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第十六話

「第十六話」


「……ノ………ア……?」


 目の前の女が泣いてる。

 慰めなきゃ。

 どうしても、どうしようもなく、こいつが大切なんだ。

 こんなことで泣かせてはいけない。


「なに……してる……の?」

「違う。」

「それは……なに……?」

「これは、トマトだ。」


 べったりと付着した赤色の短剣に目が釘付けの女。

 それを追って見に来た男女が悲鳴を上げる。


 ソウダ………オレハ……カゾクヲ……マモルンダ。



 目を覚ます。

 手にべっとりとついた汗を服で拭う。

 ようやく意識が体に定着すると、そこらじゅうで汗を出しているようだった。

 服も湿っている。

 よくない兆候である。古い思い出に浸っていたからだろうか。


 顔を上に向けると、女が息を静かに立てながら、目を閉じて寝ている。

 普段は仮面でその美顔は隠されているが、よく見ると美人である。

 しかし、中身を知ってしまっている以上、好ましくは思えない。


 その美女は目を開ける。

 眠そうな顔をこちらに向けてにっこりと笑顔を見せる。


「おあよう。ノア。」

「眠そうだな。」

「そうだねぇ。眠たいねぇ。」

「腕をどかせ。」

「今は無理だよ。だって、まだチャージできていないからね。」


 ぎゅーっと大きく抱きしめられる。


「って、汗かいてるじゃん。暑かった?」

「そうだ。二度とこれやるな。」

「はいはい。」

「汗を拭いてくる。」

「分かった。」


 ベッドを離れ、剣を拾上げ、風呂場へと向かう。

 高級な宿屋なので、風呂やトイレは清潔に保たれている。


 シャワーを浴びて、体を拭き、服を着替える。

 立てかけてある剣を握る。


 室内へと戻ると、エレナが着替えている最中だった。


「きゃー。」

「早く着替えろ。飯だ。」

「はいはい。分かってますって。どうせ、ノアには興味ないくらい。ちょっとくらい赤面してくれても良いと思うけどね。」

「早く行くぞ。」

「分かったって。」


 外へ出ると、すでに街は活動を始めており、昼間の空気だった。

 寝るのが遅かったため、起きるのも遅かったらしい。

 適当に開いているお店に入り、注文する。

 昨日のような物騒なお店ではなく、きちんとしたお店だ。


 あくびをしながらエレナは話し始める。


「今日は、前金の回収へ行こうか。」

「“グリム”へか。」

「そうだよ。そうでないと、ここまでやった意味がないからね。」

「ガリオンから奪った金はどれくらいなんだ。」

「奪ったって言い方はやめてよ。落ちてたから拾ったの。本人は寝てたし。これでノアは気にせずにご飯を食べられるよ。」

「気にしたことない。」

「あら!私からいくら搾り取るつもりなの!?」

「そういう約束だろ。」

「そうだった。忘れてたよ。君が私の護衛をする報酬だったね。」


 重要なことも教えてくれない。

 重要なことを覚えていない。

 こいつのどこに商才があるのだろうか。

 今のところ詐欺師となんら変わらない。


 料理が運ばれてくる。

 湯気を放ち、匂いで誘惑してくる。

 急に腹が鳴り、口からの液体を抑えるのに必死だ。


「あ!おいしい。どう?ノア。」

「……」


 無言でがっつく。

 こいつと話していても碌な質問が来ないから。


「そういえば、昨日はどうして店内に来なかったの?」

「………?」

「ほら、ガリオンが机に短剣を突き刺した時だよ。」


 料理を頬張りながら、その質問の答えを考える。

 答え自体はあるが、本人を目の前に、言うことではなかった。

 なんと答えようか悩んでいる間に


「答えられないんだ。」


 にやにやとしたエレナが突っ込んでくる。


「違う。」

「そうなんだ。じゃあ、言い訳の準備かな?」


 鋭い。

 というか、俺が分かりやすすぎたな。


「音が聞こえなかった。」

「音は聞こえてたんだ。」

「……」

「それから?」


 エレナは俺をからかう気満々だ。


「気分じゃなかった。」

「助けるか迷ってはいたんだ。」

「……」

「それで?」

「俺からの位置なら、間に合わなかった。」

「間に合ったけど、行かなかったんだ。どうして?」

「……もう言わん。」

「すねないでよ。ちょっと面白いからさ。」

「……」


 ジュースで喉を潤す。

 しかし、これ以上の言い訳を言っても無駄に思う。


「どうして来なかったの?」

「……」

「ねぇ~。もう何も言わないからさぁ~。」

「……気まぐれだ。」

「そうなんだ。」


 含みのある言い方だ。

 クソ。なんて言えば納得するんだ。


「分かった。今から私が推理しよう。それで当てれたら、今日も抱き枕ね。」

「俺は、お前の純粋な戦闘力を知りたかった。」


 先手必勝である。

 こういう時は、相手の手に乗ってはいけない。


 確かにガリオン程度の小物に手間取る訳はない。

 しかも、あの距離なら確実に殺せる。

 しかし、見てみたかった。エレナの、傍から見た、彼女の強さを。ガリオンから手を出せば、エレナは反撃をすると思った。

 でも、結果はそうはならなかった。

 だから、無駄になった。


「ケチ。」

「黙れ。二度としない。」

「それでも、私に興味持ってくれたのはうれしいよ。」

「お前ほどの腕力は見たことがない。」

「そうだろうね。私は天才だからね。」


 これで乗り切るつもりだろうか。

 全然説明になっていない。

 以前もそうだったが、手の内を明かすつもりはないらしい。


「そろそろ行こうか。」

「ああ。」


 二人は外へ出る。

 そして、歩き出す。

 目的地の屋敷へと。


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