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第二百三十七話

「第二百三十七話」


・カイゼル視点


「悪い……ちょっと休憩しないか?」


 最後尾を歩く、ギデオンが弱音を吐いた。


「そう……だな。日陰を探そう。」


 肌を隠し、直射日光を浴びてこそいないが、この気温で長時間歩くことは不可能だった。

 丁度良い岩場を見つけ、全員が座り込む。

 顔を見ると、いきなり老け込んだなぁという感想しか出てこない。疲労で朦朧としていたのだ。


「ほら、カイゼル。」


 ベリンガーが水筒を手渡してくれた。


「ありがとう。」


 口に含み、気持ちの悪い乾燥を喉の奥へと流し込む。ガムを噛んだ時のような爽快感があった。

 飲み過ぎないように口に含める程度に留める。


「なぁ、カイゼル。」


 水筒を手渡し、隣に座ったベリンガーが遠くに座ったオリヴァーを眺めながら聞いてきた。


「オリヴァーの奴、どうしたんだ?」


 一瞬、体がびくっとなるが、すぐに冷静さを取り戻し、「気合が入ってるんでしょ。」と適当に返した。


「気合って……戦闘後のハイってやつ?」

「そんな感じじゃない?」

「あの集落を出て、六時間は経ってるぞ。」


 事実、この言い訳には無理があった。

 オリヴァーの異常なまでの元気は、事情を知らない二人からすれば、不可解に映っただろう。それに、挙動もおかしい。

 手の震え、ふらふらと歩く、ガンギまった目。どの角度から見ても、正常ではないように思えただろう。俺に聞いてきたと言う事は本人に聞いて、答えを知ることが出来なかったのだろうか。


「正直に言ってくれないか?付き合いは短いけど、苦楽を共にする仲間だろ。」

「そうだけど……」


 オリヴァーが恐れているのは、気の使い過ぎで、余計な体力を消耗することだろう。例えば、ここでベリンガーがオリヴァーの負傷に気が付く。すると、オリヴァーの荷物を持つことになる。それは、交代で俺らも持つことになるだろう。オリヴァーを気にしすぎて、休憩が増えるかもしれない。最悪、帰還するという提案が出るかもしれない。

 すべての可能性を加味した上で、俺は


「……俺の口からは言えない。」


 そっぽを向いて、答えた。叱られた子供のように、相手を直視することが出来なかった。


「もちろん、信頼や信用はしてる。けど……本人が……」

「分かった。言いづらいことを聞いて悪かった。カイゼルが知ってるなら良いんだ。」

「俺が?」

「誰か一人でも知ってればいいだろう。」


 ベリンガーは立ち上がり、背中を叩いた。


「頼んだぞ。」

「……ああ。」

「そろそろ出発する頃合いだろう。」


 ベリンガーが疲れ切ったギデオンのところへと歩いて行った。

 すると、オリヴァーがゆっくりと立ち上がる。死体のような動き方だった。


「嵐が来る。」


 何かをつぶやいたらしいが、聞こえなかった。何かの一大事かと思い、オリヴァーのところへ歩いていくと、空模様が変わった。


「雨か?」

「いや……【ピロニス】で雨は……」

「?」

「勉強不足だったか。そうだな。雨くらい降るよな。」

「あ、ああ?」


 煮え切らない反応で、一人で納得されたために、言葉の真意がつかめなかった。


「オリヴァー!ギデオンも回復したってよ!」

「行くか。雨なら足元は悪いだろうが、気温的にはマシになるだろう。」

「地面は砂だから……かなりきついな。」


 ぐちょぐちょになった地面を歩くのに、余計な体力が必要なのは誰の目から見ても明らかだった。

 熱中症の恐れが無くなるだけで、その他は悪化するだけだった。


「出発だ。今日中に、安全に休める位置まで移動したい。」


 オリヴァーを先頭に、三人は後に続いた。

 雨が降り出し、服がぐちょぐちょになる。不安定な足元に気を使いながら、見えない豪雨の中を進んだ。

 ついには、雷の合唱まで始まってしまう。


「ダメだ!オリヴァー!流石に休もう!」


 痺れを切らしたベリンガーがギデオンに肩を貸しながら叫ぶ。

 それに反応せず、歩き続けるので、俺もオリヴァーの肩を掴んで


「オリヴァー!!いったん止まれ!今日はここまでにしよう!!雨風を凌げる場所に行くんだよ!!」

「………」

「オリヴァー!!」

「誰かいるぞ。」


 集中していないと聞き逃してしまうような声だったが、はっきりと聞こえた。

 誰か居る?こんな砂漠のど真ん中で?


「誰って……誰が……なっ!?」


 オリヴァーと同じ方向を見ると、そこには抜き身の剣を持った男が立っていた。

 武装した男の顔ははっきとしなかったが、戦闘の意志がある者だと遠目でも判断できた。


「豪雨の原因はやつか。」

「殺るのか?」

「……そうなるな。」


 後ろの二人も事態を理解したらしい。

 それぞれ武器を取り出し、目の色を変える。


「人数は?」


 へばっていたギデオンもスイッチを切り替えたらしい。


「……一人だ。」

「一人?」


 ギデオンが理解できないと言わんばかりの反応を示す。


「ド派手に『結界』を見せらかす野郎だな。」

「ここまでの天候操作なんて可能なのか?一人の結界師に。」

「分からん……しかし、現実問題起きてるからな。四人で掛かるぞ。カイゼル、ベリンガーは奴に集中しろ。もし、援軍が来るようだったら、俺とギデオンでやる。」

「「「了解」」」


 一斉に動く。

 ベリンガーが鎌を投擲する。雨で視界を遮られて、音のない攻撃だったために当たるかと思われたが、その男は簡単に避けた。

 そして、俺らにも聞こえる声で、一言。


「大丈夫だ……タナトス。俺がお前を不幸になんてしない。」


『天罰』


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