第二百四十五話
「第二百四十五話」
・カイゼル視点
放たれた弾丸は腹の中で暴れた。血を吐くよりも先に、弾丸が背中から出てきた。
床に穴ができるのと同時に、吐血した。
それは、赤色と呼ぶよりも、黄色に近かった。体が限界に達していたことを意味しているだろう。
「終いだ。ボケ。」
トムは近づくことも無く、距離を保ったままに、銃を向ける。
続けての発砲は、足に命中する。次は肩に。次は横腹に。次は脹脛に。
遊ぶように乱射した。
毒のおかげか、いやに痛覚が反応しなかった。それは、恐ろしいほどに。
自分の呼吸が微かに聞こえる。ボリュームを下げ過ぎたテレビのように聞き取りづらい。
息づかいを聞き入ろうと目を閉じる。何も感じない無の空間の出来上がりだった。
「ここまで離れれば問題ないんだろう?君の『結界』、確かに強力だが、敵じゃあない。室内戦であれば勝てると踏んだんだろうが、それはこっちも一緒さぁ。蝶の群れは密集する。これだけ狭い室内なら、どこへ逃げようとも追跡できるってもんだ。」
「ヒュー……ヒュー……」
「虫の息だ。トドメは刺さない。わたしはあんたに興味が無いからなぁ。」
・トム視点
わたしとしたことが、興味の無い男に熱くなるだなんて。みっともない姿を晒してしまったものだ。
恥ずべき行動は、挽回しなくてはならない。他に侵入者は二人居たな。
わたしが始末して、セレーネさんに報告だ。
「っ!?」
後ろから急にぶたれた。
咄嗟にガードしてそれを防いだが、バランスを崩してしまう。
「しまっ」
次は蹴りを放ってきた。
腹に入り、骨を砕かれる。防ぐことが出来ず、壁にぶつかる。
「……き、貴様!!」
カイゼルは死んだはず……『結界』がまだ継続してやがるのか!?
恐る恐る視界を上に上げる。
「なっ……」
カイゼルを背中にくくりつけた影が立っていた。
野郎……リーチという欠点をこの状況で……捨て身で対策してきやがった!!
本人は瀕死で動けん。絶対にだ。先ほどの影の動き……明らかに怪我人の動きじゃない。
影は本人がどれほど負傷して居ようと関係ないのか?
い、いや……それとも、ありえない話だが……野郎死んでも俺を殺す気か。根性だけで、死の極地を歩いてやがる!!
「はは……悪くねぇ……いやぁ?面白れぇ!!!」
やってやる。
本人を殺せば流石に動けまい。
接近戦は圧倒的。
射程は無いに等しい。
距離を取り、蝶の毒で殺す。
「『結界・胡蝶』」
蝶で部屋全体を覆い隠す。
これで身動きは簡単に取れねぇ!
この隙に部屋を脱して、あいつが苦しむ様を見物させてもらうぜ。
出入り口へと近づいた時だった。
「なっ!?」
影が思い切り突進をしてきた。
計画性も何もない、ただの拳の突きだった。
間一髪のところで避けるが、追撃は避けられなかった。
顎を肘で打たれ、よろめき、手刀で右肩が外れる。
蹴りを腹に食らい、壁まで戻された。壁に激突し、嘔吐する。
「うっ……クソ……」
この蝶の群れの中を……見えてやがるのか!?い、いや。勘に違いない。火事場の馬鹿力ってやつか。最期に見せるのは、人間の本性ってな。
だが、あいつも相当限界だぜ。影の背中から出る血の量が明らかに減ってやがる。
そら……あと二秒もすれば影も消滅するに決まってる。
次の攻撃を防げば、俺の勝ちだ。
銃を一発放ち、影がそれを避け、突進してくる。
来た。やはり、ワンパターンだ!!
間違いない!!こいつは目が見えてねぇ!!感覚だけで戦ってやがる!!
影が目と鼻の先に来たときに、しゃがんで一発目を避けた。
そして、胸元からもう一本の銃を取り出し、影の胸に銃口を突きつけ、入っている弾丸をすべて叩き込んだ。
影に八個の穴ができる。
やはり!!こいつには毒とかは効かんが、物理攻撃は効く!!
これで俺の勝ちだ!!
影は後ろへと倒れる。
その姿を目に焼き付け、勝利を確信
「ぐはっ……」
腹に異物が混じったような違和感を覚えた。
下を見ると、剣が突き刺さり、臓物が地面に転がっていた。
「は……?」
後ろへ振り向くと、死んだはずのカイゼルが俺に剣を突き立てていた。
「お、おま……」
転がった影を見ると、そこには何も無かった。
影は消滅し、消えたのは分かる。背中に乗っていたはずの、カイゼルがどうして俺の後ろに居るんだ……?
「わ、悪ぃな……『影牢』の背中に俺が乗ってると思ったろ……違ぇんだよな。お前が……蝶をいっぱい出すのにきっかけを作っただけだ。自分の視界もままならん位にな。」
「かはっ……」
「あとは、影に時間を稼がせ、俺が隙を見つけてお前を殺すって寸法だ。おかげで……全身毒まみれで……朝まで生きられんがな。」
「………」
顔面から崩れ落ちる。
「どうして……この視界の中を……影が迷わずお前を捉えられたか理由が気にならんかったのか?」
「………足音か。」
「そうだ……俺が耳を地面に付けて移動してたからな……位置くらいまる分かりなんだよ……」
「疑問を疑問のままで放っておく……関心のない俺らしい最期ってわけか。」
目を閉じて、最期の蝶の羽を見る。
「お前ら……こんなにも……汚かったんだな……」




