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9. うっかり殴り殺されかけたので回復アイテム、か~ら~の、インベントリオープン

 僕の顔面に向かって、ユウが細い腕を振り下ろしてくるところだった。


「わあああ!」


 僕は思わず叫んで、後ろにひいて避ける。


「ヒューマン! お帰りなのじゃ!」


「なんで攻撃してるの?!」


 視界の下の方に、ハートマークが6個あって、一つだけ赤色で、他のはすべて灰色になっている。


「ねえ、これ、僕のHPが最大6で、残り1という状態では?! 痛みはないし、体は普通に動くけど、死にかけてない?! ねえ、このハートがなくなったらどうなるの?!」


「死ぬのじゃ!」


「無邪気に殺さないで?! 死ぬのに、なんで攻撃したの? 僕達ズッ友って誓ったじゃん!」


「いつの間にかズッ友認定されてた?!」


「さっき拳をガッてやったでしょ。友達でしょ。じゃあ、叩くの違うくない?!」


「違うくあるわけではなくもない」


「じゃあ、何故……」


「寂しかったから……」


「うーわ……。銀髪で肌が白いからメンヘラムーヴよく似合う……。外見は美人なのに中身クソガキでギャップ酷いな……。ねえ、殺しちゃったら、ますます一人で寂しくなるのでは」


「確かにクリームコロッケ!」


「じゃあ、叩いたら駄目だからあげ」


「分かったのじゃ……。叩くのはSNSだけにする」


「もっとやめて! なんでそんな酷いことするの?!」


「ほら、私、プレミアムフライデーだから」


「プレミ……? ヤンデレ! 多分、言いたいのヤンデレ! 一文字もかすってない!」


「ンとレが被ってるのじゃ」


「え? ……プ、レ、ミ、ア、ム、フ、ラ、イ、デー……。被ってるの、デだよね?!」


「セーイチローも被ってるのじゃぁ」


 ユウが視線を僕の股間に降ろす。


「うわっ……。どん引き……。ライン超えだよ、それ……。謝って」


「ごめんなのじゃ……。ところで、ついさっき、ワシのこと中身クソガキって言った?」


「ところで、死んだらどうなるの? まさか、現実世界で死んだりしないよね?」


「ところで、そこは大丈夫なのじゃ。その体はさっきも言ったように、ヒューマンの意識が入っているだけで、リアルなコピー人間なのじゃ。3Dプリンターでガーッてやった感じ」


「ガーッか……。ところで、ゲーム世界とはいえ、リアルなコピー人間がいるのは、軽くホラーなんだけど」


「ここで死ねば装備品と所持品を失って、初期装備で最終セーブ位置で復活するなのじゃ。ところで、クソガキについて詳しく」


「あ。よくあるパターンか。ところで、無理矢理ところでって言うのやめん? あと、やっぱ死ぬのは怖いし抵抗があるから、攻撃しないで」


「分かったのじゃー。でも、動かないヒューマンを見ていたら、つい、叩きたくなったのじゃ! これはもう配信神としての本能なの!」


「この手のゲームでコラボ相手を殴ったことのない配信者はいないと言っても過言ではないから、その気持ちは分からんでもないけど……」


「なーのじゃ! ところで、あっ……」


「あ、いや、わざとじゃなく普通に『ところで』って言う分にはいいよ」


「うん。じゃあ、このナイスバデーを目の前にして中身クソガキと言った件について」


「はあはあ……」


「き、急に吐息が荒いのじゃ。そんな。渚の視線釘付け悩殺ナイスバデーを見て、我慢できないのは分かるけど……」


「待って。視界がうっすらと灰色になってきた。はあはあ……」


「死にかけじゃから、そのまま放置しとくと死ぬのじゃ」


「はあはあ……。マジか……。こういうゲーム世界なら、何か食べたら体力が回復するのが定番だけど……。周囲を見渡しても、お店はない。狩りで獲物を獲るか、何かしらの植物を得るしかないのか……」


