第十七話
「第十七話」
もう一度同じ景色をこの目に焼き付ける。
“グリム”の本拠地。つまりは、屋敷である。
数十人がここで共同生活をしているのだろう。
それを考えるとかなり手入れされている。
外壁までもが新品同様の美しさだ。
それとも待っているのだろうか。新しい頭を。
門の前に立つまでもなく、門番が歩いてくる。
先日に会ったのと同一人物だ。
しかし、何かが違う。気持ちだろうか。
積極的な戦闘の意志が見える。それが態度となって表れているのだ。
「よく顔を見せれたな。」
「報酬は貰っていくよ。」
「やれるもんならな!!!」
斧を振りかざしてくる。
剣で受けようものなら、力負けしてしまうだろう。
その斧を避ける。後方へと飛び、剣を抜く。
斧は地面へと突き刺さり、本人は目力で圧倒しようとしてくる。
輩の戦い方である。戦闘経験が豊富とは言い難い。
エレナの顔を確認する。
「やっちゃえ!」みたいなウインクをしてくる。
あくまでも自分の戦闘力は見せてくれないらしい。
「おらあああああ!!!」
怒号を吠えながら突進してくる門番。
目の前に来た瞬間に斧が飛んでくる。上段からの単純な振り。
剣で対処することは不可能なので、振り上げた手を蹴りでへし折る。
斧は門番の背中へと力なく落ち、門番はあまりの激痛に倒れ込んでしまう。
「うっ、、、、はぁ、、、」
「どうする。」
「そうだねぇ。お話合いはできそうもないね。でも、ここまでやった報酬は貰わなくちゃね。ノア。任せるよ。」
「分かった。」
塀をジャンプで乗り越え、屋敷の中へと侵入する。
先ほどの音で全員が勘づいていたらしい。
そこに見える誰もが、武装をしていた。
「てめぇ!!!」
「ガキコラ!!!」
「殺せ!!!!」
随分なもてなしである。
その人数は二十人だろうか。
全員が不良上がりの、根性のみの戦い方だろう。
一番やりやすい者たちだ。
散々叫びまくった後に次々と突進してくる。
エレナからは殺すなと言われている。
こうなることが予想できていたらしい。
なら、最初から言えばいいのに。
一人一人相手をするまでもない。
相手の斬撃をかわしつつ、剣の柄を使って気絶させていく。
こんなレベルのは戦場に立ってすらいなかった。
一通り片付いたか。
残るは一人だ。
その一人が剣を抜いた刹那、空気が変わる。
匂いで分かる。感覚で分かる。強者の気配だ。
幾たびの戦場で嗅いできた、強者特有の匂い。冷や汗が噴き出るほどの威圧。
この感覚になるのはいつぶりだろうか。
握る剣に緊張が走る。
「小僧。名は?」
「ノアだ。」
「そうか。俺は、グリモールだ。」
お互いに、にやけ顔が収まらない。
久しく見ないその呼吸にわくわくが止まらない。
「「……行くぞ。」」
静かな言葉だった。
しかし、強く、激しい意志を彷彿とさせた。
剣がぶつかる。
間合いは同じだろう。身長差があれど、ハンデにすらならない。
両者止まることを知らない斬撃を打ち続ける。
何度も剣を交わし、傷はない。
剣が再度ぶつかる。
腕力は同程度か。押し合いになるが、お互いに一歩も退かない。
「やるな、ノア。」
「あんたこそ。」
「嬉しそうだな。」
「久しぶりの互角だからな。」
「……互角か、」
「は?」
「いや、何でもない。そうだな!張り合いがあって良いだろ!!」
腹を蹴られる。
後ろへと退き、再度構える。
相手の顔をよく見る。呼吸、足運び、それらから次の動きを予測する。
「あんたこそ、笑みがこぼれてるぞ。」
「そりゃな。ノアと一緒さ。」
「良かったな。」
「ああ!!」
剣が一回、二回、三回と当たる。
だんだんとグリモールの動きを封じ込める。
予測先に、先手を打ち続け、相手を追い込む。
ついにグリモールがリズムを崩した。
ここぞとばかりに追撃をする。
しかし、罠だったみたいだ。
俺が一歩踏み込んだところでグリモールが顔色を変える。
にやけ顔が、さらに笑顔へと近づく。
踏み込んだところに剣が飛んでくる。
この踏み込みを待っていたのだ。この男は。
勝ちを確信したグリモール。しかし、俺の方が上手だ。
足先に飛んできた斬撃を、剣で受け、剣を起点に跳躍する。
跳躍の威力をそのままに、グリモールの手の内から剣を弾き飛ばす。
転がった剣は、音を奏でながら、誰にも届かないところへと落ちる。
不意のことで驚いたグリモールはその場に尻もちをついてしまう。
立ち上がろうとしたところに剣を向ける。
「俺の勝ちだ。」
その一言で、すべてが決した。
「まだ、やるか?」
「いいや。ノアの勝ちだ。」
剣を引っ込め、手を差し出す。
驚いた顔を見せながらも、すぐに笑顔を取り戻し、俺の手を取る。
そして、立ち上がり、剣を拾い、鞘へと納めた。
その動作を見守った後に、俺も剣をしまう。
「ありがとう。いい勝負だった。」
「そうだな。悪くなかった。」
「あんなに笑顔だった小僧がよく抜かす。」
「お前も楽しそうだっただろ。」
「そうだな。しかし、撤回させてほしい。」
「?」
「互角……なんて良いものじゃなかった。」
「何言ってる。」
「俺は追いつくのに精いっぱいだった。まるで敵わなかった。お前には余力があった。俺は限界を超えていた。完敗だ。」
手を差し出される。
その手を握り、顔をふと見上げると、悲しそうな、残念そうな、何とも形容しがたい顔色を拝んだ。
「そんなことない。悪くなかった。」
「お世辞を言わせて悪いな。」
「はいはーい!!辛気臭いのは終わり!!」
エレナが空気を乱しながら歩いてくる。
大きな袋を片手に。
「流石、私のノア。」
「誰がお前のだ。」
近づいてきたかと思うと、飛びついてくる。
そして、顔を近づけてきたので、突っぱねる。
「もう~ノリ悪いなぁ。」
「黙れ。離れろ。」
「無理だよ。引っ付いているからね。」
「はぁ。」
「厄介そうな相手だな。」
「まったくだ。じゃあな。」
「ああ。達者でな。」
軽い挨拶を交わし、その場を後にする。
この引っ付き虫を何とかしなくては。




