第二百三十二話
「第二百三十二話」
・ジェラルド視点
あの敗北者に、一撃を叩きつければ勝てる。いや、勝った。
「……?」
なんだ。寒い。
「……?」
服がない……?
「っ!?」
なんで半裸なんだ!?
痛っ!!
指に亀裂が入り、血があふれ出てくる。
「は……はぁ!?」
信じられない話だが、自分はいつの間にか、半裸で剣を研いでいた。
あ、あの野郎はどこだ!?
「なに!?」
先ほどまで瀕死で、もう一度攻撃すれば死ぬ程度の男。風でも吹けば倒れそうな男が、なぜか五体満足で立っている。
へし折った剣は綺麗な状態に戻り、その目から闘志は消えていなかった。
急いで立ち上がり、研ぎ石と台を蹴飛ばして服を着る。
「お前……」
「なんだ。面白い顔をして。」
やはり……明らかにおかしい……まるで……まるでッ!時間が戻っているみたいじゃないか!!
「『結界』を発動しなくて良いのか?そんな無防備なら攻撃する側がひきようみたいじゃないか。」
「……舐めやがってッ!!」
「『結界・投資』」
両手で剣を持ち、素振りを始めようとするが、ギデオンはそれを許さなかった。
距離を詰められ、素振りをする暇もなかった。
剣と剣がぶつかった。
簡単な力負け。情けなく、剣を上へ振り上げてしまった。
つま先から首元までががら空きである。
それを見逃すギデオンではなかった。
腹の中心辺りに剣を突き刺し、そのまま右の横腹へとスライドさせた。臓器が地面にばらまかれ、吐血する。
その間に空中に持ち上げた剣を二回ほど、短く振り、地面へ叩きつける。
ギデオンは数歩下がり、その攻撃を避けた。
目の前の地面に爆弾でも降ったみたいな、くぼみが形成される。
「くはっ……」
生存時間は長くない。こいつを殺れたとしても……次はないな。
時間の巻き戻し……一番厄介なのは……記憶を引き継いでいやがることだ。手の内を晒しすぎた。もう、貯めることなどできないだろう。短く。でき限り最大に素振りをするしかない。
地面に転がった臓器を見る。
口元から涙のように、涎のように、液体がツーっと垂れる。
「悪くねぇ条件だ。」
何とか体のバランスを整え、立ち上がる。
面白れぇ……やってやるよ……勝ち方なんて……生き残り方なんて簡単さぁ。
こいつにもう一度『結界』を使わせればいい。後は……目の前の阿呆を追い込むだけだ。
「やってやるよ!!」
体に振動が入る度に、激痛のさらに奥の激痛が走る。意識も飛びそうだった。
わざと何もない空間に薙ぎ払いを二回。さらに、一回。もう一回。
ギデオンが攻めてくるまで行う。
それを眺めるように、ギデオンは動かなかった。
「どうした?ビビッて動けないか?」
「いや?傍観してるだけさ。その負傷でどこまで動けるのかね。」
ちっ……こいつ、体力勝負に持ち込む気か。
面倒な野郎だ。
だがッ!!舐められたら終いなんだよッ!!
「抜かったなぁ……阿呆がッ!!」
俺の『投資』は、単に剣を強くするってことじゃねぇ。素振り、いや、貯めることで身体自体を強くする。
見えるか?この肉体の悲鳴が!!
感じるか?この闘志の色が!!
二十回ほど素振りをした。
十分だ。間違いない。野郎は……避けられねぇ!!
一歩動くだけで、その距離を詰めた。
あまりのスピードにギデオンは驚く。
自分の目ですら追いつけない一撃をギデオンに喰らわす。
勝った!!これで『結界』を使わざるを得ない!!
手には確かな手ごたえがあった。
それは間違いない。ここまで速度を上げすぎると、もはや、何を斬ったかわからない。
だが、遮蔽もない。奴は代わりになるものを一切持っていない。ならば!この確かなる感触は、ギデオンの喉を、生命を斬りつけた証拠になり得る!!
スイングが終わった時に、次の攻撃を考える。
気が付くと、俺は座って剣を研いでいるに違いない。なら、野郎が反応する前にもう一度、二十回の素振りを行い、一撃で沈める。
「は……?」
目を見開くと、上下逆さまの世界が広がっていた。
「単純で助かるよ。何も、別に勘違いをしているのは君だけだったようだね。」
「は……」
気道に何かが詰まって声が出ない。
違う……首を曲げられたのか!?
いや、確かに殺したはずだ。手ごたえは……なっ!?
地面に転がったのは、真っ二つになった剣だった。
「君の攻撃に違和感があった。単純に剣を強くしただけなら、あそこまでの威力にはならない。じゃあどうしてか。動かしている筋肉そのものが強化されている。これしかありえない。」
「あ……あ……」
「無駄だよ。しゃべれない。首を折ったからね。自分の負傷を治してもらうために『結界』を使わせたかったみたいだけど、そのせいかな、動きが単純になってた。邪念を抱いた瞬間に勝敗は決していたのさ。」
体は地面に引き寄せられ、崩れ落ちる。
「そうだ。投資という側面から見れば、俺だってしているさ。あんたとは場違いなほどに、経験を積んでる。インチキかもしれないが、最初からやり直すあんたと、途中からやり直す俺。この段階であんたの美学は死んだのさ。」
最後の遺言も残せずに、俺は背中を見守った。
相手がどんな背格好だったか、今となっては思い出せない。




