第二百三十八話
「第二百三十八話」
・カイゼル視点
雷の音が強くなった。雨粒の大きさが肌で分かるくらいで、雹が降っているのではないかと錯覚するほどに痛かった。
「『結界・影牢』」
「『結界・満足』」
「『結界・月虹』」
最初に俺の影が突っ込んだ。
その背後に俺が走り、その横をベリンガーが続く。
雷を帯びた男の体は、触るだけで感電死しそうな勢いだった。
影がジャブを数発繰り出すが、当たらない。のらりくらりと躱すその姿にはかなりの余裕を覚えた。
男は空に向かって剣先を掲る。すると、いきなり雷が降って来た。
影が消滅し、近づくことが出来なくなる。止まっていたら雷に打たれるので、逃げ回りながら隙を探す。
荒れ狂う天候の中で、男の右腕が飛んでいく。
オリヴァーが攻撃をしたらしい。
しかし、動揺の一切が見えない。
「大丈夫だ。タナトス……こいつらを蹴散らして……ガキの息の根を止めるからよ。」
男の象がブレる。
次の瞬間には、オリヴァーの顔面に拳が叩きつけられて、地面が窪み、固まった砂がまき散らされた。
あまりの一瞬の惨劇に、俺とベリンガーは固まってしまう。
「『結界・知足』」
ギデオンが『結界』を発動する。
すぐに、先ほどの光景に戻され、全員が所定の位置に戻された。
「野郎……!!」
冷や汗を掻いたオリヴァーが警戒を強める。
他三人も同様だった。
まるで反応できなかったからだ。
「てめぇらも……タナトスの敵になるか。良いぜ……相手になってやる。このドゥームがなッ!!」
雷が鳴り響き、フラッシュが焚かれたみたいにちかちかと光る空。
そんな光景に見とれている場合じゃなかった。
雷の塊が動いたからである。ドゥームと名乗った男が雷を身に纏い、突っ込んできた。
『結界』を発動する時間なんてなかった。
動いた風圧で俺とベリンガーが吹き飛ばされ、走り去っていく。
狙いをギデオンに絞ったらしい。
やばい!!ギデオンがやられれば、やり直しが利かなくなる!!
「『結界・影牢』」
影を出し、足を掴ませる。そして、ギデオンの前まで飛ばしてもらう。
その間に、オリヴァーがギデオンとドゥームの間に立ち、戦う。
剣劇の打ち合い。
オリヴァーも『結界』を使うタイミングを逃したらしい。
放電をしながら攻撃するドゥームがオリヴァーを追い詰めていく。
ついに、オリヴァーが剣を離した。
「っ……!!」
手のひらを見ると、真っ赤に腫れあがり、火傷を負っていた。煙が出ている。
ドゥームはオリヴァーの腹を蹴る。吐血しながら、吹き飛んでいくオリヴァーは限界が来たのか、白目を向いていた。
オリヴァーには間に合わなかったが、ギデオンに放たれた攻撃を間一髪のところで受け止める。
手のひらに激痛が走る。熱せられたヤカンを握っているような感覚だった。
影に二撃目を受けさせ、カウンターを繰り出す。完全に入ったと思われた攻撃だったが、放電を強め、俺と影に浴びせた。
影は消滅し、俺は全身の火傷を負った。
その場に倒れ込んでしまう。崩れ落ちる最後に、頭に完璧にミートした蹴りを食らい、首をへし折られる。
・ギデオン視点
「満足か!?」
遅れてやってきたベリンガーが吠える。
すると、ドゥームの指が二本折れ、剣を離す。
一瞬だった。形相を変え、後ろに回り込んだベリンガーに回し蹴りをした。頭がボールみたいに飛んで行った。
桁違いの化け物だった。
手練れの軍人三人がおもちゃみたいに壊された。それも一瞬で。
どんな、災害よりも恐ろしいと感じた。これに勝てる見込みはあるのだろうか。いや、勝ったとして、誰が死ぬだろうか。
もう、ドゥームは目前だ。やるしかない。こいつに勝つしかないんだ。
「『結界・知足』」
周囲の情景が戻っていく。人も、砂も、天候も。
戻りゆく時の中で最後に見たのは、ドゥームの嗤った顔だった。
全員が真剣な眼差しのまま、その場に仁王立ちする。
死を経験し、敗北した者達の目だった。
「オリヴァー……どうす」
いきなり、カイゼルの腹部に穴が空いた。
「ぐふっ……」
カイゼルは煙を吐きながら倒れていく。既に、命はないだろう。
「てめぇらのネタは割れてんだよ。つまらねぇ小細工しやがって。」
雷が降り、走り出したベリンガーが撃たれた。
オリヴァーは既に、全身から血を吹き出しながら膝を付いていた。
「なるほどなぁ?そいつは、俺の放電に耐えうる体力を持ち合わせてなかったってことか。薬物かなんかで、感覚を上げ過ぎたな。」
仲間が文字通り瞬殺された。
完全に適応しやがったんだ。
これが俺の『結界』の弱点だ。圧倒的な強者の前では、時を戻そうが、事実をなかったことにしようが、関係ない。
「どうしたぁ?やらねぇのか?仲間が死んじまったぞ?これじゃ、準備運動にすらならねぇ……こっちはよぉ、生き返ったばかりで本調子じゃねぇんだ。ここで、体操してからガキを殺すことに決めた。さぁ、やれよ。あと二回くらいは遊んでやる。」
「なっ……」
これで本調子じゃない!?終わった……これ以上やっても意味がないな。
仲間に苦痛を与えるだけだ。
これで終わった方が美談なのかもしれない。
「ギ……デ……オン……」
「オリヴァー……」
もうしゃべる気力もないオリヴァーが真っすぐな目で俺を睨んでいた。
諦めんな勝手に。
と顔面を殴られた気分だった。
「お!」
「『結界・知足』」
勝つんだ。絶対に。




