第二百四十六話
「第二百四十六話」
・カラム視点
「俺はカラムってんだ。お前は確か……えぇっと……」
ポケットにねじ込んだ写真を四枚取り出す。
目の前の男の顔が印刷された紙を裏返し、オリヴァー・サンと書かれているのを確認する。
いちいち細かいことを気にして生きていないので、こんな男の名前を憶えているわけが無かった。
「そうだ。オリヴァー・サンだ。」
「………」
「良くやるぜ。あんたら三人でいきなり十三人の結界師を殺すなんてよぉ。門番を含めりゃあ十四か。」
オリヴァーは静かに立ち上がる。
「それで、まだ動くと。いよいよ、オカルトだな。」
「はは……すぅ……はははは!!!」
「っ!?」
「最っ高だ!!」
突如として、オリヴァーが発狂を始めた。
ぶつかった拍子にいかんスイッチを入れたらしい。
「あぁ……悪いなぁ……今は人の話を聞いてられるほど警戒してねぇんだ。楽しくて仕方ねぇよ!!!」
「『結界・月虹』」
右足が飛んでいく。
予備動作なしに、人体の破壊か。躾のなってねぇ野郎だ。
「『結界・飛翔』」
体が浮かぶ。
「得意になってんなぁ。俺に足なんて必要ないんだぜ。」
「そうかよ!!お前も良い感じだぜ!!!」
こいつ……ハイになってやがる。
おかしいと思ったんだ。突き飛ばした時に、感じた感触が……まるで……そう、骨と皮だけの骸骨みたいだった。
服で誤魔化しているが、食欲がねぇ証拠だ。間違いない。オリヴァー・サンはどこか負傷して病み上がりのはずだ。薬物で無理やり体を動かしているに過ぎねぇ。
「鳥って知ってるか?」
「……ぷっ、知ってるに決まってんだろ!?」
「そりゃあ良い。物事を知るってのは重要だからよぉ。だが、世の中にはもっと重要な事柄があるぜ。それはなぁ……リスペクトってやつさぁ。俺は鳥をリスペクトしてる。空を自由に飛ぶ鳥たちは、生物の誉れだ。」
「そうだなぁ……その通りだぜ!!!」
「話の分かる野郎は、嫌いじゃあない。良いぜ……最も良く殺してやる。」
空を俊敏に動く。
足から漏れる血をシャワーみたいにオリヴァーが浴びる。
その光景は、サイコパスのようにも思えた。頭から他人の血を浴びているのに、満悦な表情を浮かべ、額に乗った血の雫を指でかすめ取り、微笑んだ。
ゾッとした瞬間、オリヴァーがいきなり上を向き、目が合った。
死を錯覚した。
「くっ……」
何をされたわけでもなく、負けたと思った。
だから、踵を返し、出口へと急いだ。
やべぇ……完全にイカれてやがる!!
あの目……俺を人間として捉えていなかった!!
まるで……捕食者だ!!
壁に空いた穴に手が触れた瞬間、左肩から先が無くなった。
「なっ……」
急いで振り返るが、オリヴァーの姿はそこにはもう、無かった。
瞬きをした、次の瞬間にはオリヴァーの剣は俺の心臓を貫き、地面へと叩きつけられていた。
「羽も無ぇ癖に威張ってんじゃねぇよ!!」
「がはっ……」
・オリヴァー視点
足りねぇ……足りねぇよ!!!
「ああああああああああああ!!!!!!!!」
窓のガラスを破壊する高音で叫ぶ。
「こんなもんかよ!!!!つまらねぇ!!つまらねぇ!!つまらねぇ!!!」
おもちゃを買ってもらえない子供のように、地団駄を踏む。
『月虹』を連発し、建物を破壊していく。
「あああああああ!!!!!イラつくぜ!!!!手ごたえがねぇ!!!弱ぇえんだよ!!!!」
「なら、遊ぶか。」
「『結界・促進』」
急に体重が重くなる。
体を支えきれなくなり、地面へと倒れ込む。
痛みはないが、全身の穴という穴から血が噴き出してくる。
それでも楽しかった。
「解き放たれた獣。これが最も正しい表現だな。」
「ははははは………面白れぇ……最高だぜ、お前。」
「ここまで壊れた野郎だとは思わなかった。オリヴァー・サン。四人の中で最も紳士的だと聞いていたが……これじゃ、紳士ではないな。」
「紳士だぁ?つくづくつまらん野郎どもだ。犬のしょんべんでも啜って出直してこい!!」
「はぁ……品格にも問題ありと。君ら、四人組だろ?あと一人はどうした。」
「あぁ?そいつなら、見守ってるよ!!!見えねぇのか?てめぇらを手招きしてるあいつの顔が!!」
「まるで話にならないな。いくつか情報が欲しいところだが……ダメだな。深夜テンションで敵地に乗り込む馬鹿だとは思わなかった。」
血を吹き出す。
「ふはっ……」
「その怪我……そうか。先に仕掛けた奴が負わせた負傷か。残念だ。万全な君とやれなくて。」
「思ってもねぇことを言う天才だな!!!」
「はぁ……うるさ。こうして、時間を稼がれているとは思わないのか?」
「時間を稼ぐだぁ?どれだけ策を打ってもてめぇ程度が討伐できる男だとでも思ってんのか!?」
「仕方ない。」
男は袖をまくる。
「同情しなくもないが……仲間の仇だ。全力を出そう。エメット。わたしの名前だ。覚えておくと良い。」