 この世界の動物がどの程度の強さか分からないし、狩りは逆にこっちが狩られる怖れがある。


 果物を採取するのが安全だよな。


 進行方向にある森で果物を収穫できればいいんだけど……。


「というか、森、遠ッ! 中断する前ずっと歩いていたけど、まだ到着しないんだけど!」


「地球と同じスケールじゃから」


「やめて! そこは、こう、数分で次の地形なり街なり、何かしらに遭遇できるくらいのスケールにして。僕がここにいられるのが一日に一時間だとして、目の前に見えてる森に到着したら終わりだよ。こんなん雑談配信しかできないよ」


「えー。今、雑談してるし、成功なのじゃ」


「それはそうだけど、世界のスケールは一〇〇分の一でもいい気がする」


「分かったのじゃー。次にセーイチローがログインするまでに直しておくのじゃ」


「頼むのじゃ。はあはあ……。ねえ、この息切れ、治らないんだけど。歩いて体力が切れているのか、ダメージで瀕死だからか、どっち?!」


「ワシの巨乳を見て興奮して吐息が荒くなっているだけなのじゃ」


「そういう疑惑をかけられたくないから、見ないようにしてたのに!」


 こんなに歩くのは初回だけだと思えば足は軽くなり、僕はユウと一緒に雑談しながら東を目指した。


 ユウはいかにもゲームといった感じで、ピョンピョン跳びはねる。


 勢いを付けずにジャンプするし、足の位置が僕のお腹の高さまでくるし、空中での姿勢が徒歩と変わらないし、空中で体の向きが変わるし、ゲームジャンプの動きだ。


 ……僕も同じなのかな。


 ジャンプしてみた。


「高い!」


 自分で自分を見れないけど、歩行時の姿勢のまま、身長の半分くらい跳べた。


 もう一回ジャンプし……。


 空中で体を横に向ける!


 出来た!


 物理法則を無視して、目の前の方に体が少し移動してから着地した。


 滞空時間が長かったし、ゲームジャンプだ!


 楽しい!


「わしの方が高く跳べるのじゃ」


「負けないし!」


「きゃっきゃっ! セーイチロウさん、こっちこっちー!」


「あははっ。待てーっ。それは海辺で言ってよー」


 僕はユウと一緒にピョンピョン跳ねながら東を目指す。


 足下に起伏がなくなるとユウが走りだしたから僕も走る。


 なんか、疲労ゲージらしき物が表示されてどんどん減っていく。


 ゲージが尽きたら走れなくなった。体力が尽きたようだけど、僕自身は疲れない。


 え。じゃあ、息切れはガチでユウを見て興奮していたの? 5分くらい自己嫌悪するわ……。


 疲労ゲージはすぐに回復した。


 僕達は再びピョンピョン跳ねながら東を目指す。


 見た目はリアル系のゲームなのに、モーションが『マインクラフォト』だな……。


 だんだんと違和感が出てきた。


「ねえ、ユウ」


「んー?」


「この世界の仕様に、僕が意見を出していいんだよね?」


「そうなのじゃ。ご意見募集中なのじゃ!」


「じゃあさ、ジャンプの仕様、変えない? 見た目とアクションの解像度が違うというか。ジャンプの方が移動が速かったり敵の攻撃を避けやすかったりすると、あらゆるプレイヤーがジャンプしまくって、画面がうるさくなる。ジャンプ自体がなくてもいいかも?」


「そういう変更なら一瞬なのじゃ! ……これでどうじゃ?」


 特に何も実感はないが、ジャンプの仕様が変わったのか?


 試してみるか。


 僕はジャンプし――。


「できない! ジャンプできなくなってる!」


「うんこ踏ん張ってるみたいな顔しててウケる~」


「ゲーム仕様によっては困らないし、現実世界でもジャンプなんてしないし、これでいいよね?」


 記憶を漁っても、現実世界でジャンプしたのは……身体能力測定の垂直跳びまで遡る?


