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第二百四十話

「第二百四十話」


・カイゼル視点


「勝ったのか……?」


 ベリンガーを抱えて、オリヴァーに聞いた。彼に聞いたのは、お角違いだったのかもしれない。


 ふわっと、オリヴァーの影が地面に吸い込まれる。


「オリヴァー!!」


 湿った砂は彼を受け入れるには硬すぎた。

 鈍い音を立てながら、彼は目を瞑り、力なく倒れたのだった。


 ベリンガーから離れ、オリヴァーのところへ向かった時には既に遅かった。

 医者でも何でもない俺から見れば、死んでいるのか、気絶しているのか分からなかった。


 とりあえず、脈を計るために腕をとった。

 震える手で集中するが、いまいち分からない。脈が弱いためなのか、自分が動揺しすぎているのか、原因こそ不明だが、死体であってもこのまま放置しておくわけにはいかなかった。


「『結界・影牢』」


 影にオリヴァーを担がせ、オリヴァーとギデオンの鞄を持たせる。

 完全なる重量オーバーであるが、頑張ってもらうしかない。


 俺はベリンガーと鞄を二つ持ち、歩く。

 今までのように、俊敏には歩けない。ゆっくりと、一歩を踏みしめる。ギデオンの死体やら、消息を追いたいところであったが、軽く探索するだけに留めた。仕方がなかった。

 雲が消え去った今、この灼熱の大地で意識不明の二人を寝かせておくわけにもいかないからだ。


 安全な場所を探すが、ここにこんなものがあるとは思っていない。

 今、襲われたのなら覚悟をするしかない。電波もないここで、遺書の一つも残せないのはなんとも俺らしい。


 三時間ほど歩いただろうか。

 どれくらいの距離を歩いたのか、見当もつかない。額から流れる汗の量が大分少なくなってきた。

 めまいも酷い。ついに、膝を付く。


「はぁ……はぁ……っ……」


 ダメだ……歩けそうもない。

 でも、ここで夜まで凌ぐことなんてできない。日が沈むまで四時間以上あるだろう。もし、奇跡的に四時間をここで過ごせたとして、極寒の夜で、寒さも凌げないのに、生存できるわけがない。

 ライターはあるが、火を起こすための可燃物もないし………

 しかし……本当にダメらしい。


 影も先ほどから動きがおかしい。

 明らかに、俺の体力が無い証拠だ。


 悪魔の囁きは、こう言った。


 もう十分じゃないか。


 目を閉じることを決心したころには、影がなくなり、皆地面に倒れ込んでいた。



 暖かい……スープの匂い?


「は!」


 いかん!!眠ってた!!

 飛び起きて、周囲を確認する。俺がぶっ倒れたってことは、あいつらも……


「……?」


 ここは砂漠ではなかった。

 どこかの民家らしい。

 自分はベッドの上に寝かされていた。


「どこだ……」


 あまりに見覚えが無さすぎるので、禁則地にでも立ち入ってしまったのではないかと思う。


「あ。」

「え?」


 ここの住民だろうか。

 十五歳ほどの、大人びた女性が俺の顔を見るなり、嬉しそうな顔を見せた。


「大丈夫ですか!?」

「え、ええ。まぁ……」


 向こうがあまりに喜ぶので、若干引いてしまった。

 初対面過ぎる。誰だか、検討すらつかない。

 顔を近づけられ、鼻息が当たる。


「す、すみません……ち、近いです……」

「あ!ごめんなさい。生きてると思わなくて。」

「生きてると思わなくて?もしかして……あそこから運んでくれたんですか?」

「あそこから……?えぇっと……うちへ訪ねてきたの。」

「……?」


 どういうことだ?ここへ自分の足で来たのか?

 いや、そんなはずはない。誰も歩けるような状況じゃなかった。


「黒い人があなた方を運んできたの。」

「黒い……あ。」


 自分の影を見る。

 俺が完全に戦意を失った後も頑張ってくれたらしい。

 心の中で「ありがとう」とつぶやいた。


「他の人は……」

「病院で診てもらっています。」

「良かった……」


 良かった?いいや、何も良くない。

 ここは……家の内装は見たことがない。つまりは、まだ【ピロニス】に居るってことだ。【ピロニス】の医者に診られるってことは、俺たちがよそ者であることがバレる。

 と言う事はだ、“祝福の木”の連中が殺しに来るってことだ。

 地理も分からんこの場所で襲われたのなら、一巻の終わりだ。


「申し訳ない。ちょっと話を良いかな?」

「……?」


 やや時間もなかったために、目の前の女性を質問攻めした。


 俺たちがここへ来たのは、二日前だと言う。

 誰も目を覚ましていなかったので、この子の父親が医者であるため、診てくれたらしい。結果については父に聞けと言う事だ。

 次に、ここは【ピロニス】最西の街、ミラダンらしい。街と言っても、そこらの集落より人が多いだけで、貧困さは一緒らしいのだ。

 最後に、“祝福の木”についてやんわり聞いてみた。よそ者を血眼になって探しているという話があるが、まだ誰も捕まっていないそうだ。【ピロニス】中が協力しているが、手掛かりがないんだとか。


 その女性は、小難しい話は父に聞いてくれと言って、早く寝るよう促してきた。

 この部屋しか見ていないので、安全とは言いきれないが、確かに眠気はあったし、二人が居ないので、大人しく寝ることにした。

 一応影に周囲の探索と、二人を探してもらうことにした。

 是非何もないことを祈る。


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