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第二十二話

「第二十二話」


(昔話―月が欠けたように)

・ノア視点


 そこには四人の家族が住んでいた。

 母。父。姉。弟。

 別に何の変哲もない家族だ。


 普通の一軒屋が並び、戦場とは縁のないのどかな場所だった。

 そこで少年は暖かい両親と、仲の良い姉と共に暮らしていた。


「ノア。ご飯だよ。」


 部屋で寝ていると母が起こしに来てくれる。

 ほぼ毎日だ。

 感謝しなくてはいけない。それなのに、当然にそれが当たり前になっていた。


「はーい。」


 気だるい体を起こし、立ち上がり、下へと降りていく。

 母と父、そして姉が既に席についていた。

 急いで席に座る。


「どうした?今日は遅いな。」


 父の明るい笑顔で朝は迎えてくれる。

 俺は学校へ行っているわけではないので、何時にだって起きる。

 しかし、最近は父の仕事の手伝いをしているので、朝食のタイミングで起き上がる。


「なんでもないよ。父さん。ただ、昨日の寝つきが良くなかっただけだよ。」

「そうか。なら、良いんだ。大丈夫か?今日は休むか?」

「大丈夫。何もないって。」


 父は山で狩をしている。

 山で狩った動物を街へ出荷している。

 その動物達の解体を昨日見た。

 その光景が忘れられなかった。


 姉はその光景を見て、泣いていた。ショックだっただろう。あんなに温厚な父が更に温厚な動物をただの肉にしていたのだから。

 故に姉はショックだったのだ。

 必要な処理であることは理解しているはずだ。これで俺たち家族は生計を立てているのだから。

 しかし、子供から見れば、動物を解体するのも、人間を殺すのも同義らしかった。


 俺はと言うと、ただ見ていた。

 泣きも喚きもせず、ただじっと見つめていたんだ。

 それが、悲しかったのか、失望したのか、よくわからなかった。

 しかし、その光景は忘れられなかった。光景が忘れられなかったと言うのは語弊がある。その光景を見ていた自分の心境こそ忘れることができないものだった。

 それを見て、俺はどきどきしたんだ。

 体に刻まれている本能のようなものが動き出すような、これをするために産まれてきたんだと思うような本能。

 それを感じたことの興奮で昨日は眠れなかった。

 刃物が皮膚を切り裂き、肉と骨を断つ。このどうしようもない、血生臭さが鼻にべっとりとこべりついて離れない。


 姉はこの光景の後に、熱を訴えた。

 両親は一時的なものだと言っていた。

 普通、普通とはこうあるべきなんだろうか。

 逆に、両親は俺について驚いていた。何も見ていないような反応をし、見よう見まねで父の仕事を手伝って、その夕食に肉を食べた。

 その行動にだ。


「じゃあ、今日は少し奥の方へ行って見よう。今日の目標は3頭だ。」

「分かった。」


 食事中に今日の話を聞く。

 この時間がとてつもなく好きだった。自分も立派な大人の仲間入りできたのだと思えるから。


「姉さんは来るの?」

「私は……」


 昨日から体調が優れないらしい。

 今日はお休みするらしい。


「じゃあ、行こうか。ノア。」

「うん!」


 その元気な返事を聞いて、両親は笑顔を見せてくれる。

 その笑顔は何にも代えがたいほどに安心するものだった。


 外へ出る。

 今日は一段と冷え込むらしい。

 多くの服を着こみ、寒さをしのぐ。こうしないと凍死してしまうと父から教わった。

 父は慣れた手つきで準備を行う。

 遭難対策もばっちりだ。


 基本は罠を仕掛けて、数時間待つ。

 俺たちは、罠にかかって体力を消耗した動物の命をいただく。


 山のいくつかのポイントに罠を仕掛けた。

 寒い雪山には、方向が分からなくなりやすい。だから、父から離れずに行動する。

 父は地図を見なくても、どんな時間帯でも完全に道を把握している。頼りがいがあり、尊敬している。

 いつか自分もこうなりたいと心から願っている。

 父からは刃物を貰った。立派なものではない。精々、木の枝を落とせる程度のものだ。

 人に向けるな。命を粗末にするな。許可なく使うな。

 これを徹底しろと言われた。

 制約がうるさいと言いたいわけじゃない。ただ、純粋に父からもらったそのこと自体が成長を感じられる代物故に、うれしかった。


 その晩には目的通り3頭の鹿を捕まえることが出来た。

 俺の仕掛けた罠にも掛かっていたので、父は力いっぱい褒めてくれた。

 父は褒める時に、頭を撫でてくれる。その行動は子供扱いしているようだが、父に褒められるときは何も考えずにうれしかった。


 家に帰る途中で、遭難している男性を発見した。

 この吹雪の中で夜を超すのは不可能に近いだろうに、その場でうずくまっていた。

 かろうじて意識があるみたいだ。


「おい!あんた!大丈夫か!?」


 父は発見すると、鹿をその場に置いて、その男性に近づいた。

 体温を確認し、まだ、助かると言い残すと、俺が持てる最大の鹿を持たせ父はその男性を家まで運んだ。


 理解はできる。

 鹿なんかよりも人命を助けたんだ。立派な行動だ、賞賛されるべきだとも思う。

 しかし、しかしだ、我が家は毎年満足のいく食事ができないほどに貧困している。

 それどころか、子供の前では温厚な両親が、子供が寝静まった後に真剣に話し合っているのを聞いたことがある。

 それほどにお金に困っている。

 それにも関わらず、父は金の元になる鹿を捨て、金にならないであろう人間の命を優先した。

 その行動に理解はできても、共感はできなかった。


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