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川下先輩視点3:くそっ。顧問代理の竹田が文句を言ってきやがった。ふざけんな!

 上山の名前と住所をネットに晒しても、まだ怒りが収まらねえ。


 あのカスのせいでなんで俺が炎上したり、事務所契約がなくならないか不安になったりしないといけないんだ。


 あーくそっ。イライラする。


 月曜日。


 登校すると教室の生徒は少ない。二月で、受験シーズンだしな。


 俺みたいに進路が決まっている優秀なやつと違って、なんの才能もない三年生は未だに必死に試験を受けているんだろう。俺は暇つぶしの登校さ。


 ネットでは軽く叩かれた俺だが、リアルの知り合いはみんな何が正しいか知っているから、俺に「イベントよかったよ」とか「後輩に嫌がらせされて可哀相」とか「頑張って」とか、応援や同情の声をかけてきた。


 これが、部活ューバーの力だ。全国的な知名度や人気では企業に所属しているプロには勝てないが、この学校内なら、いや、この地域なら俺が最強だ。だから、俺が言ったことが真実になる。


 誰もカス山の言葉には耳を貸さないはずだ。


 午後。部活の時間になった。


 俺達は部室に集まり、イベントの売り上げ三〇万円をどうするか話しあった。


 カス山がイベントホールや機材のレンタル代、オンラインチケット販売サイトの手数料などを計算して、儲けが出ない価格設定にしたときはどうしようかと思ったが、チケットの値段変更や追加販売や、会場での飲料販売のおかげでなんとかなったぜ。


 特に会場でガチ恋勢のおばさん二人が、事務所所属記念のリアルスパチャ(現金入りの封筒)をくれたのはデカい。


 部への貢献度を考慮すれば、俺が一五万で、残り一五万を吉野、島本、佐々木、本田、田中で山分けでいいだろうな。


 トントントン。


 ん?

 誰かが部室のドアをノックした。


 まさか、カス山が退部になったことを忘れて、来ちまったのか?


 ガラッ。


 ドアを開けて入ってきたのは、巨乳で話題の数学教師だ。


 どうやら、リアルイベントの成功を褒めに来たようだ。


「みなさん、集まっているようですね。話をさせてください」


「はい。なんでしょう」


 うおっ。近くで見るとマジでデケえな。


「SNSに、元部員の上山君が配信部の部費二〇万円を盗んだという書き込みがされていますが、心当たりのある方はいますか?」


 ……ちっ。そのことかよ。


 本来の顧問がSNSに興味なんてなさそうなおばさんだったから、つい油断しちまった。代理の竹田先生はSNSを見るタイプか……。


「えっと、なんのことですか?」


「こちらを見てください」


 竹田先生が、A4用紙を取りだした。


 Xitterのスクリーンショットを印刷したものだ。内容は読まなくても分かる。


 ――虹ヶ丘第三高等学校配信部の部費二〇万円を盗んだ上山誠一郎君、リアイベで会場自販機の飲料を買い占めて高額転売する金の亡者っぷりを見せつけるだけでなく、部員の私物を盗んでいた?!


「うわ。なんですか、これ」


 もちろん俺は、初めて見たふりをする。


 他の部員に紙を回す。余計なことを言わないように、軽く釘を刺しておくか。


「みんな、こんなの知らないと思うけど、一応、見てくれ」


 印刷物がひととおり回覧されると、竹田先生が俺達を順に見てくる。


「みなさん、こころあたりはないですか?」


「もちろんです」


 くそ。まずいな。動画のことを追及されると、言い訳が難しいぞ。


 動画にはモザイクをかけたが、さすがに室内を見られたら、カス山がゴミ箱からゴミを拾っていただけだってバレてしまう……。


「上山君に私物を盗まれた方はいますか?」


「……」


 くっ。どうする。本当に何か盗まれたことにするか?


 一つの嘘が切っ掛けで、他の嘘がバレるのは困る……。


 あのとき捨てた砲塔メロンのフィギュアは、カス山のスマホに通販の購入履歴が残っているかもしれないし、ノートは上山の筆跡で文字が書いてあるし……。


「べ、別に何も盗まれていません。みんなは、どうだ?」


 他の部員も、盗まれた事実を否定した。


 くそっ。なんで俺達がこんなことを追及されないといけないんだ。


「では、配信部の公式アカウントで、部費と私物の窃盗の件を否定してください」


「え?」


「公式アカウントを管理しているのは、前部長の川下君ですか? 新部長の佐々木君ですか? すぐに、本校生徒に関する疑惑を否定する文章を作成してください」


「……佐々木。上山のためだ。やってやれ」


「うす……」


 くそ。なんで俺達が、上山のためにそんなことしないといけないんだ!


