第十二話
「第十二話」
とある昼下がり。
部屋に二人の男女。
一方は全裸で満更でもない笑みを振りまいている。
一歩は剣を抱きしめこの世を嫌悪する目を相手に向けている。
「ほら、おいでよ。ノア。」
「良いか。ルールは覚えてるな。」
「分かった。触らないよ。」
「もし何か変なことしようとしたら、首を斬る。」
剣を抱きしめたままベッドに入り込む。
まだ、昼なのに寝ても良いのだろうか。
「暖かい!ノアは体温が高いね!」
「寝るぞ。」
「テンション低いなぁ。そんなんじゃ、満足できないよ。」
「何をしたら、満足するんだ。」
「そうだなぁ~。何してもらおっかな??」
「寝るぞ。」
「待ってよ。そんなにすぐに行かなくても良いじゃないか。楽しもうよこの経験を。最初で最後になりかけているし。」
「当然だろ。二度としないからな。」
「そうだ。君は今、約束を破っている。」
「は?」
「約束ではルールを一つだけ決められるって言う話だったけど、そのルールは私が君に触れないことだったよね。」
「そうだ。何が違うって。」
「君のルールの中には剣を持ち込んで良いなんて言っていなかった。それなのに持ち込んでいることだよ。君は眠るときもその血生臭いものを抱いているのかい?」
「そうだ。何もおかしくない。」
「でも、ルール違反だよ。」
「そんなことない。これが俺のスタイルだ。野次を飛ばすな。」
「それは見逃せないなぁ~。違反者には罰則が必要じゃない?」
「いちいち頓知を言うな。そんなに俺を陥れたいのか。」
「そうじゃないよ。ルールは厳格であるべきだと言っているんだよ。」
「あほらしい。そんな言葉に引っかかるわけないだろ。さっさと寝るぞ。眠いんだろ。」
「待ちなさい。はっきり言っておくけど、今、決定権を持っているのは君じゃない。」
エレナの手が俺の腕に触れる。
剣を引き抜き、振り返るが、もうすでに手元に剣は存在しなかった。
「!?」
ベッドの外に弾き飛ばされていたのだ。
エレナの手によって。
「これで良いね。」
「なにする。てめぇ。」
「お前から、てめぇに昇格したのかな。もう。口が悪いなぁ。」
「これだってルール違反だろ。」
「そうかな?」
「俺に触っただろ。」
「えぇ~身に覚えがないなぁ~。」
「ちっ」
「あら。そんな下品なセリフを吐くんじゃありません。」
「黙れ。」
ベッドを抜け出して、剣を拾いに行こうとする。
布団に手を掛けた瞬間に
「待って。」
その掛け声と共に、腕を掴まれ、普段通りの馬鹿力で引き込まれる。
引っ張られた先は、エレナの胸元だった。
「よし!ゲット!」
「これこそ違反だろ。」
「え?聞こえない。」
真顔でとんでもないことを言いやがった。
剣があっても勝てない相手に素手で挑めるほど俺は勇敢じゃない。
しかし、服も着ていないこいつには、小細工をする道具がないはずだ。
勝てる。
この一文だけが俺のどこかに刻まれた。
「そんなに抵抗しないの。傷つくなぁ。」
「この状況なら勝てる。そう、確信しただけだ。」
「やってみる?」
腕を振り上げる。
エレナ顎めがけて。
それをエレナは顎で受け止める。
「っ!」
その届いた拳は、顎に到達すると、感覚が受け取れる最大の激痛を発した。
腕が故障するまでには至らないが、確かに、これ以上は動かせそうもないほどに、痛い。
「……何をした。」
「何も?ただ、ノアが腕を振っただけでしょ?」
ありえない。小細工する道具も時間もなかったはずだ。
それなのに、どうして。
純粋な硬度があったとでも言うのだろうか。
しかし、何度か彼女に触れているが、人間らしい柔らかさだ。
顎などの、弱点は堅くなっているのか?
理解できないその数秒。
納得がいかないその行動。
合致しないその見た目。
どれも府に落ちない。
「ふざけるな。なんだ、その装甲は。」
「酷い言いようだなぁ。私がまるで人間ではないみたいな。私だって乙女なんだから、傷つくよ。」
「こんな強度のある、女なんていない。それどころか、人間の強度じゃない。」
「そろそろ怒るよ?」
「こっちのセリフだ。がっつりルール違反してんじゃねぇか。」
「え?聞こえない。」
このふざけた言葉で押し通すらしい。
こちらも納得がいかない。
「剣だけ拾わせろ。」
「それはできないなぁ。寝る時間くらい戦場から離れたら?」
「いいか。俺にとって剣とは生命線だ。これが無くちゃ眠れないんじゃなく、安心できないんだ。」
「うん。聞こえない。」
「うざ。」
無言で頭を撫でてくる。
払いのけようと腕を動かすが、その腕力によって、微動だにしない。
どれだけの力の差があるんだ。
この華奢な体のどこに筋肉が詰まっているのだろうか。
一見しただけでは、理解に苦しむ。
「……そんなに嫌なの?私と寝るのが。」
「だから、抵抗してんだろ。」
「……そう。」
強く抱きしめられる。
しかし、強いと言ってもどこか虚しさや寂しさを感じる。
これは何を意味しているのだろうか。
俺はあきらめて、目を閉じた。




