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8. メニューを出したり一時中断したりして、ゲーム世界のシステムを確かめる

「ところで、ここには倒すべき魔王とか、世界を支配する帝国とかいる感じ?」


「いないのじゃー」


「じゃあ『あつまろう 野獣の森』とか『マインクラフォト』みたいなゲームかな? サンドボックスとか箱庭っていうジャンルだっけ……」


「多分そう」


「良かった。ゾンビの徘徊する世界で7日間生き延びる的なのじゃなくて……」


「ゾンビ、出す~?」


「出せるの?」


「もちろんなのじゃ! ワシは配信神なのじゃ。なんでーも、でーきるーわ~♪」


「いきなり歌うのやめて。しかもよりにもよって、ネズミで有名なスタジオのアニメ。権利関係が怖いし。それと、ゾンビはなしで! えっと……。世界の仕様に関わるようなどんな要望でも出してもいい感じなの?」


「いいよ! むしろガンガン出して! いっぱい出して」


「となると、最優先で決めたいのはモンスターだけど……」


 悩ましいぞ。


 パン一の僕としては、モンスターと遭遇したくないし、仕様は早めに決めておきたい。


 けど、モンスターのことは迂闊には決めたらいけない気がする。


 もちろん、殺されたくないから危険なモンスターは要らない。


 しかし、配信映えを考慮するなら、モンスターと遭遇して危機に陥った方が盛り上がるし……。


「うーん。とりあえず、いったん保留で」


「いったん木綿。了解」


 あっ。妹もよく口にする『了解』というフレーズで思いだした。


「ところで、アパートの僕はどうなってるの? 長時間こっちに転移してたら、妹が心配するんだけど」


「厳密には異世界転移ではないのじゃ。ゲームしていると思ってくれていいのじゃ。セーイチローのコピーされた肉体がここにあって、意識だけこっちに来ているのじゃ。本体はアパートで寝ている感じなのじゃ」


「あ。そうなんだ。じゃあ、こっちに来れるのは、肉体が動いていなくても不自然じゃない状況の時か」


「うん。わしら夜の関係じゃね……」


「言い方ぁ」


「わしとしてはいっぱいこっちに来てくれると嬉しいのじゃが、セーイチローにもリアルに充実した生活があるじゃろうし、適度なところで中断して戻ればいいのじゃ」


「中断? キャラクターエディットのときみたいな?」


「うむ。ゲーム世界に来た今なら、『メニュー』から『肉体に戻る』を選べば、いつでも戻れるのじゃ。ゲームから出れば、配信からも自動で出るのじゃ。配信世界の中にこのゲーム世界があるんじゃけど、最初のうちは区別しなくても大丈夫なのじゃ」


「なるほど。で、メニューはどうやって出すの?」


「『メニュー』って感じで念じるのじゃ!」


 ユウは両手で頬をムニューっと潰して、変顔をしてきた。


「君は説明が下手なタイプか。それはメニューじゃなくて、ムニュ~ッ」


「ヒューマン! 目がついていないの? 無乳じゃないのじゃ! ワシは巨乳なのじゃ!」


「あの、僕、高校生だし、そういうセンシティブなの遠慮してもろて……」


「いいから、こうやってメニューを開くのじゃ!」


 僕は真似して、両手で自分の頬を挟む。


「メニュー!」


 何も起こらない。


「ぶふっ……。笑わすな! 真面目にやるのじゃ」


「真似しただけなのに……」


 僕はふてくされたフリをしつつ、内心ではユウの反応が嬉しかった。


 ユウは最初から――あ、いや最初は僕が逃げたけど――手が届くような近い距離に立っているし、僕を真っ直ぐ見つめてくる。


 そのことが嬉しい。


「僕達、友達だよな!」


 僕が拳を突きだすと、ユウも拳をだして重ねてきた。


「脈絡ぅー。友達でいいけど、なんでいきなりー? 会話の流れどうなったのじゃ?」


「へへっ! 空気読めないってよく言われる!」


「まったくもー。短時間に二回もガッ! するとは思わなかったのじゃ。わしのことは同じ箱の先輩のようにうまや、うやまら、うまらや……うらやしまがってくれるかと思っていたのに、初手でフレンドリームーヴしてくるとは思わなかったのじゃ。度しがたいヒューマンなのじゃー。手を出すのじゃー」


「こう?」


 僕が手を出すと、ユウが両手で掴んで、指を押したり曲げたりしてくる。


 ちょっとくすぐったい。


 視界の上に横長のメニューバーが表示された。僕達は東に向かって歩き続けていているが、その速度に合わせてメニューバーも一緒に移動する。


「次からは同じ操作でメニューを出せるのじゃ」


「操作を覚えていないというか、自分じゃ再現できない」


「えーっ。そういうこと言って、またユウの手を触りたいんだー」


「……うん!」


「マ?! ヒューマンのくせに神をびっくりさせるとはなんてやつ!」


 ユウは僕から離れる方向にピョコンと跳ねて、体を左右に揺らす。


「ちょっと、別の意味でもドキドキしちゃった! もー。ここはそういうゲームじゃないけど、そういうゲームにしちゃう~? 全年齢向けの世界だけど、パンチラくらいなら見せちゃうよ~?」


