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第二百四十九話

「第二百四十九話」


・ベリンガー視点


「よっ!!」


 天井に鎌を突き刺し、ターザンロープのように跳躍する。

 一人目のロイを蹴とばし、急いで鎌を回収し、二人目のロイの頭に突き刺す。

 蹴とばしたロイが起き上がる前に頭を蹴とばして転がした。


「次だ。」


 その次の部屋も。次の部屋も。次の部屋も。

 中に人は居ず、殺したロイの数は四十を超えていた。


「はぁ……はぁ……」

「息が上がっているじゃないか。」

「黙ってろ。次が……」


 最後だ。

 ドアを蹴とばし、ロイを殺す。

 期待を胸に最後の部屋を見渡すが、やはり誰も居なかった。


「なっ……」


 まさか……この建物内に居ないって言わないよな。

 それならまずい。このまま体力勝負に持ち込まれたなら勝ち筋はない。

 一軒一軒回ってロイの本体を探すのに時間が掛かり過ぎるし、その間複製体に攻撃をされ続けられたのなら俺はその辺で野垂れ死んでしまう。


 一瞬だけ脳がフリーズしてしまった。

 その隙に、背中を殴られ、よろめき、次に蹴りが飛んできた。

 顔面が窓ガラスに突き刺さる。


「良い男になったじゃないか。」

「……ほざけ。」


 窓ガラスから首を引き抜く。

 顔中に傷が出来ているのを、鏡を見なくても分かった。


「諦めたら?」

「そうは……いかない。俺は勝てるからな。」


 二人のロイが同時に走って来たので、二人の頭を掴んで、そのまま地面に叩きつけた。


「あ……」


 初めてロイの顔をまじまじと見た瞬間だった。


「……そう言うことか」

「何か分かったのか?」

「ああ。お前らは……既に負けてたんだな。」

「………」

「離人症……」

「知ってるんだ。」

「お前の顔をもっとよく見ておくべきだった。」

「………」

「門番だな。最初に殺した。」

「それは、オリジナルだよ。」

「奴は、死の直前に確かに『結界』を発動した。あの時に複製体を作ってたんだ。ロイ本人が死んで、複製体だけが残った。そして、自分のオリジナルが不在で、誰もが本体であり、誰も本体でない状況が生まれた。」

「そして、鏡を見ると、どんどん増えていく。それが今の状況さ。」

「全員が本体を自称し、全員がそれを否定する。地獄の景色が出来ちまったわけだ。」

「自分自身の名前しか分からず、命令もないお前らは、とりあえず向かってくる俺を殺すことに専念した。俺が誰なのかもわからずに。」

「自分の所属も、家族も、友人も誰も分からない。でも、『結界』の理念だけが頭の中にあったんだ。それを披露して君は殺しに向かって来た。だから、戦ってる。」

「とんだ、茶番劇だな。」

「そうでもない。我々には命令が必要だから、目的が必要だから。仕方ない行為だったんだ。君に問いの答えを教えて欲しい。自分で答えを出せない哀れな鏡たちに。」


 彼らはロイ足りえるのか。そもそも、人間と形容していいのか。

 その答えは……


「お前らはロイじゃない。」

「………」

「そう自分で断言できていないからだ。」

「………」

「もう一度名乗れ。そうすれば、自分が何者か自称できるだろう。」

「「「……俺は……僕らはロイ。“祝福の木”構成員だ。」」」

「満足か?」

「「「……十分だ。」」」

「そうか。」


「『結界・満足』」


 家中の手鏡が一斉に割れる。

 そして、目の前のロイが全員消滅し、何も残さなかった。

 最期まで大切に持っていた手鏡を拾いあげる。


 自分を反射させ


「案外男前になったな。」


 血だらけの顔を見てそう呟いた。


「かはっ……!!」


 いきなり、自分の腹がドーナツ形に抉られ、肉片が落ちる。


「なぁに感傷してんだよ。」


 声の主は、もちろんロイじゃなかった。

 もっと別の悪意に満ちた声だった。


 後ろを振り返ると、太った男が立っていた。


「はぁ……はぁ……」


 腹から見たことがない量の血液があふれ出る。

 その中には、奇妙な形に刻まれた臓器もあった。

 これは長くないな。


「うぅ……」

「侵入者ありってよぉ……報告を受けて来てみりゃあ、随分な惨劇じゃねぇか。」

「はぁ……はぁ……」

「なぁ?ベリンガー。」


 名前を知っていやがる……


「不意打ちですまねぇが、死じゃくれねぇか?」

「はぁ……はぁ……うぅ……」


 ダメだ……意識が……


「まんぞくか……?」

「あ?そりゃあな。」

「じゃ……いっしょに……」

「何言って」


 男も同時に血を吹き出した。

 そして、腹の大きさ同様に、大量の血を吹き出した。

 死んだかどうかは判断できなかった。

 それどころじゃなかったから。


「ぎ……でおん……おまえが……いなくなってから……まんぞく……しちまったみたいだ……」


 静かに目を閉じる。

 温もりのない暗闇に身を投げたのだった。


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