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40/46

40. 中の人に抱きついてしまった僕は諸事情により立てなくなってしまうんだけど、そのことを中の人に見抜かれてしまう……

 僕は一連の炎上騒動のエンディングを勝手に妄想していた。


 しかし現実では、僕はゲーム仕様により自分の意志とは関係なくメロン艦長の中の人と抱きあい、胸にメロンを感じている。


「メロンさん何やってるんですか。相手は未成年だって何回言えば分かるんですか。誠一郎、離れて。玖瑠美ちゃんがいるんだし、そういうの駄目でしょ」


「私は混乱中だけど、えっと……。メロンちゃんとお兄ちゃんが仲良くなったら、サイン貰えるかなーって」


「サインするする! 市役所に行かなきゃ!」


「メロンさん、何にサインするつもりですか! 段階すっ飛ばしすぎです! 相手、未成年! 誠一郎、離れろって!」


 そう言われても、僕は黙って抱きしめるしかできないんです!


 あ。中の人が脱力した。


 顔真っ赤で、完全に湯だった感じだ。


 僕の体に自由が戻ってきた。しかし、力を抜いたら、中の人が倒れてしまう。

 今だけ僕は、自分の意志で女性を抱きしめ、支える。


「玖瑠美、先輩、この人を支えてください」


「うん」


「お、おう。急に正気に戻ったな」


「すみません。先輩。詳しくは言えないんですけど僕の意志じゃないんです。玖瑠美、この部屋での僕の行動は、全部ユウ絡みだから。分かってくれ!」


「分かった。むしろそうじゃなかったら、逆に驚く」


「理解力高くて助かる」


 僕は玖瑠美と先輩に協力し、中の人を床に転がした。


 そして、その動作の流れで僕は、床に座り膝を抱えた。


 その、なんていうか、僕は、センシティブネタを多用する艦長を最推しにするような、普通の男子高校生だからというか……。


 よく漫画の似たようなシーンで「立てなくなってしまった」とか「前屈みになるしかない」とか、そういうのあって、つまり、僕も、メロン艦長のメロンを感じて、そういうわけで……。


 コートを着ているから大丈夫だと思うけど、念のために体育座りをするしかない。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「うん。大丈夫。今の、ユウ関連のことだって信じてくれてありがとう」


「ん」


「……二人とも、とりあえず場所を変えておでんでも食べよっか。言いたいことも聞きたいこともいっぱいある」


 まずい。今はまだ移動できない。時間を稼がなければ。


「誠一郎。どうした?」


「お兄ちゃん?」


「えっと。この人は……」


「ほかっとけ」


 と、先輩が冷たく言い放つと、「やだぁ。マネちゃん。酷いぃー」と中の人は床に転がったままごねた。


「メロンさん。貴方くらいの年齢の女性がだらしないと、男子高校生は幻滅してドン引きしますよ。ほら。立って」


「はぁーい……」


 なんか、中の人は想像よりだいぶ緩いな。


 しかし、よろよろとはいえ中の人が立ちあがってしまったので、女子三人は起立、僕だけ体育座りという状況になってしまった。


 僕が立ちあがらないから、先輩は「ん?」と首を傾げた。


 クソみたいな選択肢が出る前に、自力で言い訳しなければ。


「あ。今日は色々あって疲れて……」


「そっか。大変だったもんな……」


「お兄ちゃん、迷惑系配信者に突られたんです」


 先輩と玖瑠美は僕を心配してくれる。僕が立てない理由はそれとは関係ないから、ちょっと心苦しい。


 しかし、僕の最推しは、やはりセンシティブの申し子だった。


 中の人は何かに気づいたように一瞬だけ瞼を上げると、口元に薄らと笑みを浮かべ、僕の傍らに、ちょこんとしゃがむ。


 そして、僕の耳に吐息を吹きこむように、生リアルASMRをしてくる。


「もしかして、たっちゃったから立てなくなっちゃった? お、男の子って、そうなんだよね?」


「……?!」


 見抜かれてる!


「主砲、発射準備しちゃう? 艦長が、て、手伝って……あげ、よう……かな……」


「あっ。誠一郎、そういうことか! こら、メロンさん! 完全にライン超えです! なんてこと言うんですか! 痴女ですよ! 通報しますよ!」


「で、でも、センシティブワード、言ってないよ?」


「言ってなくてもアウトです! これがトラウマになって、たたなくなったらどうするんですか!」


 先輩、やめてくれぇ。あまりそういうことを言わないでくれぇ……。


「え。お、お兄ちゃん、どうしたの? 立てないの? ねえ」


 玖瑠美は意味が分かっていないから、僕を立たせようと手を差し伸べてくれている。


 ありがとう。優しいなあ。でも、今は駄目なんだ……。むしろ、生リアルASMRのせいで、もっと立てなくなっている。


「ほら、お兄ちゃん。立って」


 あ、こいつ、口元が薄らと笑ってる!