「すでにパンチラレアリティがコモンの、丸出しの人に言われても……」


「か~ら~の~?」


「メニュー操作ってどうやるの? 自分にしか見えていないタッチパネルを触ると、傍から見るといきなり踊りだしたように見えない?」


「身振りでいけるけど、念じてもいけるのじゃ。か~ら~の~?」


 僕はメニューを操作する。


 アイテムとか装備とかマップとか、定番のメニューが並ぶが、『肉体に戻る』はない。


 まあ、こういうメニューだと、『メニュー画面に戻る』的な機能は『オプション』とか『設定』の辺りに紛れ込んでいるんだよな。


 念じて操作すると、確かに『設定』のサブメニューに『肉体に戻る』があった。


「あ。すぐに戻ってくるなら、一時中断がいいかも」


「あ。そういうのもあるんだ」


「直立不動になって『一時中断』って念じてみるのじゃ」


「分かった」


「さっきも言ったように、このゲーム世界は配信世界の中にある一つに過ぎないのじゃ。他にも様々な世界があるのじゃ。お主が元の部屋に戻ると、スマホではゲームが起動していて、一時中断状態になっていると思うのじゃ。そこから戻ってくるのじゃ。もし間違って閉じたりフリーズしたりしたときは、ワシの動画チャンネルに入り口を用意しておくから、そこの最新動画にアクセスして戻ってくるのじゃ!」


「分かった」


「ちゃんと戻ってきてね?」


「うん。じゃあ、いったん落ちます」


 僕は体育の気をつけポーズで、『一時中断』と念じてみた。


 体にかかる重力の方向が変わり、世界が変わったと実感できる。


 僕は自宅アパートの布団で仰向けになっている状態だ。


「あっ……」


 枕元周辺を探り、スマホを取る。


 スマホの画面ではブラウザの動画サイトではなく、いつの間にかインストールされていたらしきゲームが起動していた。


 ゲーム画面には先程の景色がやや白みがかって表示されており、中央に直立不動の僕が映り、ちょっと斜め上から見下ろしたようなアングルになっている。


 画面中央で僕の体に重なって『ゲームを再開する』という文字が表示されており、いかにも、一時中断中のゲーム画面みたいだ。


 画面越しに見る僕の姿は、不思議とゲームキャラクターのCGのように見える。


 いや、しかし、こうやって見ると、僕ってけっこう格好いいな?


 カスタマイズの自由度がそれほど高くない洋ゲーのプレイヤーキャラとして用意されるデフォルト一六種類くらいに含まれていてもいいくらい、特徴的なんだけど無個性な顔をしている気がする。


 僕の周りを飛び跳ねているユウも、3DCGキャラクターに見えるけど、こっちは下着姿のくせに和製RPGの聖女キャラみたいに、作り込まれていてヒロイン感がある。グラの格差凄えな……。


「早く戻ってくるのじゃよー」


 とイヤホンから声が聞こえてきた。


 返事をしようかと思ったけど、ここで僕が喋っても声が届くとは思えない。


 ゲームのチャット機能を使うか、配信のコメント欄に返事を書き込めばいいのだろうか。


 いや、少しくらい黙っていても問題ないだろう。


 僕は布団から出るとシンクに行き、水を飲み、軽く深呼吸。


 いったん落ちつこうとすると、無理だった。


 胸がかつてないほどドキドキ高鳴ってる。


 縄文土器、弥生土器、分度器、あとなんだっけ。もっといっぱい、土器はあった気がする。


 まじで、異世界転移的なやつしてた。僕、ゲーム世界に行ってた。ヤベえ。


 異世界ファンタジー漫画の無料第一巻みたいなことって、本当にあるんだ。


 あっちに大きな家を造ってスローライフしちゃう?


 でっかい動物を飼う?


 モテモテハーレム作っちゃう?


 あ。いずれユウに頼んで、あの世界で玖瑠美も配信させてもらうんだから、ハーレムはまずい。兄が獣耳奴隷メイドに「ご主人様」なんて呼ばせていたら、ドン引きされて兄妹の縁を切られてしまう。


 落ち着け。深呼吸ひっひっふーっ。


 よし。再開しよう。


 僕は布団に寝転がってから、中央の『ゲームを再開する』ボタンをタップする。


 その操作中に見えた画面では、ユウが僕の周囲を飛び跳ねていて、僕の体に格闘ゲームのヒットエフェクトみたいな光が出ていた。


 ドカッ! ドカッ!


 という効果音も聞こえてくる。


 何事?!


 と思っているうちに、僕はまたゲーム世界に戻っていた。

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