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6. ゲーム世界に戻った僕の前に、センシティブな格好をした外国人女性が現れた。絶対やべえ人だ!

 動画の長さ……三時間?!


 ど、どうしよう。


 視聴回数が0ということは、ユウは誰も見ていないのに、三時間も僕を待ち続けているって……コト?!


 怒られるかもしれないと、恐れている場合ではない。


 すぐに謝らなければ。


「お兄ちゃん。そろそろ電気消すー」


「うん」


 僕と玖瑠美は布団に入り室内灯を消した。


 それから僕は配信のサムネイルをタップして、再生を始める。


 スマホの光が広がって僕の視界を覆い尽くした。


 何も見えない真っ白な空間だ。


「うぇっへーい! 戻りましたなーのじゃっ!」


 僕は、ユウの挨拶を真似して、敢えて明るくしてみた。


「……」


 返事はない。しかし、なんとなく気配を感じるというか、ユウに声が届いているような気はする。


「遅れてごめんなさい……。えっと……。僕は一九時から二二時までコンビニでアルバイトしていて……。だから、戻ってくるのが遅れました。ごめんなさい」


「……嫌になったわけじゃないの?」


 拗ねたような声だ。けど、怯えた子猫の鳴き声のようにも聞こえる。申し訳ない気分がこみあげてくる……。


「……うん。嫌になってない。本当に、ごめん」


「……じゃあ、許す」


「ありがとう」


 良かった。許してくれた。けど、申し訳なさが残る。


 何をすればいいのかよく分からないけど、これから挽回していこう。


「うぇっへーい!」


「うぇっへーい!」


「では、ゲーム開始なのじゃ!」


 ……ところでなんのゲームなんだっけ?


 そう思った次の瞬間――。


「あれ?」


 僕は草原に立っていた。


 草原?


 草原って……。


 一瞬混乱するが、草原は草原だ。


 それ以上でも、それ以下でもない。


「本当に異世界転移だ……」


 僕は首を振って視線を動かす。


 草原の先は、全方位が小高い丘か森に囲まれている。


 太陽の位置から察するに、北と東の彼方に、高山があるようだ。


 そよ風が肌をくすぐってくる。幻ではないリアルが僕を包み、五感を刺激してくる。


「思ったように体が動くし、微妙に寒い……」


 それにしても、なんか体に違和感がある。


 なんだろうと思って首を曲げて視線を下げると、僕はパンツしか穿いてなかった。


「パンイチで草原に放置されるって、なんのゲーム?! サバイバル系?!」


 わけがわからないけど、ここは開放的すぎてちょっと辛い。


 南の丘を登って周囲の地形を確かめたいという思いはあるが、東に少し行けば森があるし、あっちに行くか。


「ここが『マインクラフォト』みたいに素材を収集してアイテムを作成していくゲームなら、とりあえず木を叩いておきたい……。ゲーム実況者の誰かが言っていた。『森にはすべてがある』――と」


 ということで、僕は東の森へ向かうことにした。


「クラフト系のゲームなら、最初に作るのは作業台だよな……。うわっ!」


 思わず声を漏らしてしまった。だって、視界の左下にいきなり青い枠と白い文字が表示されたから。


「なんだこれ」



 ユウ:とりあえず合流したいから動かないで



「まるで、ゲームのチャットだ……」


 手を伸ばすが触れない。貫通した。


「なるほど。確かにゲーム世界っぽい……。『動くな』か。どうやって返事するんだろう」


 僕は言葉どおり右も左も分からないから、ユウからのメッセージに従うことにした。


「ユウは最初に『ワシが配信しているゲーム世界』とか言っていたよな? ちょっと記憶が曖昧だけど、ユウ視点で何処かに配信されている可能性がある……。となると、出演者として、面白くなるように立ち回る必要があるな」


 たぶん、僕に求められているのって、そういうことだ。



 ユウ:あ。見えたのじゃ。イエーイ!



 向こうからはこっちが見えたようだけど、こっちからは見えない。


 ということは後ろか?