 分かって僕をからかってる!


「マネちゃん、ここで食べよー」


 中の人が僕の隣に腰を下ろし、肩に体重をかけてくる。


「……はあ。まあ、そういうことなら、それで構いませんけど。メロンさん、女子校オンリーで育ったせいで、距離感を間違えてますからね」


「大丈夫。さっき、私と乗組員の同人誌を読んで、勉強したから」


「絶対に駄目なやつ! あとになってやらかしたことに気づいてへらって配信できなくなっても知りませんからね。ゲーム配信や雑談配信は中止や延期ができても、企業案件や撮影は絶対、やらせますから!」


「分かってるぅ」


「今は配信直後のハイテンションかもしれませんけど、明日の朝、絶対『もうやだぁ。恥ずか死する……』ってベッドから出られなくなりますからね」


「そんなことないよぉ」


「まったく……」


 先輩がクッションを拾って放り投げてきた。これが艦長や、ポコラやノシロちゃんやクレアちゃんがオフコラボ配信のときに座ってるクッションか。


 僕は膝を閉じたままお尻をあげてクッションに座った。ちょっと緊張する。


 玖瑠美はコートを脱いだが、僕は着たままだ。恥ずか死しそう……。


 こうして僕達は配信部屋でおでんを食べることになった。


 先輩が折りたたみテーブルを用意した。僕達が上山家に残してきたものよりも、遥かにお高そうだ。これが生きる伝説と言われる、ロボライブ一期生のみなさんがオフコラボのときに使うテーブル。写真を撮りたいけど我慢だ。


 テーブル正面に先輩、左側に玖瑠美。艦長は僕の右隣……。右側の席ではなく、僕の隣だ。中の人の位置が明らかにおかしい。


「はい。誠一郎君。あーん」


 わ、わあ。


 中の人が僕の名前を覚えている。先輩が僕の名前を何度も呼んでくれたおかげだ。


 様々な感情が込みあげてきて、僕は胸が高鳴る。


 艦長の中の人に名前を覚えられ、あーんされ、ゆで卵丸ごとを口に近づけられる。


 晩ご飯はもう食べたけど、これは食べるしかない。


 え。というか、待って。ゆで卵を一口で行く感じ?


 ゆで卵なんて、少しでもバランスを崩せば箸から零れ落ちる。


 運良く囓ったときに箸に残ったとしても、黄身が崩壊する。


 一口でいくしかないのか?


「もぐぅ……」


 僕は一口でいった。


「すごーぃ。一口で食べちゃった。男の子だぁ……」


 もぐぅ……。食べ切れてなくて、口の中が玉子パラダイスだよ……。


 僕は万が一にも吐きださないように、両手で口の周りを覆う。


 その様子を見た玖瑠美が、はっ、と何かを閃いたように瞳を大きくした。


 絶対、余計なことを言うぞ。


「ウミガメの産卵!」


 やめろ!


 笑かすな。殺す気か!


 本当に産卵して散乱したら大惨事だぞ。


 僕は必死に笑いを堪える。艦長の配信部屋を汚すわけにはいかない。


 そ、そうだ。もしかしたら――。


 エモート『虚無』!


 まさか、これを多用するとは思いもしなかった。マジで、これが一番役立っているまである。


「誠一郎、ど、どうした、その顔」


「わー。誠一郎君、可愛いー」


 よし。笑いは落ちついた。僕は、虚無が終わったから、玉子をもぐもぐした。


 玖瑠美はテンションがおかしいようだ。寝不足による精神の疲労が蓄積したからか、逃避行のストレスから解放されたからか、業界トップVTuberの中の人と一緒に食事をしている興奮からか……。


 僕が抗議のために左を見ると、玖瑠美は『やるぞ!』とでも言いたげに、キリッと勇ましい表情をした。


 まじか。やるのか。


 おまえ、この場で謎のクソ度胸を発揮するのか。


 確かにお前は先輩と初めて会った日もやったし、今も、やろうってのか。


 くっ……。


 お前がやるというのなら、兄としてつきあうぞ!


