は私に向けられる。
「皆さん!!この犯罪者……テロリストを討ち滅ぼそうじゃありませんか!!」
レモンが煽る。
一人目が前に出たのを皮切りに、全員が向かってきた。行進を始めたのだ。
武器と楽器を地面に捨て、最期を悟る。
「安心しろ……私は敵以外に刃物は向けない主義だ。」
両手を広げ、その一撃を享受する。
目を瞑り、その瞬間を待った。しかし、その瞬間は訪れなかった。
『僕には跳躍する権利がある。』
体を抱きしめられ、空を舞う。
私を掴んだ男は、屋根まで飛び、着地する。
抱えられた私を屋根に座らせた。
誰だっただろうか。
確か、エレナとノアと一緒に旅立った青年のはずだ。気弱そうで、荷物持ち程度だと思っていた。しかし、こんなにも、男前に自信家に成長するものだろうか。
名前は……
「お前は……」
「アキ。名前を憶えていなくて当然です。後はお任せください。」
アキは地面に落ちていく。
きれいに着地すると
『僕には権利がある。』
自己を鼓舞するまじないだろうか。それを口にした。




