第二百三十四話
「第二百三十四話」
・ベリンガー視点
「これが『満足』だ。」
「かはっ……」
膝をつき、頭を垂れるグスタフに、天上から声を届けるように見下しながらそう言った。
「あんたは満足したって言ったんだ。おいおい……勘弁してくれよ。人ってのは、不足の中を生きている。言い換えれば、満足するために生きてるんだ。燃え尽き症候群って病名があるよなぁ?これは、まったく……正しいぜ。」
「………」
肩を抱えたグスタフが睨みつけるが、そんなものは眼中に入らなかった。
「満足したならそいつの人生に悔いはなかったってことだ。満足したなら天命を全うしたことと同義だ。なら、死ねばいい。それ以外に、解決策なんてないのさ。」
「天命……?燃え尽き症候群?これは……また……ハイカラなセリフを持ち出すんじゃねぇよ!!」
転がった袋から次の武器を取り出した。
見たことも無い兵器であったが、後にミニガンと呼ばれる開発中の武器であることを知った。
「天命ねぇ……古くに偶像崇拝とはッ!!銅像の前で顔面を地面に擦りつける行為じゃなかったッ!!崇拝とは……育った作物に対する畏敬の念を体現する祭りの名前だったッ!!」
「お前……」
グスタフが持った武器の重量は、推測でしかなかったが、軽く五十キロはあるだろう。
あんな負傷した状態で持てるはずがない。いや……撃つことはおろか、正確に狙うことなどできないだろう。
「古の祭事をコケにしたお前の罪は重いッ!!私も死ぬだろうが……お前も連れていく!!」
弾丸の雨と表現してもおつりが返って来るほどの弾丸が飛んできた。
毎秒何発の弾が飛んできているのだろうか。視認できないほどの弾丸が俺に向かって直進してきた。
それは、恐怖以外の何ものでもなかった。
必死になって避けた。
遮蔽に隠れる暇がない。それどころか、だんだん弾丸が追いついてきて、体力を削られる。
こんなに撃ってるんだ、早いタイミングでリロードが必要になる。その時を待つしかなかった。
すぐに、その時は来た。
カチャカチャという音と共に、静寂が訪れた。
それを見逃せるほど、俺の耳はつんぼではなかった。
グスタフに向かって走る。
かなりの距離があったし、体力的にギリギリだったので、少し時間がかかってしまったが、負傷したグスタフのリロード時間を考えれば、どうってことのない時間だった。
しかし、走っている途中でも、グスタフはリロードする仕草を見せなかった。
焦った演技をするだけで、まるで俺の到着を待っているようにすら見えた。
相手との距離が十メートルほどになったとき、ようやくグスタフは動いた。
ミニガンを地面に捨て、足で袋の中に入っていた銃を持ち上げた。
それは、サブマシンガンに見えた。
確実に狙えて、相手が無防備になる距離まで俺を走らせたのだ。
ニヤリと笑ったグスタフは、満足げな表情を見せる。
「終いだ……良くぞここまで来た。先人に詫びるが良い……」
「詫びるのは……てめぇの方だったな!!」
グスタフの背中の傷は、頭上まで登り、体を真っ二つに切り裂いた。
「てめぇが……策略にはまった俺に満足してたのを知ってた。だから、走ったんだ。これを手にするためにな!!」
地面に落ちた鎌を二本拾う。
「次はてめぇだ!!ロドラン!!」
「良いだろう……終わったよ。」
「『結界・検討』」
ずっと空を見つめていたロドランとようやく目があった。
仲間が目の前で死んだというのに、当然の顔で『結界』を発動する。
「気が付いた……ベリンガー、お前の弱点に。」
「何笑ってんだ!!」
鎌に付いた鎖を掴み、体の横で回す。
遠心力が乗ったところで、ロドランに向かって投擲した。
「まずは……考えることから始めなければならない。そうすることで、相手のことを深く知ることが出来る。そうすることで……自分を勝利に導くことが出来るのさ。」
飛んできた鎌を軽々と避ける。
そして、鎖を持ち、鎌が動かないようにする。
「『検討』したのさ。勝つためには何が必要なのかってなぁ……お前の弱点は顔を見なければならないことだ。そうすることで、満足しているかどうかを判断するらしいなぁ?」
「………」
「おいおい……正解らしい。」
「……笑わせる。」
「なに?」
「お前……俺の必殺が『結界』だけだと思ってねぇよな?」
「……?」
「俺は鎌使いだぜ?『結界』なんて補助に過ぎねぇんだよ!!」
鎌を思いっきり引っ張る。
座っていたロドランは少し浮き、完全に無防備になる。
「好きな方で逝けや。」
鎌を引っ張ったことでロドランの後ろから刃先が飛び、それと挟み込むように、鎌を持って突撃した。
ロドランが躊躇している間に、決着はついた。
背中に鎌が刺さり、後ろを振り向いたところで首を斬った。
地面にボールみたいに転がったロドランの生首を見て
「検討か……悪い考えだ。もっとパートナーを選んだ方が良かったな。敵のことだけを考えて、味方のことを考えない。灯台下暗しにもほどがある。」
流石に体力の限界が来たので、地面に座り込む。
「疲れた……」
鎌を地面に捨てるようにおいて、空を見た。
「きれいじゃないか。不満しかないが。」




