第二百五十三話
「第二百五十三話」
・アイアン視点
「ここも外れか。」
七つの支部を訪れて、そのすべてはセレーネ・ドリフトに繋がる手掛かりがまったくなかった。
「隊長。」
「ん?なぁに?」
「ここの結界師は二十九名だったみたいです。他よりも少し多い。」
これまでの支部が二十名前後であったことを考慮すると、確かに少しばかり人数が多かった。
「警備が厳重になっているからって、なんの手掛かりにもならないさ。現に、この街も特質した何かがあるわけでもない。」
「そうですね……すみません。いらない情報でした。」
「いやいや、良いんだよ。こうして、結界師を排除していけば、いつかはセレーネ・ドリフトが出張るしかない。支部潰しを続けようじゃないか。」
「レオネルとルーカスが車を取りに行っています。じきに、帰ってくるでしょう。そろそろ外へ。」
「そうだね。そうしようか。」
マティアスと一緒に死体の山を踏みつけて、外へ出た。
朝の明るさは、暗がりにいた私の目によく染みた。
「まぶし。」
「時刻は六時半です。地図で言えば、次の街へは昼過ぎにはつけるでしょう。」
「燃料は?」
「あと……四分の一ほどです。」
「そう。そろそろ車両を卒業するタイミングかもね。」
「隊長ッ!!車両の準備ができたぜッ!!」
「「うるさ。」」
車両が到着し、助手席の窓を開けたルーカスが顔を覗かせ、叫ぶ。
マティアスが後ろのドアを開け、手を差し出してくる。
「どうぞ。」
「ありがと。」
全員が車に乗ると、車は勢いよく走り出した。
およそ騒音と呼べるものが無いこの街では、車の音が良く響いた。
「隊長、レーションです。」
「またこれか……」
「文句言わんでください。保存の効くものが無いんですから。」
「分かってる。毎日同じメニューなんだ。君らに非はないにしても、文句の一つくらい言わせておくれよ。」
袋を破り、かじる。
何も変わらない、飽き飽きとした味。
「……隊長。」
運転しているレオネルが、他とは違い遠慮がちに、声を出す。
「燃料の話は聞きましたか?」
「うん。もう、無いんだって?」
「ええ。どうしますか?」
「次の街までは持つんでしょう?」
「恐らくは。」
「じゃあ、今考えるのはよそうよ。後で考えれば良いことにリソースを使いたくない。」
「そうですね。わかりました。」
車外では、走る鉄の塊を物珍しそうに眺める人々の姿が映る。
「はぁ……ケーキ食べたい。」
レーションを食べきった感想が口から洩れる。
車が走ること数時間。百五十キロ先に次の街はあった。
前回よりも広く、大きいその街は、物の往来も激しく、【ピロニス】では有数な都市として有名だった。
「『結界・隷属』」
「近くに結界師は居ません。」
「そう。車両は適当に放置して行こう。どうせ、もう走れない。」
「分かりました。」
「各々荷物だけ持って。」
鞄を背負い、立ち上がる。
「さぁ、行こうか。紳士諸君。」
“祝福の木”の拠点は普段通りすぐに見つかった。
街の中心に位置し、人の往来が激しい場所。誰もが一度は入るであろう施設こそが“祝福の木”の支部だった。
「昼間からやるんですか?」
「そうだよ?何か問題でもあるかな?暑いし、次の乗り物も決めなくちゃいけない。今日は大忙しさ。」
「今日の夜は豪華に行こうぜッ!!」
「【ピロニス】の物価で豪遊は無理だよ。一杯が限界さ。」
談笑をしながら、建物に入っていく。
周りと違う服装に、誰もが気が付く。
「暴れろ。一般人が退避し次第、演奏を開始する。」
「『結界・隷属』」
マティアスの『隷属』で複数の兵隊が誕生する。
そして、走り出したかと思うと、棚やら壁やらを破壊し始める。
『結界』を発動したことに気が付いた者から逃げ出していく。悲鳴を上げる者も居た。
暴れ出した、服装の違う者を見て察しの付いた者から向かってきた。
二階から飛び降りて、剣を握りしめた二人組をルーカスが斧を振り、仕留めた。
レオネルは銃で威嚇射撃をしながら、結界師を仕留めていく。
マティアスは老人やら子供やら、腰を抜かして動けない人々を背負い、外へ放り出していく。
無関係な一般人が全員、ひとり残らず、全員が外に出たことを確認し、楽器を構える。
「さぁ、勝負の時間だね。」
既に死んだ、五人の結界師を踏みつけ、仁王立ちする。
腹に力を込め、空気が喉を通り、口から放出されていく。
「『結界・音楽』」
「『結界・固執』」
「『結界・反響』」
演奏を開始した。
・セレーネ視点
「ふふふ……」
「どうしたの?姉さん。」
「いえね……狙い通り全員が内側に入ってくれたと思っただけ。」
「んっ……もうちょっと激しくっ……」
「分かってる。」
ぐちゅぐちゅと音を鳴らす。
「んっ……」
「さて……音楽隊には解散してもらおうか。」




