第二百三十三話
「第二百三十三話」
・ベリンガー視点
これはよろしくない前兆だ。
古い着物を身に纏い、剣を携えた男。髪は短く整えられ、腕を後ろに組んでいる。
次に、サングラスをかけ、地面に瞑想でもするかのように座り込み、ぼーっと空を見上げている男。
目の前には二人の男が立ちふさがった。
二対一の状況が生まれてしまった。これはよろしくない。
二本の鎌を構える。
カマキリのような立ち姿は、剣士ならば笑うだろう。しかし、剣にはない動きで相手を翻弄できる。
「そんなハイカラなものを持ちようて、一体何が出来ようか。」
着物を着た男は、いきなり嘲笑を見せた。
俺の武器を見た途端の出来事だった。
「これは、失敬。吾輩はグスタフ。そやつはロドラン。そなたの名を聞こうか。」
「……ベリンガー。」
「これはかたじけない。名乗ってもらって恐れ多いが……死んでもらう。」
「『結界・古風』」
「………」
地面に物がぶつかる音。
それは、肉体とかそんな重いものじゃなかった。もっと軽い、なんなら今手に持っている鎌のように軽いもののはずだ。
手に持っている鎌?
ゆっくりと地面を見る。
そこには、自分が愛用している鎌が二本転がっていた。
握力がなくなったみたいに、気づかない内に手から零れ落ちたのか?いやはや、全く気が付かなかった。
こんなことは初めての経験だった。
相手から目を離さずに、鎌を拾い上げようとするが、手が震えて、まるで鎌そのものを拒絶しているみたいに、震えて、鎌に手が近づく度に拾おうと思う気持ちが失せていった。
結局拾うことが出来ずに、手ぶらの状態で立つことにした。
「古くより武具の類は剣と相場が決まっておってだな。そんなハイカラで無粋なものを持つとは、武士の風上にも置けん。」
「ハイカラだって?そんなに新しいものじゃないと思うんだけどなぁ……」
内心冷や汗だらだらである。
武器を失い、相手は二人。
一人は未だ、空を見つめ、戦意が感じられないためにまだマシだと言えるだろう。しかし、もう一方は全くの逆だった。
敵意をむき出しにして、迫って来る。
『結界』まで発動し、殺す気でいる。
一人ずつやるしかない。まずは、この面倒な野郎からだ。
「『結界・満足』」
「古くより、人々は農村で暮らしてきた。そこでの生活に満足できないと、別の農村を破壊し始めた。すると、統率する者が現れる。そ奴らは、集団を統率した方が効率が良いと言いたいわけじゃなかった。では、なぜか?答えは簡単だ。自らが楽をするためである。これ以外に正解などありはしない。もっと言うのなら、今の支配者や権力者や王や庶民と言った関係値だってそうだ。そんな不細工で、最新で、ハイカラなものを崇拝する。私は、嫌悪する。そんな時代を嫌悪したいのだ。」
「随分と……達者な唇だ。良く震えやがる。」
「そんな貴様こそ……武具を使わずに勝てるのか?」
「当たり前だ。余裕過ぎて、あくびが出る。」
「良いだろう。私は、古くを尊ぶ。新しきを嫌悪する。その服も、その声も、その持ち物も。すべてを拒絶する。では、警戒を解くために、軽快に私から動いて見せようか。」
グスタフは、自身の傍に置いてあった、麻縄で作られた大きな袋から一つの武器を取り出した。
「なっ!?」
その武器を肩に乗せ、銃口をこちらに向ける。
「バズーカを知っているか?」
「……マジか。」
ドカーン!!
放たれた一撃は、後ろの民家を破壊して、豪炎を上げた。
あまりに唐突な一撃を避けきることが出来ずに、家屋の建材が体に刺さる。
爆発により生じた、戦場の匂い。精神が犯されるくらいに嗅いだ、最低な匂いを。
野郎……何が、ハイカラだ。
相手には古風な武器を押し付けて、自分は最新鋭をブッパか。
グスタフは、一撃を放ったバズーカを地面に捨て、次のバズーカを取り出した。
「古い風に身を任せるのは良いことだ。しかし、それだけで戦場を歩き渡れるほど、私の気は長くない。これならば、効率的であろう。」
「猿と戦う、ハンターの気分か?」
「違う。童と喧嘩するボクサーの気分だ。」
ドカーン!!
グスタフには、遠慮と呼べる一切の躊躇が無かった。
一発撃つごとに、楽し気な表情を浮かべ、何度も発砲してきた。
距離を詰める余裕が無かった。避けるのに、必死で、体にはいくつもの擦り傷と、火傷が刻まれていく。
灰を吸い過ぎたことにより、喉が悲鳴を上げ、肺が犯されていくのが分かる。
グスタフは、四発、五発、六発と撃つ。
そのうち、戦車でも持ってくるんではなかろうかという勢いだった。
背景が真っ白になりそうなほどに、煙が立ち込めた。
後ろにあった家など、数秒前に廃墟にリフォームされたばかりだった。
「良く動き回る。」
「はぁ……はぁ……」
気を抜けば、一瞬で爆炎に呑まれ死ぬだろう。
遠距離攻撃を何とかしなくてはならない。これでは……あまりに一方的過ぎる。
「ま、満足か?」
「そうだなぁ……そうだ。逃げ回る貴様の背中を見て、満足と言うにはふさわしいかもしれん。」
「そうか……では。」
グスタフの背中にヒビが入る。
そこから、水のように血が噴き出た。
急な出来事でグスタフは、反応が遅れ、バズーカを抱えきれなくなった体を見て、初めてダメージと言うものを自覚したらしい。
「ぐふっ……」
グスタフはついに、膝を付く。
「満足したなら、死ねばいい。」
遠くの方からグスタフを見下し、不満げな顔を見せる俺だった。




