第二十四話
「第二十四話」
(昔話―月が欠けたように③)
お金が入った袋を両親へと届ける前に、服を着替えた。
その服を見られてはいけないと本能的に理解していた。
血の付いた服は自分の部屋へと隠した。
充満した血の匂いに、どこか興奮している自分が居る。
階段を下りる。
下の階に居る両親へと袋を渡した。
その中身を見た両親は、驚いて
「どうしたの!?」
そう聞いた。
俺は咄嗟にマクスからもらったのだと説明した。
両親は疑問を拭えていないようだ。
しかし、その疑問を解消する方法は、マクスに聞くしかないと思ったのだろう。
後日、マクスの店を訪ねることにしたらしい。
俺は疲れていたので、部屋へと戻り、ベッドに体を預けた。
ふと、マクスのナイフを父へ渡すのを忘れていた。
それは明日でもいいかと思い、その日は眠ることにした。
次の日。
「ノア~!」
遅めに目が覚める。
母が声を掛けるのに時間がかかったからであった。
目を開けると、驚くほどにクリアな視界を体感する。
これまでにないほどの絶好調。昨日の出来事が、自分に息を吹きかけたようだ。
下へと降りると、父からの話があった。
「しばらくは、仕事をしなくても食っていけそうだ。鹿を狩るのは最小限にして、今日は休もう。マクスさんの店へは明日にでも行こうか。」
ここ最近は、働きづめであったために、父も疲れている。
鹿も毎日獲れるわけではないし。
故に、明日にマクスの店へ行くようだ。
朝食を食べ終えると、暇になった。
姉の体調が戻ったようなので、一緒に遊ぶことにした。
「早く!ノア!」
「待ってよ!お姉ちゃん!!」
姉は元気になった勢いで、急いで外へと飛び出していった。
久々の外気がうれしいのだろう。
「ほら!行くよ!」
外に出ると、姉は雪の塊を俺に向かって投げてきた。
それを顔面で受け止め、地面に積もった雪を固めて、投げ返す。
これの繰り返し。
そんな一時だった。
ふと我に返ると。
先刻の、景色が鮮明に脳裏に焼き付いた。
手が震える。
怯えているのだろうか。
違う。次の獲物に会いたくてうずうずしているのだ。
そんな自分を恐ろしいとは思えなかった。ただの、狩り。そんなことを思っていた。
「ちょっと外に出てくる。」
姉と一通り遊んだ後のことである。
昼食を食べ終わり、母と姉が織物をしてる最中に一人で外に出た。
父は今日一日、眠るらしい。
マクスからもらったナイフと父からもらったナイフを持って外へと冒険に出る。
まだ足跡のない雪を沈めならがら前へと進む。
ざくざくと足音が聞こえる。
心地の良い音だ。
しばらく歩いた後に自分とは別の足音を聞いた。
そこへ駆け寄る。
そこには近所のおじさんが歩いていた。
「やぁ~ノア君。どうしたんだい?お父さんは?」
「今日は、父さん休みなんだ。」
「そっか。それは良い。今日は豊作だった。君の家にも分けてあげるから、これを持っておいき。」
「ありがとう!おじさん。」
こんな話をするつもりだった。
したと思い込んでいた。
しかし、目の前に転がっている死体はなんだ。
血まみれで、立ち尽くしている俺は一体何をしたんだろう。
疑問が湧き出る前に、幸福感に酔いしれていた。
こんなに、気分が良いのは初めて父の仕事を手伝ったとき以来のことであった。
おじさんが持っていたお金を奪う。その額は、少量だったが、家族が食べていくには十分な額であった。
服を脱ぎ、近くの川で洗う。
水は冷たく、手が痛む。しかし、そんな微々たることは気にしなかった。純粋に、家族へのお金を持っていることが誇らしかった。
自分は家族のために稼いでいるんだと本気で信じていた。
家に帰り、川に間違ってハマったと説明した。
おじさんから奪った金は、以前の袋に入れておいた。両親も正確に数えていなかったので、簡単に誤魔化せた。
父と会うと、罪悪感なんて微塵も覚えなかった。それどころか、胸を張ってドヤ顔を披露していたであろう。
「どうした?嬉しそうだな。」
にこやかに話しかけてくる父。
自分がお金を持ってこれば、両親も、姉も、みんながこうやって幸せに暮らせる。
危険な狩りに出なくてもよくなる。
姉もずっと夢に見ていた学校へ通えるかもしれない。
母が家計で頭を抱えることもなくなる。
「何でもないよ。お休みはどうだった?」
「ああ。久しぶりだったからな、とてもよかったよ。しかし、寝すぎたな。どうだ?外で何かするか?」
「ううん。疲れたから、今日は寝るよ。」
「そうか。晩御飯は食べたのか?」
「まだ、だけど今日は良いよ。」
「そうか。母さんに言っとくぞ。」
「うん。ありがとう。」
部屋へと戻る。
今日の自分の活躍を夢に見ながらに眠る。
俺は家族を幸せにして見せるんだ。




