第十三話
「第十三話」
「よし。作戦開始!!」
「……」
夜中のことである。
寝ているところを叩き起こされて、街へと出された。
周りは暗く、人も居ない。
この街の人間は絶滅したのではないかと思うくらいに静かだ。
自分たちの足音だけが、返って来る。
「元気ないなぁ。はりきって行こうよ!」
「うるさ。」
一番イラっとしたのは、こいつだ。
なぜ、いつもストレスの大本は一緒なのか。
夜中に叩き起こされ、眠い目を擦る暇もなく、腕を引っ張られた。
そのうえで、このハイテンションだ。
付き合ってられない。確かに、俺が頼んだ案件かもしれないが、もっと行動を事前に教えてくれてもいい気がする。
「よし、向かうべきところに行こうか。」
「分かったから、その頭に響く声をやめろ。」
「無理だよ。だって、二人きりの街だよ?こんな日は歌でも歌いたいね。」
「早く、案内しろ。」
「はいはい。分かってるって。こっちだよ。」
エレナは歩き出す。
黒い髪の毛を夜に溶け込ませながら。
その足取りには迷いがなかった。
まるで待ち合わせ場所にでも向かう勢いだ。
逆に心配になる。
歩いて行った先は、街はずれのレストラン。
ここには入ったことがある。
記憶にも新しい、初めてエレナと会った日の帰り道で使ったお店だ。
看板がなく、小汚い店内が魅力的である。
こんな時間にも関わらず、多少の人数が居た。
全員が夜の住民。つまりは、昼間にできない悪事を働く、救いのない人種ばかりだ。
一つの席に、男が座っている。
初めて会うにしては、妙な親近感があった。
そう。彼こそが、ガリオン・マクレイヴだ。
俺たちの探し人。間違いない。
エレナは躊躇せずに、その席へと向かった。
俺もそれに続く。
「今一人?」
「あ?誰じゃ。」
「私は、ただの商人だ。君に危害を加えるつもりはない。」
「そうは見えんな。」
「ほう。」
「第一に、席ならもっと空いてるだろ。なぜ、ここに座る。ガキと一緒に。」
俺を警戒しているのか。
ただのガキに対して、妙に警戒している。
「まあまあ。うちの連れの目つきが悪いのはいつものことだから。」
「それにお前じゃ。怪しすぎるわ。怪しいを通り越して、罠じゃなかったら、俺が貴族になれるくらいに不思議じゃ。」
「そんなに警戒しないでよ。」
「帰る。」
「待て。」
「なんだ。ガキ。」
「座れ」
「命令か?」
「ああ。座れ。」
「良い態度じゃのう。ガキとはいえ、隙がないその姿、俺よりも強いかもしれん。」
「よく見える目だな。座れ。」
顎を使って命令する。
「しかし、しかしだ。俺がガキに舐められたままで居るのは、許されんことじゃ。言うことを聞かせたかったら、いっぺん、かかってこいや。」
「良いだろう。」
こっちもフラストレーションがたまっていたところだ。
丁度良い案山子が見つかってよかった。
剣を引き抜くモーションに入った瞬間。
「はい。スト―――ップ。」
エレナが間に入って止めた。
この静止を振り切れるほど、俺は我慢できない。
そのまま抜刀を開始する。
「はい。後で、抱き枕の刑ね。」
「っ!」
すでに剣はエレナが持っていた。
奪われた瞬間を目にすることが出来ない。それどころか、反応すらさせてもらえなかった。
「座ろうよ。ガリオンさん。」
「そう言うことか。」
俺が理解するよりも早く、ガリオンは納得した。
俺たちがなぜ、ここへ来たのか。
ドランの差し金であることを。
3人が席につく。
俺とエレナが隣で、正面にガリオンが座る。
奪われた剣を返してもらえていないことが、唯一の不満点だ。
「話はなんぞ?」
「ドランさんの依頼は、あなたを見つけることです。特に、これ以上は干渉しません。」
「じゃあ、遠くで見とればよかろう。」
「そうだね。そうなんだけど……やりづらいな。ノア。」
「何。」
「ちょっと外で見張りをお願いするよ。」
「あ?なぜだ。」
「その方が良いと思ったからだよ。」
「じゃあ、剣を返せ。」
「あ。はい、どうぞ。」
強奪するように、剣を強引に取り戻す。
「そんなに睨まないでよ。怖いなぁ、もう。」
「お前が、いつまでも持ってるからだろ。」
「はいはい。ごめんごめん。行って来て。」
「分かった。」
仕方なく、外へと向かう。
外では、満天の星空を拝謁することができた。
大きな空を見ながら、地面へと座り込む。
ドアを背にして。
息を出すと、凍りそうなほどに冷たい。
白い息が、雪のように解けていく。
極寒の大地は俺たちの起きている時間とは関係なく、体温を奪っていく。
その所作に、少し、ほれぼれする。
夜中と言うことで、ここへ来る人物は多くはない。
しかし、少なくもない。
単純にやっている店がここくらいしかないからだが。
剣を持っている者。傷を負っている者。何か下卑た笑みを浮かべる者。
多種多様な目的を歩いてきた者たち。
それに比べて、自分たちはどうだろうか。
これに意見できるほど、立派な生を歩んできただろうか。
否だ。
俺たちは、碌な死に方ができないだろう。
多くを傷つけ、己だけが得をする。
誰に殺されても文句の一つも言えやしない。