 僕は映えを狙って、ダンサーのように華麗に鋭く振り返り、ポーズを決める。もし、生配信じゃなくて、あとで動画に編集するなら、いい感じの効果音でも入れてくれ!


 ?!


 五〇メートルほど斜め後方の丘の上に、下着姿の銀髪女がいた。


「なんで?!」


 パンツだ! 痴女だ! 露出狂だ!


 ワンチャン水着の可能性もあるけど、距離的に判別不能。


「やべっ。こっちに近づいてこようとしている」


 絶対に関わったらいけない人だ。僕は痴女とは逆の方向へ逃げだす。


「ユウ、助けて! なんか半裸の女の人が襲ってきた! 他プレイヤー?! この世界にいるのは僕だけじゃないの?! 倒されたらどうなるの?!」


 メッセージの送り方が分からないから、僕は声で助けを求めるしかない。



 ユウ:メッセージを送っておるのも、セーイチローの背後にいるのも、ワシなのじゃ!



「え?」


「うっかり! この距離なら声が届くからメッセージを送らなくても良かったのじゃ~!」


 うっかり! 僕は立ち止まり、上半身だけとはいえ振り返ってしまった。


「やっぱり下着だ! うちの妹が体育の日に着けていくようなヤツ。あ。やべ。リア(いも)の下着事情を喋ってしまった。ピー音入れて!」


 僕は慌てて姿勢を直して、半裸女に背を向ける。


 さっきより近づいていたから分かったけど、大人の外国人だ。外国人が大人びて見えることを差し引くと、同年代かもしれない。


 髪が銀色で肌が透きとおったように薄いし、日本人じゃない。


 胸が洋ゲーって感じのサイズなんだけど、和ゲー(ビーチバレーとか格ゲーとか)って感じに激しく揺れていた。


 あ、いや、じっくり見ていないから全部気のせいかもしれないけど。


「なんで背中向けてるのーじゃっ?」


 声が接近してくる。どうしよう。


 視聴者はゼロだ。しかし、いつか誰かがアーカイブを見るかもしれないし、切り抜き動画が作られるかもしれない。


 だったら、ここは、面白いリアクションをするしかない!


 僕は振り返り叫ぶ。


「おっぱいデッカッ! スライムが襲ってきたかと思った!」


 くーっ。恥ずかしい。


 しかし、これで僕は、初対面の女性の胸のサイズに言及するエロ野郎というキャラが立ったはず。ユウが恥ずかしがっても怒っても、動画は面白くなる……はず。

 さあ、どういう感情をノせてもいいから、突っこんでくれ!


「え~? えへへ? 触る?」


「やめて、怖い。嬉しそうにしないで。やめて! 恥じらって!」


「改めて、よろしくなのじゃ! わしがユウなのじゃ」


「あ。どうも。僕はセイ――」


「ピー!」


「――です。なんで人の名前にピー音いれるの?! 放送禁止?! あ。プライバシーの配慮?!」


「まったく、カミヤマ、セーイチロウは粗忽者なのじゃ」


「フルネーム! そこにピー音、入れて! なんでセーイチロウって呼ぶの?! オンゲーで使ってるセイウチって名前あるから、そっち使ってよ!」


「覚えたぞ! お前の名前、一生、忘れないからな!」


「バトル漫画のやられ役の台詞ぅ!」


 やばい。

 こいつ、破壊力の高いボケタイプだ。

 艦長のコメント欄で鍛えられた即レス力のおかげで、なんとか対応できたが、少しでも油断したら持っていかれる……!


 それにしてもユウはなんか独特な喋り方をするし、テンションが高い人だな。


 いや、配信神とか言ってたし、人じゃないのかな。


 あっ。だからか。

 人じゃないから、異性なのに会話しやすいんだ。


 それはそうと……。再生数ゼロでも、僕は視聴者の疑問を代弁するぞ!


「なんで僕達は下着姿なの?」


「無課金の初期状態だからなのじゃ」


「そういうことかー。めちゃくちゃ納得できる理由だったー」

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