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第十一話

「第十一話」


 目の前に湯気が立っている。

 そして、香ばしい匂い。

 その光景と鼻孔をくすぐる匂いに我慢が出来なくなった。


 料理に手を付ける。

 こんなものを目の前に置かれたら、行儀なんて気にしていられない。

 手づかみで口に運んでしまいたくなる。

 それをさせないのが、自称相棒。自称姉。自称敏腕。

 エレナだった。

 手を伸ばすと叩かれる。

 「コラッ!」と言って。


 エレナは話し始める。

 ことの憶測とでもいうのか、分かっている風に。

 正確に、ゆっくりと。


 先のマフィアは“グリム”と言うらしい。

 “グリム”の始まりは、アルノ・マクレイヴという人物が結成した傭兵集団だったらしい。

 そこでは、職に就けない不良をかき集めて、仕事を提供する事業を行った。

 しかし、問題がある。そう、傭兵と名乗るには弱すぎたのだ。

 ただの不良グループでは、そこらの山賊に勝てるかどうか、いい勝負だった。それでは、紛争地へ赴き、活躍することなど到底できない。

 そこで“グリム”は方向転換することになる。

 始まったのが、マフィアと呼ばれる、社会の裏側を支配する行為。

 薬物の売買、不動産の管理、人攫い。金になりそうなことはすべて行ったみたいだ。

 そんな中で、ボス、アルノ・マクレイヴは一人の息子を得ることになる。

 母親の正体は不明。ボスの子供かどうか、誰も知らない。

 しかし、ボスは、自分の息子だの一点張り。

 誰もが、二言目を発さなかった。

 アルノ・マクレイヴの死。それは、突然にやってきた。

 薬物のやりすぎだった。

 アルノの死後、先代の息子。ガリオン・マクレイヴが主導権を得ると誰もが考えたが、彼の方針は誰もを苦しめるものだった。

 彼の方針とは、闇の事業を辞め、傭兵になろうとするものだった。

 これに反対した者は多かった。

 そして、一人の男に皆ついて行った。名は、ドラン。現“グリム”ボス。

 俺たちを脅した人物だ。

 ガリオン・マクレイヴは数人の仲間と姿を消し、現在も消息は不明。

 それを探し出すのが俺たちの仕事らしい。


 店でジュースに黄昏つつ、その話を聞く。

 エレナはなんでこんなことを知っているのだろう。

 不思議だ。


「こんな感じかな。だから、この依頼はお金にならない。」

「なぜだ?」

「今、“グリム”は大不況でね。前金の三倍も出す余裕がないのさ。どうして、今になって彼を探すのか。この理由は単純だね。」

「……金がないから。」

「うん。彼の言うとおりに傭兵をやった方が良いんじゃないかって意見が産まれるほどにね。」

「なるほどな。なんでそんなこと知ってる。」

「どうしてだろうね。当ててみてよ。今日の私の抱き枕ちゃん。」

「絶対しないからな。」

「あれ~おっかしいなぁ??私にお願いしておいて、契約すら守れないのぉ??」

「黙れ。」

「そんな単純な言葉で威嚇しても無駄だよ。約束も守れない子供にはこれ以上協力しない。私は部屋に戻って寝るよ。昨日はおしゃべりをして夜更かししてしまったからね。」

「……お前は良いのか?」

「何が?」

「もし、金が入るなら、やるだろ。」

「ふっ。甘いね。ノア。良いかい?商人はもし、なんて言葉は信用しない。私のモットーは人情より利益だからね。利益にならないことはしない。」

「……じゃあ、俺も降りる。」

「良いの?犬のように扱われたままで。良いの?ズタズタにされたままのプライドで。」


 妙に揺さぶって来る。

 どうしてほしいんだ、こいつは。


「なんだ。はっきり言え。」

「察しが悪いね。私が、あえて、あの屋敷で下手に出た訳を理解できていないの?」


 そういうことだ。

 この状況を作り出したかったらしい。

 俺にこの選択をさせるために。

 プライドか屈辱か。

 同じ意味合いだが、この場においては明確な違いが出る。

 本当に良い性格をしている。


「良いかい?もう一度言うよ。私は利益を追求する。その利益はお金だけじゃない。君には選択肢があるはずだ。後悔の無いように選択してね。」


 こいつとの添い寝。

 格下に舐められたままの人生。

 どちらの地獄を選ぶべきか。

 そのジュースを啜ているだけでは、到底出そうもない。


「そんなに悩んで。そうだ。じゃあ、譲歩してあげるよ。寝るときに私は、仮面を外す。」

「……」

「ちょっとドキッときた?」

「俺は決めた。」

「うん。嫌な予感がするから、ちょっと待って。そうだなぁ……あ!服も着ない。」

「それで最後か。」

「まだあるから。急がないで。……分かった。ノアはルールを一つだけ決められる。」


 その言葉で選択を決めた。

 悔いが残らない選択を。


「ここで宣言してもいいか。そのルールを。」

「もちろん。部屋に入ってからでも良いけど。」

「分かった。今、言う。」

「じゃあ!」

「ああ。ルールは、俺に触れるなだ。」


 エレナの顔が面白いくらいにひきつった。


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