第二百五十四話
「第二百五十四話」
・アイアン視点
三分後、演奏が終わった。
人がバタバタと倒れる音がする。
「さて、乗り物でも探しに行こうか。」
楽器を片手に、建物から出ようとする。
目の端で、ピクリと動いた死体があった。気のせいだろうとも思ったが、何かが引っ掛かった。
「待って。」
「どうしました?」
「死体を確認……いや、その必要はなさそうだ。」
死体の山から一人の男が立ち上がる。
「やべぇ……マジだ。」
解放感と呼ぶべきだろうか、それとも服従したのだろうか。
男は手の感触を確かめながら目を見開く。
「……隊長」
「ええ。」
マティアスが声を低く名前を呼んだ。
私の『音楽』に例外はない。これまでも、これからも。それなのに、目の前の男は立ち上がった。
誰かが、あいつに息を吹き込んだんだ。
「殺れ。」
レオネルが発砲し、ルーカスが斧を持ち突っ込む。
弾丸は、男の肩を貫通し、ルーカスが首を斬った。
「『結界・音楽』」
「全員構えろ。演奏の再開だ。」
男は蘇る。斬られた首が嘘のように引っ付いた。
制限も制約もないこの復活は、攻略のし甲斐がある。
「面白いじゃないか。」
「あ……あ~あ。マジにマジだ。大マジだ。俺が生きてるって話はよぉ。」
発声を試すように、己の状況を分析するように、信じていなかった事柄が実際に起きてしまったことに本人も理解ができていないようだった。
「生が一度しかないから楽しめたこの俺に……ベッドするなんてとんだゴミだとは思ったがよぉ……存外悪くねぇのかもなぁ?」
後ろに回ったルーカスがゆっくりと戻ってきた。
楽器を構える。
演奏を開始した。
「うるせぇ音楽だがよぉ……慣れちまえばよぉ……問題ねぇわけだ。」
爆音で響く音楽の中、男は吠える。
私からすれば、聞き取れないかすかな声だった。
「『結界・賭博』」
「俺はレモン。覚えときな、カーディスのディーラーを殺した男の名を。」
「!?」
男は銃を拾い上げ構えた。
構えた先は、自分の頭だった。
「奴の銃を取り上げろ!!!」
マティアスの『隷属』が一斉に動く。
「二度あることは三度ある?三度目の正直?仏の顔も三度まで?……舐めんじゃぁねぇぞ。一度だから胆が据わるんだ。一度だから必死になるんだ。一発だから……尻の穴が締まるんだ。」
男は冷や汗を流しながら引き金を引いた。
バァン!
弾丸は男の脳みそを破壊し、脳髄がそこらに飛び散った。
自殺……いや、もっと愉快で、計画的な行動だっただろう。
そして、私の予想では……
「残酷だなぁ?ギャンブルってのは。」
「たいちょ」
「演奏を止めるな!!マティアス!!奴に発砲をさせるな!!!」
事態に懐疑的だった三人は、構わず演奏を続ける。
『隷属』はレモンを囲み、追い込んだ。
「銃を取り上げろ。」
『隷属』の三人が襲いかかるが、レモンはニヤリと笑って、再度発砲した。自身の頭に向かって。
バァン!
私の真横で血が飛び散った。
「なに!?」
頭を貫かれたのは、ルーカスだった。
音の『反響』が無くなる。音は一般的な音色へと変わり、耳当たりの良い演奏へと変貌した。
対するレモンは無傷だった。『隷属』に銃を取られ、押さえつけられるが、それでも無傷だった。
『隷属』の一人がレモンの腕を掴んだ。
「!!!やめろ!!!」
マティアスに向かって叫ぶが、それは遅かった。
『隷属』の一人は、レモンの俺を引きちぎった……ように思われたが、実際に引きちぎられたのは、レオネルの腕だった。
「ふっ」
レモンは少し笑うと、『隷属』を蹴散らし、拘束を逃れた。
距離をとり、私らを眺めるように手に顎を置いて、座った。
演奏が中止する。
「レオネル!!」
「っ……っ……」
腕をもがれた激痛で、地面に倒れこんだ。
一瞬で……一瞬で二人を戦闘不能にしやがった。
これじゃ、『音楽』も使えない。
野郎……三人の結界師を不能にしやがった!!
「おお、演奏を止めちまったのか?残念だ。愉快な空間だったのによぉ。」
「貴様……」
「おお、その顔。怖いが、怖かねぇ。ハンかチョウか。ハイかローか。表か裏か。分かるか?ギャンブルってのは、二択なんだぜぇ?いろいろ小細工してよぉ、心理戦ってやつを引き立たせたいらしいが、そんなもんは無粋だぁ。なんだって、二択で十分なのさ。それ以外は関係ねぇ。興じるんだ、誰が死ぬべきなのかをな。」
レモンは銃を構える。
迷うことなく、引き金を引き、自分の頭を吹き飛ばした。
楽器を置き、剣を構える。
「レオネル。動けるようになったら援護を頼む。マティアス、私と出ろ。狩るぞ。この愚か者を。」
レモンは一瞬の間に復活する。
「これも二択だ。俺は賭けたんだ。ディーラーは神だ。神しか結果は分からねぇ。だからこそ、面白れぇ。公平で、賄賂も、イカサマもねぇから面白れぇ。俺がイカサマだって?そいつはちげぇな。ただ、他よりチップが多いだけさ。」
「隊長。」
「………」
奴の『結界』、自身のダメージを相手に被せることができる。
それは、公平なサイコロのように、誰に当たるかわからない。
無茶苦茶に攻撃はできない。
なら
「『隷属』をありったけだせ。」
「……!」
「思い知らせてやる。どっちが上なのかをな。」