 しかし、どういうことだ。


 追及されるのは部費と窃盗の件だけか?


 リアルイベントの失態を上山のせいにしたことについては、何も言ってこないのか?


 あいつの退部届を俺が出したことは、何も言ってこないな。


 俺は佐々木に協力し、部としての公式声明文を作成した。書き上げても、竹田先生がチェックして修正を求めてくるせいで完成まで一時間以上かかった。


 しかし、巨乳を間近で見れたから満足だぜ。俺は竹田先生の授業を受けてなかったから、じっくり見る機会はなかったけど、実際に見るとマジで凄いな。軽く勃起しちまった。佐々木の野郎も勃起してんだろうなあ。


 はー。竹田先生の生乳、見てえ。上着だけでも脱いでくれねえかなあ。


 声明文は佐々木が公式アカウントに投稿した。


「明日も話があるので、全員、部活に参加してください」


 公式アカウントを確かめると、竹田先生はあっさりと帰っていった。


 ケツもデケえな。明日、先生が来る前にスマホを録画状態で何処かに隠しておくか?


「川下先輩……」


 佐々木が泣きそうな声を出してきた。


 どうやら、教師が動いているから不安になったようだ。


 気が小せえなあ。教師とはいえ、女だぜ。俺みたいに、半勃起するくらいの余裕を持てよ。


「気にすんな。カス山が調子に乗って、嫌がらせをしてきやがっただけだ。すぐになんとかなる。みんなも気にすんな。明日には全部解決しているから、俺に任せておけ。ほら、もう暗いし、帰るぞ」


 やせ我慢じゃない。俺には本当に、やつに報復する手段がある。


 佐々木が文章を書いている間、俺は今後の作戦を練っていたからな。


 俺に逆らったらどうなるか、目に物を見せてやる。


 俺は家に帰ると、Xitterにメッセージを投稿する。


 ――VTuber事務所に所属することを発表したのは絶対に自分の意志ではありません。イベント前日に部員が許可なく台本を修正したせいです。気づかずに読んでしまったことは反省しています。


 我ながら絶妙な文章だ。


 上山の名前を出していないし、これなら竹田先生も何も言えないだろう。


 さらに、俺はぱじめちゃんのフォロワー一覧を表示する。


 目的のアカウントは……。


 ……いた。俺にリアルスパチャを投げてきたガチ恋勢。


 俺が上山から嫌がらせを受けて困っていることを、こいつらにダイレクトメッセージで伝える。


 俺ほどの才能を事務所が手放すとも思えないが、このままだとソングステージとの契約が破談になるかもしれないと仄めかす。


 くっくっくっ。


 あとはこいつらが勝手に、上山をつるし上げて炎上させてくれるはずだ。


 鬼女達の力、思い知れ!


 さらに、暴露系Xitterにも情報提供しておくか。


 炎上させて燃やし尽くせばそれが事実になる。


 俺は何もする必要はないし、一切、関わらない。他人が勝手に上山を攻撃するだけだ。


 盛大に炎上すれば、竹田先生もカス山に問題があるって気づくだろう。


 結局最後は仲間が多い方が勝つんだよ!


 デジタルタトゥーを刻まれて地獄に落ちろ!


 勝利を確信した俺は、ゆっくりと飯を食った。


 部屋に戻るとベッドに寝転がって「数学 教師 巨乳 エロ」で検索すると、夕方に見た竹田先生を思いだしながら、気分転換をする。


 ふーっ。


 俺はスッキリした気分でXitterをチェックする。


「マジかよ!」


 スマホを持つ手が震えた。


 上山の家が囲まれてやがる。ちょっとしたお祭り騒ぎだ。


 マジウケる。さすが鬼女。この短時間で家を特定して何処かに晒したようだな。優秀過ぎるだろ。


「おいおい、マジかよ!」


 俺は嬉しさのあまり、思わず声を出してしまった。脚をじたばたと動かす。


 VTuber業界のトップ砲塔メロンが、俺の呟きをリクシートしてる。


 俺が砲塔メロンに認知されたぞ!


 凄い勢いで、俺の呟きが拡散されていく。


 業界トップまで俺に味方してくれるなんて、最高すぎるだろ!


 メロンはまさか、俺とコラボしたいのか?


 もしかして、俺のリアルイベントをロボライブ関係者が……いや、メロン本人が見に来ていたのか?


