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第二百五十二話

「第二百五十二話」


・カイゼル視点


 リバッチに背負われたまま、どこかへと運ばれている。

 どこへかはわからない。そして、どうして二人がここに居るのかも不明だった。


「お前、普通に走れるじゃん。」


 リバッチはノアを揶揄うように言った。


「エレナから松葉杖をもらっただけだからな。」

「過保護だな。あいつも。」

「主任は大丈夫なのか?」

「気遣ってくれるのか?実は、全身痛すぎて発狂しそうだ。カイゼルの運搬を交代してくれ。」

「俺は怪我人だから無理。」

「……さいですか。」


 二人は街の外に隠してある車まで走っている最中であることが分かった。

 初めて来た場所であろうに、迷いなく進む二人の足取りは速かった。

 しばらくして、街の外へと出ることができた。二人が乗ってきたであろう車両が目の前に見える。


 そこには、見覚えがある人物が座っていた。


「主任。」

「ああ。」


 リバッチは俺を地面に座らせて銃を構える。

 ノアは対話を試みるために、素手で歩いていく。


「ま、待ってくれ……」

「「?」」

「知り合いだ。」

「知り合い?」


 リバッチは見たこともない人物をもう一度見て、やはり信用できないという顔を浮かべた。


 座っている男は俺らに気が付くと、立ち上がり、ポケットから錠剤の入った袋を取り出した。

 彼は、マーカスだった。


「二人はどうした。」

「………」

「医者の言うことを信じないからだ。お前も、悪化しているじゃないか。」

「………」

「はぁ……君ら、彼の友達か?」

「まぁ……そんなところだ。」


 ノアとリバッチは警戒を緩めない。


「落ち着いてくれ。僕は、結界師とか“祝福の木”関係者とかじゃない。もし、今斬りかかられたら僕は余裕で死ねる。」

「……分かった。」


 ノアは手を地面へと下げ、リバッチに目で合図する。

 すると、リバッチも銃を下げ、肩にかけ直した。

 リバッチは俺の手を取り、再度担いだ。


「夜が明ける前に終わるとは、君ら随分と強いんだね。」

「感心とか、小言を言うために来たのか?」


 以前話したマーカスは、戦いというものにまったく興味が無いように見えた。

 ここで待っていたのも、薬を渡す目的じゃないだろう。


「薬を渡しそびれた。まぁ、それだけが目的じゃないけどね。」


 持ってきた薬をノアに手渡す。


「これを彼に。もう、効かないだろうけど。」

「なんだこれ。」

「抗生物質だよ。傷だらけで砂漠を歩いたんだ。破傷風にでもなったら大変だ。」

「……分かった。」

「申し訳ないけど、解毒は専門外でね。余命宣告くらいしか僕にはできない。」

「………」

「患者のメンタルケアも仕事の内でね。このままじゃ、君らショックで寝込んじゃうかなと思って待ってた。」

「「「………」」」


「君らは正しいことをした。誇っていい。」


 それは、“祝福の木”という【ピロニス】の命を破壊しんとするテロリストに向けられた言葉ではないように思えた。


「カイゼル君には話したね。僕が、ヴァルモンド家の管轄で生まれたことを。」

「あ、ああ。」

「だから、第三者として話させてもらうけれど、君らは正しかった。もっと、純粋に喜んで良いと思う。」


 マーカスは、気恥ずかしくなったのか、ノアとリバッチの間を抜けて帰ろうとする。


「お代は結構。正義に集ったら、閻魔様に怒られる。」

「あ……あんたの……娘に会ったぞ。」

「そうか。石でも投げられたのか?」


 マーカスは適格すぎる答えを瞬時に出した。


「………」


 小声で「当たりか。」と漏らすと、振り返る。


「君ら風に言うと、娘は信仰心が強すぎる。人の洗脳を解くのは大変でね。現代の医術では難しいのさ。親として謝ろう。悪かった。」

「……ここまで……してくれてもちろん感謝してる……でも……軽薄すぎやしないだろうか。」

「僕は……イリスを愛してるさ。親として、家族として。立派な愛娘だと思ってる。家の中では家事に追われ、日中は懸命に働く。僕が仕事で留守にすることが多かったからかな。娘はあの歳にして自立できている。本当に誇りに思ってる。でもね、何が正義で何が正しいのか、それを判断するのは個々の倫理観だ。人生の背景なんか関係ない。僕は、君らが正しいと思う。だから、協力する。もし、この光景を見られて僕が処刑や拷問をされたとしても、仕方がないと思う。それでも、僕は人としての信念に従うのみさ。」

「………」

「これが、大人だ。」


 マーカスは背中を見せて歩いていく。


「車の中に地図を入れておいた。もらってくれ。これもメンタルケアの一環さ。車のカギくらいは閉めた方が良い。急いでいたとしても不用心だ。」


 マーカスは立ち止る。


「もう一度、言おうかな。君らの顔がしょぼくれているから。君らは正しかった。誇っていい。勝者は笑顔で帰るもんだ。それとも、お代を払いたいのか?」


 その言葉を聞いて、三人揃ってぎこちない笑顔を顔に張り付けた。


「そうだ。それでいい。医者として最大の幸福だよ。患者の笑顔ってのはさ。どんなチップよりも。」


 マーカスは、帰っていく。

 偉大な背中を見せながら。


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