「ジャンプする仕様に戻したくなったら言うのじゃ」


「うん」


「こ」


「そういう下ネタやめて」


「ねえ、実際、うんこどうするのじゃック・オー・ランタン?」


「あー……。うんこをアイテムとして利用するゲームもあると言えばあるけど、なしのほうこうで」


「うんこなし了解~」


 そうこうしているうちに、森の手前に到着した。


 草原と森の間に低木がまばらに生え、そこに赤い実が成っている。


「これ、食べたら体力が回復するんだよね?」


「そう思うなら、そうするよ!」


「なるほど。じゃあ、そうして。これは体力が一つ回復するアイテムだ」


 僕は赤い実を取って食べてみた。


 あ。美味しい。想像どおりちょっと酸っぱいけど、美味しい。


 一粒食べるごとに灰色のハートが一つ赤色になる。


 五粒食べたら体力は満タンになった。


 空腹ゲージみたいなのも少し回復した。


 これも僕が望めば、空腹ゲージが存在しない世界になるのかな。


 しかし、簡単すぎても楽しくないだろうし、先ずは空腹ゲージがあったままでいいか。


 メロン艦長もこの手のゲームでよく食料がなくなって死んだり、コラボ相手と食糧問題でもめたりするし、それが面白い。


 最終的には妹にこの世界で配信してもらうということを意識して、仕様を決めていこう。

 適度にピンチになる方がゲームは楽しいだろうしね。


 とはいえ、回復アイテムが簡単に手に入りすぎか?


 三〇分以上歩いた気がするし、逆に入手困難か?


 初期位置の近くは回復アイテムが手に入りやすい方がユーザーフレンドリーなのは間違いないし、先ずは様子見だな。


 自分で世界の仕様を決められるなんて、なんか楽しいな。


 さて。


「入手したアイテムはどうなるの?」


 僕は果物を両手にもぎってみた。今すぐ食べるつもりはないけど……。


「インベントリに入るのじゃ」


「インベントリ……いわゆるアイテムボックスか」


 スッ……。


 果物が消えた。


「インベントリに入ったアイテムを見るときはどうするの?」


「見たい! って念じるのじゃ!」


「やっぱりそれか。念じてばかりだな、この世界」


 僕は瞼を閉じて、所持アイテムを見たいと念じてみる。



 レッドベリー:2



 脳裏に枠が一〇個表示され、そのうちの一つに赤い果物のイラストと『レッドベリー:2』という数字が書かれていた。


 意識を集中すると『ベリー科の実。食べると体力が僅かに回復する』という解説文が表示された。


「おおおお……。アイテムを一〇種類まで格納できるんだ。これ見ると、ゲームしてる感が出てきた。めちゃくちゃ楽しい。誠一郎、ワク、ワク!」


「アイテムを格納しただけで楽しめるなんて、お手軽なのじゃ~。ユウもワク、ワク!」


「いや、でも、視聴者が見慣れているような定番のことでも、配信者はわーって驚くべきだよ。視聴者は、そういう反応を見たいんだし。それに、ゲームをあまり遊ばない視聴者にとっては、やっぱ新鮮な驚きだし」


「なるほどなのじゃ。驚きが大事なんじゃな。教えられたのじゃ~」


「ちゅっ! 神様に教えちゃって、ご~め~んっ」


「きゃあっ!」


 なんだ。いきなりユウが顔を両手で覆って悲鳴をあげた。


 僕の背後に何かいるのか?


 僕は反射的に振り返る。


「まさか、モンスター?!」


 ……特に何もいない。


 森があるだけだ。奥の方は暗くて不気味だが、モンスターが潜んでいる様子はない。


「ユウ、どうしたの? 今の素が出ちゃった感じの悲鳴は何?」


「セーイチロウ、裸なんだもん。驚いちゃった」


「確かに、驚きのリアクションが重要って言ったけど! 今まで平気だったでしょ!」


 なんてこった。僕はどちらかというと、計算してボケてリアクションを誘うタイプの人間だと思うんだけど、ユウにはツッコミさせられまくっている……。

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