第二百四十八話
「第二百四十八話」
・ベリンガー視点
鎖鎌を柱に投げて、くくり付ける。
それに体を引っ張らせ、勢いの乗った蹴りを相手に的中させる。
相手はロイだと名乗っていた。
ロイを蹴り飛ばした後に、鎖鎌を回収し、追撃する。
鎌を回し、ロイに向かって投げる。
ロイが、それを躱し、鎌が壁に突き刺さる。
突き刺さった鎌を引っ張り、壁を倒壊させる。
瓦礫で砂埃が立ち込め、周囲が見えなくなる。
ロイが周囲を警戒している間に、姿勢を低くし、相手の足を刈った。体勢を崩したところで顔面に向かって拳を叩きつける。
床にヒビが走る。
「満足か?」
「いいや?全然。」
後ろに居るロイに話しかける。
殴ったはずのロイは跡形もなく消滅する。
鎖鎌を投げ、ロイの首に巻き付ける。
ぐっと締め付け、首をもぎ取った。
「ほんと、良くやるなぁ。」
「……次から次へと。」
ロイを殺したのはこれで七度目だった。
「見ている者が真実だとは限らんだろう。」
「だからって、自分が死ぬ様を七度も見て平気な奴なんて居ない。」
「鏡って知ってるか?」
「………」
「知ってるよなぁ?誰だって鏡くらい見たことある。なんなら触ったことすらあるだろうな。」
ロイは、手鏡を見つめながらニヤつく。
相当なナルシストなんだろうか。
「鏡に映ったものは本当にそっくりそのままなんだろうか。」
「何が言いたい。」
「例えば、鏡にリンゴが映ったとするだろう。そのリンゴを鏡の中から取り出せたとする。それは本当に同じリンゴなんだろうか。」
「………?」
「分からんか。自分で見ているリンゴと、周囲の誰かが見ているリンゴは違う。経験や倫理観で物事は変わるからな。だが、実物を見ている自分と、鏡の中を見ている自分は一緒だ。ならば、同じ感想を抱かなければおかしい。そうでないと、同じ物質であると断言できない。しかしなぁ……鏡に映ったリンゴを食べたいと思ったことはない。これは、おかしいよなぁ。」
「………」
「ここで問題だ。鏡に反射した自分と、鏡を見ている自分。これは同一人物なんだろうか。」
「……同じだろ。たかが、反射で映ってるだけなんだから。」
「正解は……自分の体験談から聞けばいい。」
「『結界・手鏡』」
ロイが二人召喚される。
「俺の『手鏡』は、この小さな鏡に反射する事柄をすべて複製する。銃であろうと、服であろうと、人間であろうと。スペックは一緒だ。相違点を探そうたって無駄だぜ。」
二人のロイは走って来る。
鎌を構え、一人目のロイに投げる。
当然躱された。意識が繋がっているのではないかと思えるほどの連携。
パンチを避けるが、避けた先で蹴りを食らう。
蹴りを食らうと、次に肘打ちをされた。鼻血が飛び出る。そして、服を引っ張られ二人揃ってパンチを繰り出してきた。
それを頭突きで相殺し、驚いた二人が一瞬崩れたのを見逃さなかった。
鎌を引っ張り、一人目のロイの後頭部に突き刺し、倒れさせる。
一人になったロイは蹴りを繰り出すが、肘で太ももを刺し、回し蹴りで首の骨をへし折った。
鼻に溜まった血を吐き捨て、つまらなそうに手鏡を見ているロイに視線を移す。
「満足か。」
「まぁ、それなりにかな。」
手鏡が地面に落ち、割れた。
そのロイも偽物だったらしい。血を出すことなく、消滅した。
「どうだ。そろそろ本命が来ても良いんじゃないのか?」
後ろに鎌を投げ、違うロイに命中させる。
「いやぁ……酷いことをするもんだ。」
割れた鏡を手に取る……また違うロイ。
破片を枠の中へ治め、修復を試みていた。
「物を大切にしないってのは、良くない。」
「満足か?」
「いや、まったく。」
これが俺の『結界』の弱点だ。
満足をしている対象をこの目で納めなければならず、『満足』を本体に当てることが出来ない。
「君の動き」
鎌を大きく振り、鏡を持ったロイの頭に突き刺した。
「少しずつだが、鈍くなっているね。」
鏡が地面に再度落ちる。
次はもっと粉々に。
「あの鏡じゃないな。」
先ほどから持っている手鏡は、ロイの『手鏡』には関係ないと気づいていた。
そして、恐らくロイは俺に長い間ここへ留まって欲しいのだろう。本体を探しに行くのを防ぐために。
この建物は二階建て。
そこまで広くない。
複製体から逃げながら本体を探すのも悪くないか。複製自体、と言うかロイ事態にそこまでの戦闘力はない。
本物を叩けば一発だ。
新たに三人のロイが姿を現した。
「もう、飽き飽きだ。俺は、満足できない。」
鎌を自分の下へ引き寄せ、頭の上で回す。
どうして……武器を複製しないんだ。
ここまで自分の複製を出せるのなら、武器を持たせればもっとマシになるだろうに。
いや、考えていても仕方がない。
近い部屋から手当たり次第に行こう。
柱に鎌を投げ、鎖を巻き付ける。
大きく走り出し、体重を預ける。
遠心力が乗ったところで、複製の一体を蹴とばすついでに後ろにあった扉を破壊した。
更衣室だろうか。棚が点在し、服や鞄が散乱している。
そこには誰もいなかった。
「クソ。」
扉を塞ぐように、二人のロイが立ちふさがる。
「そこじゃ鎌は振れんだろう。詰みだ。」
「さぁ?どうかな。」
激痛が体を支配して、もう一時間経過する。
そろそろ限界だった。




