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第十八話

「第十八話」


・エレナ視点


 ノアが塀を乗り越えて行ってしまった。

 殺すなと釘を刺しておいたから大丈夫だろう。

 案外賢いし。


 そんな彼とは別行動をする。

 ノアが中で暴れていれば簡単に侵入できる。


 門をくぐり、その敷地へと足を入れる。

 中へと歩いていくと、昨日薬物を売った人物がそこには居た。

 ガリオン・マクレイヴ。その顔を数日では忘れない。お金をもらったのだから。


「よく来たな。ピエロ。」

「報酬は?」

「中へ来い。」

「分かった。」


 ガリオンに連れられて、客間に入っていく。

 数人の護衛が付いてきたが、ガリオンが人掃いをしたので、この部屋には私とガリオンしか存在しない。

 外の廊下には数人が待機しているみたいだけれど。


「よくも騙した相手に顔を見せられるな。」

「それはどうも。しかも、騙したわけじゃないよ。そっちが勘違いしたからそのまま話を進めただけだよ。」

「騙してるのと同義じゃ。金も奪いやがって。」

「人聞きが悪いね。落ちてたから拾ったの。良いじゃん、どうせ今後は収入が増えるだろうし。」

「うまくいけばな。」

「いくさ。」

「なぜ、言い切れる。」

「勘だよ。それも、とびきり当たる。」

「それは結構なことだ。」


 そう。嘘をついた。

 “グリム”にはガリオンを迎える準備がないと。

 それは大きすぎる嘘だった。

 実際には“グリム”は新たなリーダーを求めており、そのリーダーこそがガリオンだった。


 机の上に袋を乱暴に置く。

 その音で誰かが突入してきそうだ。


「毎度!」


 お金を自分の膝の上に置き、立ち上がろうとする。


「待て。」

「なに?」

「話がある。」

「悪いね。私にはノアが居るから。」

「そういう事じゃない。」

「まあ、知ってたけど。」


 椅子に座りなおし、私から話始める。

 向こうは話始めるのに時間がかかりそうだから。


「アフターサービス。少しだけヒントをあげるよ。」

「ヒントじゃと?」

「そう。君が今後頼りたい相手はやめた方が良い。」

「!?」

「その相手は、君たちを駒とすら思ってない。犬死して終わりだよ。」

「……なんで知ってる。」

「情報は武器だ。何にも代えがたい破壊力を有してる。それにお金を使うのは当然だよ。」

「はったりか?」

「違う。名前を言ってあげるよ。ヴァルモンド家。五家の一つだ。現状の五家はヴァルモンド家の一強。他の家系を圧倒している。人員でも、領地でも。」

「なんで、」

「あまり見くびらないで。客観的に私をどうやって見えているか知らないけど、私から見れば君も、ノアも同い年に見えるよ。」

「……なぜ、ヴァルモンドは俺たちのようなごろつきを求めた?」

「それは簡単。純粋に水増ししようとしたんだ。人数の。それ以外にはない。戦力としてカウントしていないだろうし、それ以前に求めてない。」

「……そうか。なぜじゃろうな、お前さんの言葉には説得力がある。」

「そりゃそうさ。私には長年の知識がある。最初は厳しく、困り果てるだろうけど、君たちは成功するよ。必ず。」

「……分かった。信じよう。」


 ガリオンが立ち上がる。


「庭でお前さんの相棒が暴れとる。なんとかしてこい。」

「はいはい。一緒に行こうよ。」

「よもやピエロに誘われるとはな。俺も運がない。」

「運なんて曖昧なものを信じているからそうなるんだよ。運ではなく、過程を信じるべきだ。」

「……こっちだ。」


 庭に案内される。

 遠くでは、ノアが躍るように戦っている。

 その顔は見たこともないくらいに明るかった。

 やっぱり、私の推測が正しければ、彼は……。


「どうじゃ。あれが俺の一番強い部下じゃ。」

「へぇ~。」

「興味ないな。」

「そんなこともないけどね。知っていたから。」

「ほう。」

「名前は、グリモール。幼少の頃に兵士を夢見たが、生まれが貧困であるために断念。そして、放浪中にガリオン・マクレイヴに出会う。こんなところかな。」

「調べたとかいうレベルじゃないな。」

「褒めてくれるの?」

「いいや。気味が悪い。」

「褒めてるんだ。」

「違うと言ってる。俺たちのことは大抵知って良そうじゃな。」

「もちろん。もっと披露しようか?」

「いや、いい。お前さんたちの話でもするか?」

「私たちの?何を調べたの?」

「お前さんは悪い噂話しかなかった。そして、ガキの方にも。よくも、まあ、こんなにやらかせるな。」

「照れるね。」

「照れるな。どうするんじゃ。五家の管轄内では生きていけんだろ。」

「そうでもない。私にはつてがある。それに、現状の私の目的は達成できたし。」

「……あのガキか。」

「鋭い人は嫌いじゃないけど、あまり変な憶測をしない方が良いよ。」

「そうじゃな。悪かった。」

「いえいえ。」

「気を付けろ。」

「なにが?」

「あのガキじゃ。不思議なくらいに戦場に捕らわれとる。あれは、生まれながらの鬼じゃ。」

「……一つ。アフターサービスをおまけしてあげるよ。」

「なんだ。」

「生まれながらの鬼。それは、悪くない推測だよ。当たりに近い。」

「は?」

「一つだけだ。この一つは掛け替えのない私の財産さ。」

「そうか。お前さんは、ガキから好かれとるな。」

「なんでそう思うの?」

「ガキの目じゃ。俺や他を見る目と、お前さんを見る目が違い過ぎる。」

「今日で一番良いことを聞いたよ。」

「そりゃどうも。」

「じゃあ、もう一つだけ。君をスカウトしに来た、ヴァルモンド家の兵士。おそらくだけど、君たちに声を掛けてきたと言うことは、この土地。つまりは【フロストホロウ】を狙ってる。」

「……」

「実は君たちを傭兵ではなく、マフィアとして雇いたかったんだよ。」

「……断って正解じゃな。」

「うん。じゃあね。」

「ああ。二度と会いたくない。」

「またのご利用をお待ちしております。」

「帰れ。」


 グリモールと握手しているノアのところに駆け寄っていく。

 ノアがバランスを崩すほどに飛びつく。

 笑顔から急に、嫌悪交じりの顔になった。

 しかし、嫌がっているという気はない気がする。希望的観測なために正確ではないだろうが。


 彼の体温を全身で感じる。

 彼を見ているとなんだろう。

 この子になら殺されても良いと感じる。


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