 俺の才能、ヤバ過ぎだろ。


 おっ。電話がかかってきた。佐々木か。


「おい。こんな夜中になんだよ」


「川下先輩、大変です」


「あ? Xitterの件か?」


「そうです」


「それなら把握してる。砲塔メロンも俺に注目しているらしいな。俺の才能なんだから、こんなの大したことねえよ」


「そうじゃなくて。あのっ、配信、見てますか?」


「あ? なんの?」


「メロンの」


「見てねえよ」


「すぐに見てください。大変なことになってます」


「あ? なんだよ。じゃあいったん切るぞ」


 俺は通話を終えた。


 マジかよ。


 佐々木の慌てっぷり。まさか、砲塔メロンが俺を紹介しているのか?


 将来の人気爆発が約束された魅力的な高校生VTuberがいるとでも言っているのか。


 やっべえ。震えてきた。


 俺、一気に業界トップに行くんじゃねえのか?


 デビューしてすぐメロンとコラボしたら、注目度は半端ない。他のVからもコラボ依頼が殺到するだろうし、企業案件も大量に来るはずだ。


 俺は心臓が高鳴るのを感じつつ、砲塔マロンの生配信を再生してみた。


「それで、なんの話だっけ。あ、そうだ、おでんと言えばコンビニ! 思いだした。途中から見てる人の為に、もう一回、言うね。いーい? くれぐれも本当の犯人を捜そうとか、誰かを攻撃したいとか、そういうことじゃないからね? 一人の男の子を護るために言うんだから。画像、見えるかな」


 これは、上山の盗撮動画だ。なんでメロンがこんな画像を出すんだ?


「……最近、話題になっている高校配信部で、ある男の子が部費を盗んだとか、イベントの台本を書き換えてタレントに迷惑をかけたとか言われているけど、それは全部、間違いです」


 ……は?


 はあ?!


 なんでメロンがそんなこと言ってんだ?!


「部費については、私のマネちゃんがその配信部出身だから学校に問い合わせて、盗まれた事実はないって確認してます。うん。それで、盗撮動画が出回っている子が台本を書き換えたというのも、絶対に、ない。少し前の配信で、私、お店で酔っ払いの人に絡まれたところを高校生くらいの店員さんに助けてもらったって言ったよね? それ、動画のこの子だよ。だから、台本が書き換えられた日時のアリバイは、私が保証する。それにこの子、マネちゃんの後輩だからイベントの当日一緒にいたよ。だから、一連の疑惑はすべて無関係です」


 待て、何を言ってんだ。


 なんだ。震えてきた。息が苦しい。


 マネージャーが、うちの配信部の出身?


 吉川のことか?


 あいつ、ロボライブに入っていたのか?!


 メロンと吉川が、上山のアリバイを保証する?


 なっ、なんでだよ。関係ないだろ。


 うっ。

 電話がかかってきた。と、登録されてない番号だ。いったい誰だ。


 Xitterの通知も鳴りやまない。どうなってんだ。


 待て。待て。どうなってるんだ。


 くそっ!


 俺はXitterを表示した。


 俺の呟きが、三〇〇万インプレッションを超えている。バズりまくってる。


 お、おい。みんな、俺が台本を改編された被害者だって信じてくれたから拡散しているんだよな?


 ま、まさか、メロンの言葉を信じている奴等が拡散してるのか?


 俺は自分の呟きの引用を表示してみた。


「うっ……! なんだこれ! ふざけんな!」


 引用の一番上に表示されたのはメロンの書きこみだ。この件について、配信で説明したいことがあると書いてあるだけだ。俺に対しては何も言及していない。


 しかし二番目に表示された引用、つまり、二番目に注目を浴びている引用だが、タロちゃんとかいう聞いたこともない無名のクソザコYaaTuberだ。


「【全部説明します】動画の少年は配信部員ではない。リアイベの失敗を押しつけられただけの被害者――だと。なんでそんなことお前が知っているんだよ! 適当なこと書きやがって! 人のバズりに自分の動画のURL貼ってんじゃねえよ!」


 くそっ!


 俺は引用欄をスクロールする。


 動画の少年はイベント会場で行列整理していたから部員だよ、という書きこみがある。上山がイベント会場にいたはずはないから図書館職員の誰かと見間違えたんだろうけど、これは好都合だ。リクシートして拡散だ。


 全部上山のせいにしてやる!


 俺を疑っているやつら、全員Xitter公式に通報してやる!


 俺は何時間もかけて手当たり次第に通報した。


 さらにアカウントを切り替えて、サブ垢でも手当たり次第に通報する。


 さらに、ぱじめちゃんは悪くないと書きこむ。


 くそっ。また知らない電話番号からの着信だ。夜中の三時だぞ。ふざけやがって。


 俺はスマホの電源を落として寝ることにした。


 だが、ベッドに入ってもネットが気になって眠れない。


 俺は寝ずにネットを検索し続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 上山と山下で対になってることに今気付きましたが 同じ字が入ってると混同しやすいので 川下でも良かったのではと思いました
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