「お兄ちゃん。何食べる? もっちり巾着?」


「餅入り巾着な。もっちりしてるけども」


「じゃあ、ロうル、キャベつぅにする?」


「イントネーションおかしい」


「でぇこん」


「なまるな」


「焼き乳首!」


「焼きちくわ! 一文字違うだけで大惨事!」


「ロボライブの人達がいるところで、『二次大惨事』の話はちょっと」


「たまにコラボしているからセーフのはず」


「ぽんじり一本、入りまーす! お兄ちゃんのいいところ、見てみたい! ぽんじり! ぽんじり!」


「ドンペリじゃないんだから。あと、ぽんじり、じゃなくて、ぼんじり!」


「じゃあ、これ何?」


「ハラミ串」


「正式名称は?」


 僕は軽く深呼吸してから、早口で一気に言う。


「モーソン限定、国産昆布と鰹だしが染みるあったかおでん、炭火焼き鳥ハラミ串、税別一四〇円」


「ただいま焼きたてで~す」


「いかがでしょうか~」


「今、何円?」


「個数を聞いてよ。数えてたんだから!」


「だって、お兄ちゃんが指を折ってるの見えたから……。何円?」


「値段なんて計算してなかったよ! 多分、七〇〇円くらい」


「あ、袋、いいです。汁だくで」


 玖瑠美が両手でお椀を作り、僕の方に腕を伸ばす。


「手ぇっ?!」


 僕は、ミニコントを終わらせるため、大きい声で短いツッコミを入れた。


 うーわ。玖瑠美、中の人にドヤ顔を向けてる。私達の即興ミニコント、どうですか、ってことなんだろうけど、お前、マジで度胸すげえな!


 僕は恥ずかしくて、視線をテーブル上のおでんに落とした。


「あははっ。おもろっ! 二人ともおもろっ!」


 あ。笑い方は艦長っぽい。


「私もVになれますか?」


「なれるよ。玖瑠美ちゃん可愛い。デビューしたらコラボしよー」


「やったー!」


 リップサービスだろうけど、業界トップに認められた。良かったな、玖瑠美。


 僕はおそるおそる顔を上げ、先輩に講評を求める視線を送る。


「面白かったよ。二次大惨事とモーソンのくだりを消せばショート動画でいけそう。ただ、玖瑠美ちゃんが誠一郎にどのおでんを食べるか聞くシチュエーションで始まったのに、最後、誠一郎が店員で玖瑠美ちゃんが客になっていたのは、気になったかな。誠一郎がコンビニでアルバイトしていたことを知っていた私は理解できたけど、知らない人が動画で見たら、いきなり役が変わっていて戸惑うかも」


「確かにクリームコロッケ」


「マネちゃん厳しー」


「いいんですよ。本人が、しごかれるのを望んでいるんだから」


「誠一郎君、年上の女の人に、しごかれたいんだ……。え。えへっ。私も年上だよ……。あとで、しごいてあげよっか……」


 な、なにを?!


「メロンさん、次センシティブしたら社長に伝えますから」


「うぐぐ……!」


 可愛い!


 中の人の生うぐぐ可愛い!


「いいもーん。わたし、焼き乳首、食ーベよ」


 中の人がちらっと僕を見てきた。


 ツッコミ、誘ってる?!


 無理ですよ!


「おっきい……。お口に入らないかも……。あふっ……あふっ……。はふはふ。おつゆ、溢れてきちゃった……」


 なんか、言い方がエッロい……!


「……本当に社長に言おうかな……。誠一郎。この人は、素でこういうことをする人だから。参考にしてほしくないけど、勉強するならこういうところ。でも、玖瑠美ちゃんの教育には悪いから気をつけて」


「うん。気をつけます」


「私、意味分かってるから大丈夫です!」


「分かってる言うな! 分からないふりして!」


「誠一郎君の突っこみ、可愛い……。あ。誠一郎君。ぷりけつ、どうぞ。あーん。お口の中に突っこんであげるから、私にもつっこんで。……ほら。恥ずかしがらずに……。私のぷりけつ、突っこんで」


「ぷ、ぷりけつじゃなくて、ぼんじりです……。一文字もあってません……」


 僕はオドオドと突っこんだ。


「あはは。誠一郎君に初めて突っこまれちゃったぁ」


 艦長の中の人が隣で笑ってくれる。


 夢かな、これ。


 僕、こんなにも楽しくして幸せでいいんだろうか。

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